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墨の午睡一稿目

2011/08/17

 お盆休暇中はちょっとリア充してましたー。けど一番彼氏いていいなあと思った瞬間は『CARNIVAL・BABEL』(歳がバレますね)をきちんとデュエットで歌えたと言う根っからオタクな点なのは多分リア充と言えない自覚はある。
 ので書けそうなネタはあっても何も書けてませんフヒヒってのはちょっと申し訳ないのでお茶濁し。超半端なところで終わってます。

 自分だって割とわがままを言って周囲を振り回すタイプだけど、父がときに自分以上にマイペースなのは十五年の間でしっかり理解していた。だからフーカはここでも真っ当なはずの怒りが悉く相手に通じていないことを痛感して問いかける。対する父は、やはり飄々と応じた。
「見てわからんのか、掃除だよ掃除。お前が急に襲いかかってきたもんだから、パパびっくりして珈琲落としちまってさ」
 そんなもん巡回式の全自動掃除機にやらせればいいんじゃないの、と思いかけて。父はそれさえもさせないほどここを秘密にしたかったのかと沈痛な気持ちになったのだが。そんなフーカの気持ちをさっぱり汲まず、白衣の男はのんびりモップで茶色の池を吸い取っていく。
「いやあ、娘に殺されそうになるのはなかなか珍しい経験だな。しかも相手は死んでるってのに」
 おまけに嫌な言葉までついてきて、フーカはいつもの調子で否定しようとするけれど、踵を返せば自分の遺体がある。幻でもなく見間違えようもなく、否定は無意味と言わんばかりに存在している。そう思えばまたあれを見返してしまうことが何より怖くて怖くて仕方なくて、真っ向から見ることも否定することも自分を誤魔化すことさえもできない。けれど、言い返すことはどうにかできるからやる。
「……アタシがもし、パパの言う通り死んでるんだったら、なんで殺せるのよ」
「死者が生者を殺そうとするなんてのは、今更飽きるくらいどこにでもある話だろ。お前が思ってるより、死人ってのは強いってことだ」
 強い。強いか。確かに強いだろう。父がバイオスーツと取っ組み合いをしたところで、研究によって造り出した人造悪魔たちと武器を手に勝負したところで一撃だって与えられず負けて殺されるだろう。しかし今のフーカはそれなりに凌げる自信がある。一対一であろうと多対一であろうと、生き延びる自信があった――そう、『生き延びる』。
 また立ち眩みを起こしそうになる。自分の遺体を背にして『生き延びる』なんて考える自分に、フーカは強い矛盾を感じずにはいられない。けれどそれでも、確かにここに彼女の意思はあり、胸に手を添えれば鼓動の音はきちんと聞こえてくる。だから生きている。多分そう、言える。
「……死人じゃ、ないわよ」
 必死に吐き出した言葉を、しかし父は淡々と否定する。モップが零れた珈琲を粗方吸い取り終わった。
「死んでるよ。お前は死んでる。デスゼットに襲われて、多少出血も怪我もしたが、頭の打ち所が致命的に悪くて死んだ。後頭部だから、あっちじゃわからんがな」
 父が顎で指すのは多分自分の死体なのだろうが、そちらを見返せずフーカはもう一度頭を振り乱しながら言い放つ。それしかできないと言われてしまえば、まさしくその通り。
「死んでないわよ! だったら、なんでアタシが、今こうしてここにいるのって話じゃない!」
「そりゃ今ワシと喋ってるお前が純粋な人間じゃないからだろ。……プリニーだっけか? 罪を犯した元人間の魂ってやつ。それの半端なやつなんだろ、今のお前は」
