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ヘクセンハウス事件

2011/12/26

 目の前には簡素な白い無地の皿。一見人間界にもある平々凡々としたもののようだが、プリニーの爆発に耐える魔力の加工が成されているため見た目から連想される価格以上に高価であることを知るものは少ない。
 しかし高価と言ってもたかが知れている。上層区住まいの悪魔貴族が日常的に使うものに比べれば桁が二つ三つほど違うが、それに関して彼は別に不便を感じたことは今まで一切ない。
 大体たかが食器だ。問題はそれを入れる食材にあり、そうして真にこだわらなければならないものこそがそちらだろうと彼は信じてやまない。
 だから皿の上に乗っているものが食べられるものならそれでいい。目でも十分に楽しめる芸術性やら盛り付けのバランス感覚やらにこだわる気は一切ない。そう信じてやまない彼をして、しかし今回ばかりはその意見を翻すしかない物体が眼下にあった。
「……なんなのだこれは」
「……なんなのでしょうね、本当に」
 鸚鵡返しに応じたのは天使の女。盆を両手に抱えて笑うがその片頬は居心地悪そうに引きつっている辺り、笑って誤魔化せるなんて考えてもいないのだろう。つまりこの娘はこれの製作に一切関わっていないと暗に知らされて、ようやく吸血鬼は安堵の息を吐き出した。
 だが相手はそう受け取らなかったらしく、何故か焦った様子で懇切丁寧に説明を始める。
「あの、これからはあまり連想できませんけれど、今日はわたくしとフーカさんとデスコさんとでジンジャークッキーのお菓子の家を作りましてね。ヘクセンハウスとも呼ばれるものなのですが」
「ああ……いつかは忘れたが朝から台所を貸し切らせろと言ってきたな。あれが今日だったか」
「ええ。クッキー生地はわたくしがあらかじめ作っておいたので、型抜きや飾りつけをおふたりが担当していただいて。結果としてはそれなりの見栄えと味のものが完成しましたので、こうして皆さんにお裾分けに……」
 それなりの見栄えと味と、言われても。眼下に広がる光景は、悪魔にしては珍しく馬鹿正直な性格と呆れ気味に称されることも少なくない彼をして瞬時に疑いの眼を向けざるを得ない代物で。
 そんな青年の気持ちを手に取るように察したか。娘は慌てて製作者たちのフォローを始める。
「いえその、別におふたりも悪気があってこうした訳ではありませんのよ!? 完成当時は躁に近い状態でしたから、冷静な判断力を失っていたと申しますか、思いやりが裏目に出たと申しますか……!」
「結果的に善意の押し売りになってしまったと。まああの小娘どもが狙ってこんな真似をしたのなら、大いなる知性の芽生えだと手放しで褒めてやったところだ」
「随分と痛烈な皮肉ですわね……」
 しかし昂然と反論をしない辺り、この娘が製作者たちと青年どちらの肩を持っているのかは自ずと知れる。
 それも当然。誰がどう見たって、吸血鬼の前に置かれたものは悪意なく構成されたようには見えないのだ。とは言え、腹を壊すこと確定の虫が湧いた生ごみやら、炭にしか見えない焦げた物体やらを差し出された訳でもない。
 内容はごくシンプルにアイシングが施されたジンジャーブレッドマン、スポンジケーキ、マシュマロ、生クリーム、ラズベリーソース。それらの盛り合わせが本日の地獄党党首殿に差し出された小休憩用の間食である。彼の好物に一掠りもしないが苦手なものも混入されていないので、それらが普遍的に盛り付けられているようならまだ彼も義務的にフォークを取って夕食を励みに食したことだろう。しかし今、ふたりの視線を一挙に浴びる物体は――
「死体が発見された雪原の模型を食わされるのだ。それくらいは大目に見ろ」
 残酷だが悲しいほど的確な表現を用いられ、天使の娘は無理からに作った空笑いで返答を濁す。
