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・『暴君』を討ったもの

2011/09/14

 ハゴスパパンが好きです。アルティナちゃんも好きです。ただそれだけです。
「人間の血を吸わないと生きられないなんて、可哀想ですわね」
「わたくしの血を吸うのでしたら、どうぞ」
「でも、これを最後にほかの人の血は吸わないで」

「……ほほう。よもや、そのような言葉であの『暴君』が討たれるとは。事実は小説より奇なりとはよく言ったものだ」
「討つだなんて……わたくしは、ただ約束をしただけです。吸血鬼さんにそんな物騒なことをしたつもりなんてありませんわ」
「確かに貴女にとってはそうやもしれぬがな、貴女のその言葉と約束があるからこそ、あやつは『暴君』を止めたのだ。
つまり、貴女が討ったも同然よ」
「……もう、ですから違いますのに。貴殿は紳士的な方と伺ったのですが、やはり悪魔らしく物騒な言い回しがお好きですのね」
「はは、確かにな。しかしその辺りはもう悪魔の男の性分ゆえ、諦めていただいたほうがよろしいだろう」
「そんなものなのかしら……」
「あれは違うと?」
「どんな方にもどんな理由であれ戦いを臨まれれば、それに快く正々堂々応じる方ですわ。けれど、野蛮な方だと思ったことはありません」
「それは貴女の前だからこそだろうよ」
「そんなことは……」
「あるとも。貴女は知らぬのだろう?
ヴァルバトーゼもまた悪魔として力に魅入られ、己の暴を高め求めて貪った男だ。でなければ『暴君』などと呼ばれるものか。
あやつにまつわる数々の逸話を英雄譚などと愚息は言うがな、あれは犠牲となったほうからすれば猛威であり脅威、単純にして純粋な恐るべき暴の結晶よ。
事実、余もまたあれと戦った際、何度も己の死を覚悟した。どれだけ追い詰めても獰猛に笑う奴に、恐怖さえ覚えたものよ」
「…………」
「昔話を聞かせてくれた礼だ。
余も、貴女の知らぬヴァルバトーゼについて教えて差し上げよう。構わぬかね」
「はい。……お聞かせください」
「……四百年前、畏れエネルギーに憂いなき魔界では、地道に地盤を築き上げ政拳交代を目指していた悪魔は多かった。余もその一人だ。
そんな折りにヴァルバトーゼの名をちらほらと聞くようにはなかったが、実際に実力があるかは不明、噂なぞ玉石混交だからな。
それでも政拳奪取の障害となる可能性があるのなら、いつか誰かが潰すもの。
ゆえに当初はいつあれが殺されたとの噂が来るか脳天気に待っていたのだが……いっかな、そんな明るい話題は耳に入らぬ。
それどころか徒党を組んだ誰それが返り討ちにされただの、どこぞの党首が暗殺を企んだが逆に崩壊の憂き目に遭っただの、奴の強さを証明する噂ばかりが流れ、『暴君』とさえ謳われた男はたちまちこの魔界に広く知られるようになった」
「…………」
「無論、あやつをどうにか懐柔しようとする者も多かった。
しかし奴は女にも金にも地位にも興味がないのだと、『暴君』を傘下に入れようと意気込んでいた連中は皆、失敗してから思い知った。
失敗後はどいつもこいつもどうにか命だけは助かったような有様で、それまでにあった傲慢さも地位も名誉も何もかもがあやつに破壊されたらしかった」
「……それだけ、その方々はあの方にとって好ましい姿勢を見せなかったと言うことでしょう」
「実際には、そうなのだろうな。
だが当時の多くの悪魔にとっては、その圧倒的な暴を旗印に政拳奪取を目論むでもなく、誰かの傘下に入る気もなく、何を求めているのかもわからぬ。
ただ接触を試みたもの全てに恐怖と悪夢を与えし存在――正体が見えぬ悪魔ゆえにまさしくあれこそは恐怖の権化だった。
末恐ろしい、未来永劫変わらぬ悪魔の中の悪魔が現れたのだと、あのときはよく囁かれていたものよ」
「…………」
「しかしあやつはその名を魔界に浸透させて百年もしないうちに魔界から忽然と姿を消した。
魔力を失ったとの噂もあったが、その理由までは判明しない。どうして魔力を失ったのか、どこの誰が奴の魔力を奪う何かをしたのか――ならば何故名乗りでないのか。
よもやこの噂は権力争いをしている我ら候補者の油断を誘う罠ではないか。そう、最初の二百年ほどは疑りながら生きておったさ。
まさか、地獄に堕ちた末にプリニー教育係になったとは露知らずにな」
「…………」
「そんな暗い顔をなさらずともよかろう。確かに貴女にとっては残酷な……」
「いえ、そうではなくて……その、申し訳ありません……。
そんな話を伺っても、やはりあまり、実感が湧かないのです。
わたくしにとって、四百年前の吸血鬼さんは自分に自信がおありの、風変わりですけれど優しくて、立派な方だと言う印象でしかなくて……」
「ほう」
「色々と物騒な逸話をお聞きしても、あの方はそんなに恐ろしいと言われる方ではないとずっと反発が残ってしまって。
……あの方に恐怖を与えられた方々も、噂に怯えて身構えて、自己防衛が過ぎた挙げ句に自爆した。わたくしには、そう思えてならないのです」
「……………………」
「……あ、あの?」
「…………自爆。自爆、か」
「い、いけない表現でしたでしょうか?」
「…………いや…………。
……は、ははっ。……ははは、はっはっはっはっはっ!!
いや傑作だ! さすがは『暴君』を討ち取った娘なだけはある!!」
「ですからっ、そんな物騒なことはしていないと!」
「く、ははははっ……ははっ、はははははっ!
……くくっ。では聞くがな、人間から天使となったはじまりの娘御よ。
貴女はどこの誰が、『暴君』に血を吸わせず魔力を失わせたと思うかね」
「そ、それは……」
「恐らくは、ほかの人間の娘と約束をしても同じ結果にはなるまいよ。
奴は貴女だからこそ約束を交わし、守り、貴女との約束のためならば『暴君』を捨てても構わぬと判断した」
「……その責任は、今でも感じています」
「あれが責任を追及してこなければ、感じる必要などあるまい。外野はそうはいかぬのやもしれんがな」
「…………」
「まあ、貴女がた天使にとっては悪くはない話ではないか。
『暴君』と呼ばれた悪魔の悪行を終わらせたのは更なる暴でもない、金でもなく色でもなく秘宝でもなく権力でもない。
優しさ、なのだとな」
「…………」
「もっと正確な表現はあるにはあるが、これは我が身も悪魔であるためさすがに言葉にはできぬ。
その点はご理解いただけるかな」
「……正確な、表現ですか?
はあ、まあ……」
「うむ、いかにも余が世帯者だろうが恋だの愛だのは口に……」
「…………は」
「うむ?」
「……え、あ、ええと。
……さ、さっきの言葉は、わたくし、聞かなかったことにしても構いませんでしょうか?」
「……ふむ、余としたことがうっかり言ってしまったか。
ああ、好きになされよ」
「は、はい……。
あの、それではわたくし、もうこれで……」ガチャ
「ああ、長らく拘束してすまなんだな。しかしこれであやつを待つのも苦に……」
「…………」
「…………」
「なんだ、いたのかヴァルバトーゼ」
「………………」
「………………」
「ちなみに、聞くが。お前はいつからそこにいた」
「……………………」
「……………………」
「………………ふむ。
あれか。余のほうが席を外すべきかなここは」
「「いらん(いいえ)!!!」」
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