 それにも父はずばりと単刀直入指摘する。ぐうの音も出ないとはまさにこのことだが、相手は図星を指したことにもあまり気に留めていないらしく淡々とモップを持ってまた洗い場に向かう。胸の奥が色んな感情が溢れ返りそうになって立ち眩みさえするのに、指一本動かすことさえ難しいフーカとは正反対に。
「とっとと死んだことを認めて、来世のために魔界で金稼ぎすりゃあいいじゃないか。そんなとこで強情張ったってろくなことにはならんぞお前」
 ゴム手袋をはめ、洗い場でモップを洗う白衣の背中は、割合頼りになるけれど小うるさいどこぞのプリニー教育係の、ここさえなければと思うことと全く同じ言葉で、ますます冷静さを失った彼女はとにかく声を荒げて我を通す。
「うう、うるさいわよっっ! なんでパパにそんなことわざわざ言われなきゃなんない訳!? アタシのためにデスコたちを造っておいといて、そのアタシをろくに省みもしなかったくせに!」
 しかし大人とは、ましてや子にとっての親とは腹立たしいくらい合理的で冷静な生き物だ。フーカからすればかなり痛いところを突いただろうと思っていた発言を受けても、やはり父は普段と変わらない調子で肩を竦めた。
「それは言われちゃ仕方ないがな、フーカ。娘が人間でも死人でもない中途半端な状態でいるのは、親としてあんまり嬉しくないぞ」
「はあああ!? 何それ、本当ワケわかんないっ!!」
「そうか?」
 心底の本音を漏らしたのに、父は味気なくあっさり一言。それきり話を打ち切る気かいつものように――と思ったら、案外と真剣な声が聞こえてきた。否、この男はいつもそうだ。科学者のくせによく喋るし社交性はあるほうらしいが、声音は不思議と淡々としていて変わらない。
「真っ当に生きてりゃそれはそれで嬉しいさ。時間の経過に伴って体と心が成長して、ワシの知らないうちに適当に何人か彼氏作ってそのうち誰かを婚約者に仕立て上げて結婚して子どもを産む。それは遺伝子に組み込まれた自然の摂理だ」
「……何人かと付き合うのが前提なの?」
 運命の男性と一生一度の大恋愛をしたいと夢見ていたフーカにとってはややも幻滅気味な未来観測に、しかし父はモップを絞りながらそりゃあなあと一言呟く。
「お前熱しやすく冷めやすいタイプだし。恋愛恋愛するよりも長く一緒に生活できる相方が貴重だってわかるまで、とっかえひっかえするだろ」
「とっかえひっかえって……。パパ、娘がそんなふしだらでもいいっての?」
「変な病気を貰いでもしない限り構わんよ。あ、知ってるか。膀胱炎って性病でもあるらしいぞ」
「知らないわよ! そんなお下劣な話聞きたくない!」
「そうか。ま、それはともかくだ」
 叫ばれるとあっさり話題を切り替える。だからフーカは父が苦手だった。会話はできているはずなのに、何を考えているのかさっぱりわからない。つかみどころがない。感情の隆起が薄い。この手の性的嫌がらせにめいた発言だって、友人からはお父さんなりのからかいなんじゃないのなんて言われたことはあるが、多分違う。だって父の顔はこのときも変わらない。
「生きてればそれが当たり前なんだ。しかし死ねばどうなる?」
 どうなる――と言われても。それを自分に、まだ死んでいないと言い切る自分に訊くなんて、意地が悪いとフーカは心底思って白衣を睨みつける。
 しかし相手は、やはりどこ吹く風。モップを絞り終えてからロッカーに戻し、また洗い場に戻って今度は手を洗う。今更どこで売っているんだと思う、古めかしいレモンのかたちをした石鹸が見えた。
 蛇口からの流水音と、そこに突っ込んだ手を擦りあわせる音がする。こんなものをじっくり聞くことなんて滅多にないだろうなとぼんやり思いながら、フーカはひたすらに押し黙った。それを、父はどう受け止めたのか。