 一面に山と盛られた生クリームやマシュマロだけならまだいい。これだけならまだうんざりさせられる程度で済むのだが、そこに半端に埋もれた虚ろな笑顔を張り付けた人型の、無残にも三つか四つに割れたジンジャークッキーに何かしらの悲壮さを感じ取ってしまえば、このデザート盛り合わせから感じられる胸の悪さはまた別種の酷さを生み出す。
 ジンジャーブレッドマンの周囲に配置された、脆く崩れたスポンジケーキと煉瓦型の模様が刻まれたクッキーの一部、砕いたアーモンドが、崩壊した一軒家の瓦礫を彷彿とさせて。更には人型の割れ目を隠す意図が伺える、血の毒々しさを連想させる鮮やかな石榴のジャムとラズベリーソースが決定打。逆に言えばその彩りがあるからこそ簡素な無地の皿の上は、室内にいたにも関わらず雪崩に巻き込まれて運悪く圧死したジンジャーブレッドマン氏の悲劇的な最期の光景を見事表現していた。
 今や地獄どころか魔界で最も注目を浴び、歴史に名を残す英雄とまで謳われたこの血を吸わない変わりものの吸血鬼が、今年一年を終えるまであと八日と差し迫った本日。ともに戦った仲間のふたりであるなり損ないプリニーの小娘とその妹たるラスボスを目指す人造悪魔の童女から、この日のためのプレゼントとして贈られたものがこれだ。
 なんでも人間界では今日は一年の中でも元旦と同じくらい特別な日らしいが、神の子とされる男が人間界で生まれた日を何故悪魔が祝わねばならないのかについて、あれこれと力説していた姉妹はついぞ説明しなかった。そのためふたりのリクエストであるもみの木の飾りとやらの購入を蹴った男は、翌週同じ面子に台所を貸してほしいとせがまれたのだ。それくらいなら好きにしろと許可してやった結果が件の家で、ともかくその甘味の一部が、つまりこのありがた迷惑なお裾分け。
 しかもこれを持ってきたのは同じく仲間のひとりであり、彼にとっては四百年前に出会った忘れえぬ想い出の女にして、以降多大なる影響を受けた唯一無二の存在のもとは人間、現在は天使となった娘で。彼女に対して色々と甘い自覚がある青年は、こんな悪趣味な砂糖の山を差し出されても相手を悲しませたくないと思えば部屋から追い出す気なぞ湧いてこないのが今はいっそ恨めしい。だからと言って男を見せるためこの皿のものを一気食いする気もまた湧いてこないし、そんな姿を見せたところで相手も喜ばないだろうが。
「……あの、とりあえず一応一口だけでも召し上がっていただけませんか。残ったものは甘党の方にでも処理してもらいますから」
 それどころか天使はこうして、凄惨な物体を差し出された吸血鬼に救いの手を差し伸べるほどの思い遣りに満ちている。真っ当に主を思い遣るならこんな食欲を減退させる物体を最初から目に触れさせるなと彼の僕である人狼なら怒りそうなものだが、生憎とその悪魔も製作者たちである押しの強い姉妹によって似たような目に遭っているか、もしくはそれを予期してふたりから逃げ回っていることだろう。
「ふむ。確かに味の感想を聞かせろとせがまれれば困るしな……」
 ゆえにそんな正論を思いつきもせず申し出を能天気に受け入れて、しみじみと娘に感謝の眼差しを送った彼はようやくフォークを持つ気を湧き立たせる。そのまましばし迷ったが、とりあえず毒々しい光景の最大の原因であろうブレッドマン氏の遺体を食すと決めて掬い上げる。
 しかしその介入は逆効果だったらしい。赤いソースやジャムが上半身が消えてしまった被害者の血痕及び内臓として雪原に更に無残な印象を残し、悪魔でさえもなかなか気が滅入る光景が広がってしまう。だがこれはあくまで菓子だ。そう自らにきっぱりと言い聞かせた彼は無造作にそいつを口の中に放り込み、黙々と咀嚼して喉の奥にノルマを押し込んでしまおうとするが、喉は予想以上に上手く動いてくれない。
 青年とて悪魔として長らく生きてきた以上、この菓子の模型より凄惨で生々しくて残酷な光景を目にしたことは何度もあるし、これ以上の光景を自ら作り出したこともある。だがそれとこれとは別問題らしい。ここ数百年間の偏食が悪影響を及ぼし、この苦痛を長引かせているのかもしれない。
 なんと言えばいいものか。生クリームの濃厚さと歯に染みそうな甘さと口の中に広がるバニラの香りのくどさが、食欲を秒単位で削り取っていくのだ。ジンジャークッキー自体は恐らく真っ当にスパイスを利かせた味付けのような気がするし、毒々しい色のジャムやソースは既製品のため相応の程好い酸味があるはずなのだが、それらをも超えるクッキーにべったりと付着していた生クリームの甘さと存在感が今の彼にとっては酷く重い。甘いものは一種類を除いて苦手ではなかったはずなのに、また一つ苦手なものが生まれそうな予感がするほど、まったりを凌駕してもったりと重い。
 このまま順調に行けば吐き出しかねないと危機感を覚えた彼は、視界に入ったカップをすぐさま手に取り口の中に含む。こちらは天使の娘が丁寧に淹れてくれた、砂糖を一切入れていない珈琲の苦味と酸味がようやく生クリームに打ち勝って――いや、まだ生クリームのほうが優勢かもしれない――どうにか混合物を喉の奥に押し流すことに見事成功。そのまま続けて珈琲を飲み干し、口内にしつこく残る甘ったるい後味もなんとか流し清めて大きく、限界までの素潜りからようやく浮き上がったような具合の息継ぎをする。
「……ぶぁッ!」
「お、お粗末様でした?」
 ぜえぜえと肩を荒げる吸血鬼に、娘は憐憫と労わりの笑顔を浮かべるも少しばかり退き気味なのはどうしたことか。自分の言動を全て肯定してほしいなどと馬鹿げた主張をする気はないが、割合必死にこの試練を乗り越えた青年にとって彼女の反応は些か不満が残る。
 そうして微かに拗ねたような表情を作った青年を無視する気なのか。天使はいまだ彼の眼下に鎮座する皿をまた盆に乗せてから、珈琲のカップも一緒に乗せて早々と退室の支度に取りかかる。女が今日ここを訪れて十分経ったかどうか曖昧なくらいの短時間なのにもう出て行くのかと、吸血鬼はますます眉間の間に刻まれた皺を深くした。
「……ほかの連中にも配って回らねばならんのか」
「いいえ? わたくしはおふたりから、あなたひとりを担当するよう仰せつかったのですが」
 軽く皿を掲げて見せる仕草に、彼は相手の意図をしっかりと汲んでしまってどうとも言い辛い表情で口先を尖らせる。本心は不明だが、天使の娘にはこの吸血鬼が残したデザート盛り合わせを喜んで食べる誰かを見つけに行かねばならない用事が急遽できてしまったらしい。
 しかし青年にとってはそんなもの、久々のふたりきりの時間に比べれば天秤にかけるまでもない。
 何より彼もまたこの魔界に住まう悪魔であるからして、相手の都合より自分の欲望を優先することにそれほど罪悪感を覚えない生き物だ。別に小一時間も拘束する気はないと自分に言い聞かせれば娘を見逃してやる気はますます失せて、彼は会釈しようとする天使の手から鮮やかに盆を奪い、椅子を半回転させて自分に近い位置にある書類の山の一部に避難させた。当然、背後から憤りの声が吹きかかる。
「ちょ……もう、急に何をなさるんですか!」
「これはプリニーどもに押しつけることにする。……朝から小娘どもに付き合わされてお前も疲れただろうが。ここで暫く休んでおけ」
 椅子の位置を戻しながら少しばかり声を潜めて気遣ってやれば、娘は鮮やかな薄青の瞳を瞬かせてからいえそんな、と微笑んでくる。その笑みは確かに天使らしく美しく清楚で、見るものの心を穏やかにさせるはずだろうに彼にとっては胸の奥が騒がしく高鳴ってしまう不可思議な効力を持つ。今はそんな不意の動悸にももうすっかり慣れてしまったが、たかが笑顔や仕草だけで振り回されてしまう自分に戸惑ったり疑問を抱いたりしたのは、さてどれだけ以前のことだっただろう。
「わたくしにとっても楽しい時間を過ごせましたもの、疲れてなんていませんわ。おふたりともわたくしの指示にもきちんと従ってくれましたし、お菓子の家も可愛くできましたし、味もそれなり美味しくいただきましたし……お裾分けでここまで酷くなることだけは、予想外でしたけれど……」