「……魔界からの情報を鵜呑みにすると、死んだ人間は罪の大小によって天国に行くか地獄に行くかで決まる。地獄に行けばプリニーと呼ばれる下っ端悪魔になって、過酷な労働条件の中で働き続け、それぞれの罪に見合った金を貯め罪を償う。そうして罪を精算し終えたら、赤い月の夜に転生する」
 淀みのない説明に、フーカはますます腹立たしくなる。理解していた。大体少女が覚えている通り、完璧に。なのに自分にそれを言わせようとしていたのは、やはり意地の悪さによるものだろう。なのに、何が嬉しくないだ。
 吐き捨てるようにそう思ったのに、父は白衣の裾で手を拭うと、こちらを真っ直ぐ見つめてきた。笑ってはいない。と同時に、怒っても悲しんでもいない、何の感情が込められているのか全く読めない男にしてはぎょろりと大きめな目で。
「お前がそのままそうやって夢だ夢だって自分に言い聞かせて宙ぶらりんのままでいたら、お前はずっとそのまんまだ。人間としてごく真っ当な人生を送ることも、悪魔として来世のために生きることもできん。お前はそれでいいのか、フーカ」
 単刀直入。容赦の欠片もなく胸の弱いところを突き刺されたように打ちひしがれて、フーカはただただ唇を噛むしかできずにいた。けれどでもと、とにかく何かを言い返したい気持ちばかりが急いて喉元まで一杯になるのに、ろくにそれに見合った言葉が思い浮かばない。もとより頭なんか働かない。さっきの、自分の遺体を見てしまった衝撃からまだ立ち直れていないのに。
 だから、何かを言いかけては何も言わずに閉じかける唇が三回ほど同じ仕草を取ってようやく出てきた言葉にしたって、父の言葉と真っ当に立ち向かえるものではなかった。
「……夢、だもん。これは、今のこれ、は、アタシの夢なの!」
 我ながら馬鹿の一つ覚えだと思う。けれど、やはりフーカはそう言った。勿論死んだことは心の中では認めている。たまにうっかり地が出てしまうこともある。しかしこれは、少女にとって建前の上でも夢であらねばならなかった。
「アタシが死んだなんて大嘘! パパが造った人造悪魔に殺されるなんて絶対認めない! しかもそいつはアタシが小さい頃パパにねだったのがきっかけで生まれたとか、ぜっっっったいにあり得ない!」
「……おいフーカ」
「まだ恋もしてないのよ!? ほとんど一人暮らしに似たようなもんだからこの二年で家事も得意になったし、あとは素敵な人でも見つけて家庭的アピールでもすればアタシの時代が始まるなってときだったのに!」
「やっぱりお前、とっかえひっかえするつもりじゃ……」
「そりゃ今の夢だって悪くないわ! グロキモいけどアタシに忠実な妹もいるし、悪魔や天使の仲間もいる! 見た目はあんまり綺麗なところじゃないけど、住んでたら結構楽しいし、愛着だって湧くわよ! 一緒に暮らす仲間にしたって学校行ってもなあなあな付き合いで済ます友だちなんかより、気張らなくたっていいし好き勝手言えるもん!」
「…………」
「けど、……けどそれじゃあ、アタシがもしこれが夢じゃないって認めたらどうなるの。終わらない夢だって、悪夢だって思ってたのがそうじゃなかったらどうなるのよ。……終わっちゃうじゃない。それこそ、次の人生のために生きなきゃなんないじゃない!」
 微かに、今まで微動だにしなかった源十郎の眉が動く。しかしそれにフーカは気付かず、思うがままに言葉を吐き出す。多分、妹や仲間がそばにいたら言えなかった。父にも端から言う気はなかった。自分の遺体を見てしまったせいだ。多分そう。
「プリニーって認めたらヴァルっちはアタシにッス! 付けろとかとやかく言うし、もう甘いスイーツもそれなりに許されてたお洒落もできなくなるかもしれないじゃない! そうじゃなかったとしても、プリニーになるってことはいつかアタシは罪を精算し終わるってことよ。そん時デスコはどうすんの。アタシのために造られた妹が、そのアタシを失うのよ!?」