 見惚れるほどの笑みにぎこちなさを滲ませ、再三申し訳なさそうに天使の娘はちらとこちらに視線をやるが、生憎と吸血鬼の青年は気遣いの眼差しに鷹揚な態度で応じてやれるほどの余裕はなかった。さっきも似たようなことを聞いた気がしたか、一口だけでもあの盛り合わせを味わった今なら彼はその評価に大いなる疑念を持ってしまう。
「……美味かったか?」
「……あの、そんな予感はしたのですが。美味しくありませんでした?」
「食べれるはずのものを食って吐き気を催したのは久し振りだった」
「そうでしたの……」
 嘘偽りない感想に、娘はあからさまに肩を落とす。そんな顔をされてもあの子ども舌の上に甘党の姉妹の味覚が、イワシを偏愛する男の味覚とかち合うはずがないのだからとっとと諦めてもらおうと思った青年は、ここでようやく相手が悄然としている理由を察する。この天使は確かクッキー生地を担当していたと先ほど説明していたのだ。つまりあのジンジャーブレッドマンもまた彼女の手によって生み出されたものだと考えを改めれば、彼の感想は傷付かれても仕方ない。まずい。
「ち、違うぞアルティナ! 吐き気を催したのはお前ではない!」
「は?」
「い、いやお前の作ったほうではない! あのクリームがだな、歯に染みるほど甘い上にもっちゃりとしていて……」
 と思い出してとにかく酷い出来の生クリームだったと伝えようとするはずが、あの気持ちの悪さもまた口内にリアルな感覚でぶり返してきてもとより青白い吸血鬼の肌が更に悪く、土気色に近くなる。気付けを兼ねて珈琲を飲みたい一心から盆の上を覗くも、白いカップには豆の糟が底に溜まっている光景が虚しく広がり、一気飲みしてしまった過去の己を彼は猛烈に恨んだ。
「……悪いがまあ、そのくらい酷いものだったのでな……」
「そう、でしたの。……でしたら、クッキーのほうには特に大きな問題はありませんでしたのね?」
「恐らくは……まあ、なかった」
 曖昧な表現で悪いとは思うが、それだけ生クリームが酷かったのだと再度強調した彼に、そうでしたのと女は一応納得の姿勢を見せる。それでも気になることがあったのか、小首を傾げて過去の振り返るように小さく唸った。
「けれど、わたくしがおふたりと一緒に食べたときはそんなに酷くはありませんでしたわよ? ……もしかして、わたくしが見ていないうちに粉砂糖でも降ったのかしら」
「かもしれんな。まあ原因は俺にはわからんし、突き詰める気もない」
 暫くは生クリームなんぞ口にしたくもない心地で投げやりに呟いた彼に、あらあらと天使は苦笑を浮かべる。
「甘いものが苦手になってしまわれましたか?」
「可能性はある。何にせよ、今の俺にとってイワシに勝る食い物はない」
「それは絶対に仰ると思いました」
 くすりと笑った女は、そこで何か彼の顔の異変に気が付いたらしい。不意に青年を瞬きも少なく眺めていたと思いきや、無防備にも身を乗り出してひとさし指を至近距離まで差し出してくる。
「……何だ。何か顔に着いて」
「はい。さっきあなたが仰っていた……」
 つと、丁度彼の口の端。唾液で湿った口内に触れるか触れないかの曖昧なところに、ふっくらとした白指が、温かくてなめらかな質感を持つそこが、軽く拭い取るような動きをして。
「生クリームが着いていましたので」
「……そ、そうか」
 本来ならば短く感謝の言葉の一つでも投げかけるべきところだろうに。自分の唇に娘の指が触れた事実に、まるで思春期の子どものような動揺を示す内面を抑えつけるのに精一杯な青年の目に、更に追い討ちとして信じられない光景が映る。
 いやしかしこれを過激と表現するのは悪魔の中でも初心な子どもくらいのものだろう。けれどこの吸血鬼にとって、胸の悪さが一瞬で吹き飛ぶほどの衝撃を受けたことは間違いないのだ。
 天使の娘が彼の唇から掬い取った生クリームを、平然と自分の口に運んで味見をする。青年の唾液に少しは濡れたかもしれなくて、また唇にこびり付いたものを拭い取った訳だから間接的な口移しに近いはずなのに、相手はさして気にしたふうでもなく自分の指を舐めて。