 気味の悪い触手を背負ってはいるし、前髪から覗くぎょろりとした金の目が怖いときもあるし、たまに言動に物騒さが垣間見えるときもあるけれど、基本的には健気で可愛い妹。よりにもよって地獄でできた、本当に自分のために生まれてきた悪魔でラスボスの妹。プリニーになると言うことは、あの子といつしか離れる路を選ぶと言うこと。
「……それに、みんな今までアタシに言ってきたのよ。とっとと夢じゃないって認めろって。それにアタシは夢だって返してさ、呆れられたり笑われたりするけど、結局みんな何も言わないの。甘えさせてくれるの。……パパみたいに、酷いこと言わないの……」
 今みたいに、正論の短刀でフーカの脳味噌をかき混ぜたりはしない。この負けん気の強い少女の目尻に、大粒の涙を浮かべさせるほどの混乱を導いたりはしない。だから彼らは嫌いじゃなかった。悪魔だからまさしく血も涙もないような酷い連中ばかりなのかと思っていたが、なかなかどうして物分かりがよくてあっさりしている。自分がどう絡んだって、すんなり許容してくれる。そんな彼らだから、好きだったのに。
 父はフーカの耳にもはっきりと聞こえるくらい大きなため息を吐いて、彼女にいつしか俯いていた頭を上げさせた。薄らとぼやけた視界からでも、眼前の白衣の男性が眉根を寄せている姿を少女は捉えた。――何を、怒っているのだろう。
「そりゃあな。連中にとってお前が他人だからだよ、フーカ」
「……そうよ、他人よ。他人だからいいのよ。パパと違って」
「パパにとっちゃ良くはない。奴さんらは他人だから、お前が今後この宙ぶらりんを貫くことにどんなに苦しもうが焦ろうが躊躇おうが、深く関与しないしそんな権利を持つ気もない。人間とは桁外れて寿命も長いから、いつかようやくお前が自分はプリニーだと認める日をのんびり待てる。しかし、パパの時間は有限だ」
 そこ、なのか。フーカは不意を打たれた気分で、しかめ面のままの父の言葉を黙って聞く。
「そのまんまお前が十年二十年経ってみろ。そのときまでパパが全く変わらずここにいると思えるか、フーカ。結構ハードワークだし、生活もお前が知ってる通り不規則だからいつしかぽっくり逝くかもしれん。そうじゃなくても、一大研究プロジェクトのパトロン兼ガードはもう消えちまったから、残りの甘い汁を啜ろうとする連中が出てきて物騒なことになるだろう」
 それは否定できない。そうして同時にフーカはぼんやりと、瞼の熱を自覚しながら思う。――十年二十年経ったら、今の自分の体はどう変わるのだろう。変化するのか、しないのか。知りたいと思うが、知るのが怖いとも思う。
「そうなるまでに、ワシはお前がちゃんと来世に向けて生きてるんだと安心したい。安穏と今の環境に甘えて、無駄な時間を過ごしてほしくない」
「……無駄じゃないし」
「プリニーとして金を稼いでるんなら無駄じゃないだろうな。だが、甘いモンだの洋服だの買うために稼いでるんだとしたら、結構無駄だぞ?」
 図星を指され、フーカは鼻を啜りながらぷいとそっぽを向く。この研究所に来たのも、実際のところそれが目的でもあった。目先の欲に捕らわれたと言われてしまえば多分その通りだろうが、少女は当然あっさり認めない。
「うっさいわね。着のみ着たままのパパに言われたくないわよ」
「ママが死んで色気出す必要なくなったからなー。お前も死んじまったが、また新しい嫁さん探す気力なんざないし」
「……何よ、それ」
 さらりと告白されて、フーカはどう反応していいのか困った。母に操を立ててくれたことが嬉しいような、気持ち悪いような、恥ずかしいような。それでいて、自分が死んだことが新たな嫁探しにどう関わってくるのか。理解しようとしたら腹立たしくて、嫌悪感も沸き上がる。