「なっ……!」
「……確かに。あのときより甘い、かも?」
 簡単に、それだけしか考えていなさそうに軽く眉をしかめて呟いた。
 いやそれより前に何かあるだろうがとの反論がすぐさま頭の中に浮かんだ吸血鬼ではあるが、口は池で餌を求める鯉さながらはくはくと開閉するばかりでまともな意味を持つ言葉は発せられない。
 対する娘は暢気なもので、けれどこれくらいなら別に殿方でも平気ではないのかしらとぼやきながら、彼のほうをまともに見ないまま形式的に会釈をして踵を返そうとする。つまり本気で、自分がしでかしたことに気付いていないらしい。
「い、いやお前、アルティナ……!」
 それはいくらなんでもおかしくないかと、もしかして自分を異性として見ていないのかと。そうだとしたら来年に引きずる勢いで傷付くと、そんな気持ちを籠めてようよう立ち上がり声を荒げた青年に、ようやく娘は振り返るもこのときもやはり大切なことを理解した顔をしていない。
「はい?」
 真っ直ぐに自分を見つめてくる薄青の瞳は凪いだ湖めいて澄み煌いており、いつもの彼なら能天気にぼさっと見惚れていたことだろう。もしくはこの天使の娘の眼差しと意識を、このときばかりは自分が独占できることに幼稚な喜びを覚えたかもしれない。だが今は生憎とそんな余裕はないのだ。
「……あ、あの、な……」
「はい、どうかされました? ……もしかして、やっぱりお皿はこちらでお預かりしておきます?」
「そうではない! そうではなくて……!」
 じれったく頭を振った男は、顔が熱いし頭も胸も落ち着かないが、やはり自分がしっかりと言うしかなさそうだと実感させられてまず深く静かに長々と息を吸い込む。続いて息を吐き出すついでに勇気を振り絞り、――しかし的確な表現が不幸にもすぐには出てこなくて、かような表現で彼女を注意する羽目になった。
「あんな真似はするな! その、俺以外に!」
「……は?」
 唐突にそんな言葉で怒られた娘は、数秒間理解不能とばかりきょとんと目を瞬いていたものの、彼の態度と視線とでようやく何を指し示されているか理解したらしい。
 新雪をそのまま映したように白い肌が、見る間に彼女の髪と同じく鮮やかな桃色に染まって、目が一際大きく見開かれたと思いきやすぐに恥ずかしそうに伏せられ、唇から声にならない悲鳴が漏れる。その悶絶の声の与える初々しさに、またもうっかり男の胸が切なく甘く高鳴った。
「あ……の、その……!」
 もつれる舌を復活させる余裕もないのか、娘は我に帰った顔をするとぱっと彼に頭を下げる。それから居た堪れなさそうにドアノブに取っ組みかかり、扉を開けていく様子がまた普段とかけ離れてうろたえ気味なのがどうにも微笑ましく。
「も、申し訳ありませんでした……っっ!」
 無駄の多い動きで最後の扉も開けて、彼のほうへと辛うじて振り返り謝った娘の動揺振りがあまりにも酷いものだから。彼は唖然と、と言うより最早さっきまでの自分の動揺を忘れた蕩け気味の頭で手を掲げ、気にしていないと仕草で示すと扉が力強い音を立てて閉められる。
 一連の天使の様子を脳裏に再生し、くすくすと思い出し笑いを浮かべた男は以降無自覚ににやけていたようだ。感想を聞きに来た姉妹が彼の顔を一瞥し、セクハラだのエロ親父みたいな顔だの散々酷い言葉を放ってくるまで、彼の浮つきは収まることはなかった。





後書き
 多分4魔界はクリスマスがほかの魔界より認知されててかつ「あ? なんで聖人の誕生日なんぞ俺らが祝わなならんねん」的な考えを持ってる悪魔が多そうだなつまりフーカすんたち的に自分なりのクリスマスの楽しみ方をパーティー以外で見つけるほかなさそうだな→そうだ、ヘクセンハウス作ろう! と相成りました。
 実際は作ってる最中も書きたかったけど時間切れぐぬぬ。
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