「さっき話しただろうが。人間、いや大抵の生き物はな、家庭を築いて次世代に自分の遺伝子を残すことが本懐だ。それ以外は当事者次第。何か重要だと思うもんがあれば重要なんだろうが、基本の土台にはあらがえない。それを叶えるために、ワシらは必死に生きている」
 いつか聞いた覚えがある言葉に、フーカは黙り込む。そのときの発言者もまた眼前の父親その人で、そのとき少女はどんな気持ちでこの言葉を聞いていただろうか。覚えていないけれど、多分聞き流していたはずだ。なのに今なら、その言葉に異様な重さを感じてしまう。
「家庭を築くってのは人生賭けた一大プロジェクトだぞ。自分の遺伝子を次代に残すに値する人を探すまでも結構大変なのに、今度はお互い確実に遺伝子を残して、育てられる環境を整えるまでもが一苦労だ。ようやく生まれたと思ったら勝手に育たんからな。時間も金も手間もたっぷりかけて、それでどうにか育ったかなと思う」
 そうして今までの自分ができたのだと、フーカは知っている。その苦労を体感はしたことはないが、軽く過去を振り返っただけでも色々と迷惑をかけたような気がする。けれど自分は、――死んでしまった。夢でないとしたら、それまでの両親の努力もそれで無に帰したことになる。そう思うとやっぱり、死んだなんて認めたくなかった。
 フーカの強ばった頬を見て、彼女の思考を少しは読み取ったのか。多少におどけたふうに源十郎は軽く肩を竦めた。
「ま……それもお前が死んじまったことで無駄にはなったが。しかしワシももういい年だし、また一から家庭作ろうとは思えんのよ。ママみたいな適切なのがまた目の前を通りがかってくれる可能性も薄いしなー」
「適切って何よそれ。好きとか愛してるって言いなさいよ、ちゃんと」
 そうしたらこの話に納得してやらないこともなかったのにと重箱の隅を突っつくフーカに、源十郎は不思議そうに目を瞬く。
「好きってのは見た目だし、愛ってのは保険だぞ、フーカ。日々の積み重ねにより生まれ、自分が危機に陥ったときにきちんと質量、もしくは結果を伴って証明されるもんだ」
「……うっわなにそれ。悪魔が否定する愛のほうがまだ可愛げがあるわね!」
 ついでに天使が聞けば卒倒しかねない、もしくはすぐさま聞かなかったことにするほどの率直さに、フーカは盛大に吐き捨てるが父はやはり飄々としていた。
「まあ入院費諸々と、人造ラスボス創造プロジェクト立ち上げの熱意を考えたらワシはママを愛していたことになるんだろう。あのひとの後押しがなけりゃ、そもそもこんなことやろうとも思えなかったしな」
「…………」
 軽薄で色気なんか皆無なのに、しっかりと父なりの解釈で確かな愛情を示されてフーカは押し黙る。
 父が母のことを愛していたのは知っていた。フーカが母のお見舞いに行った日には大抵父がいたし、そこに家族全員が集まるのは結構嬉しいようで反面父が鬱陶しくもあった。丁度思春期の少女にとって、慣れない父との二人暮らし状態に色々鬱憤が溜まっていたからその愚痴を漏らす気で母のもとを訪ねるつもりだったのに。よりにもよってその愚痴の対象がいるのだから世の中はままならないと痛感したものだ。
 しかしいくら宇宙人から危険視されるほど現代の科学技術が発達していようと、母は命を喪った。娘のフーカでさえ夢見がちでロマンチストだと思わされたひとだから、多分プリニーなんかにならず天国でゆっくり闘病生活の辛労を癒してから転生したか、するのだろう。
「……話が反れたな。何の話……ああ、お前がのらりくらりと現実見てないうちにパパが死ぬかもしれんって話だっけか」
 相変わらず率直だ。その通りだけれどもう少し歯に布着せられないのかと苦い顔をするフーカを見ずに、源十郎はうんうんと少し前の記憶を確かめる。
「まあそんな訳だから、お前にはパパが生きているうちにとっととプリニーとして来世を頑張るって言ってほしいんだよ。順列をつけるならな、フーカ。ワシはデスコよりお前のほうが心配だ」
 微かに胸の奥が波打つ。デスコが可哀想だと思う反面、少し嬉しいとも思ってしまって後ろめたい。けれど、フーカは愛していると表現されなかった点に気付いてしまうくらいには冷静でもあった。
「……『心配』なの、パパ」
「ああ、『心配』だ。デスコの十年二十年より、お前の十年二十年後が心配だ。何も変わっていない可能性が高いってだけでも、嫌な気分になる」
 嫌な気分だなんて、けろっとした顔のまま言われても全くそんな想像をさせない。むしろ父の嫌な顔見たさにこのままを貫き通してやろうなんかなんて幼稚な発想まで浮かんでくるが、フーカは何も言わなかった。
「死んだ子の年を数えるななんて諺があるがな、死んでも変わらない、育ち盛りの頃の娘を見るってのは結構不毛だ。おまけに動いて、まだ生きてるみたいなことを言う。真っ当な人間だって言うなら年を追って成長して、適当な男作るだろうってのに」
 またその話を持ち出すのかと眉を歪めながら、フーカは口先を尖らせる。
「……別に男作るのは今だってやろうと思えばできるわよ、相手悪魔になっちゃうけどさ。手近にいい男がいないからやる気が起きないってだけ」
「へえ。お前、ヴァルバトーゼ君嫌いか」
 悪魔で適当な男と来ればそれになるのだろう。父の言葉にあまり驚きもせず、フーカは吐息をつきつつ異性として件の吸血鬼を評価する。
「ヴァルっちねぇ……。まあギリギリ合格点だとは思うけどイワシ馬鹿だし、アタシにはプリニープリニーうるさいし、周りの手強い障害押し退けてまでメロメロにさせる気力はないって言うか……」
「あれでギリギリとはまたハードル高いなお前。そんな大した遺伝子持ってる訳でもないんだから適当なので妥協しとけ」
「遺伝子遺伝子って……さっきからそればっかよねパパ。なに、ぶっちゃけると今のアタシが男とか子ども作ればそれでいいっての?」
 半ば冗談半ばやけくそで言ったのに、父は目から鱗でも落ちたように目を見開いておお、と小さく歓声を上げた。
「その手もあったな。お前がプリニーとしては生きていくつもりはなくても、悪魔として生きていくつもりがあるならそれも構わんかもしれん」
 本気なのかとフーカは目を剥いた。娘が人間でもなくプリニーとしてでもなく生きていくのは嫌なのに、悪魔として生きていくのなら構わないのか。それは人の親としておかしくないのか。科学者ってそんなものなのか。俄然、後者のような気がしてきた。
「しかしそれならそれで遺伝情報は変容しているのか?  代謝の問題もあるし、細胞の変異速度が変わっているなら、発育方法もやはり人間とは根本から異なることになるし……」
「ちょっと、パパ?」
「外観上の変化は今のところない。被りものにしたって帽子とそう変わらん。人型悪魔の遺伝子サンプルは一応取っていたはずだからあれを一旦確認して……ああ、肝心なこと聞くの忘れたな。フーカ、お前その姿になっても生理あるのか。周期はどんなもんだ」
「い、言うか馬鹿ッッ!」
 父の独り言の大半は馬耳東風並に意味がわからなず聞き流していたのに、とりあえず最後の問いかけだけはしっかり理解して耳まで赤らめながらフーカは怒鳴る。怒鳴られた父は、ええと不満げな声を漏らした。
「お前、悪魔のまま生きていくつもりなんだろ? そのくらい恥ずかしがるなよ。お前の第二の人生かかってるんだぞ、とっとと言っちまえ」
「だからって教えれるはずないでしょ!? 大体娘がいつなったかも知らない癖に今聞くとか、ほんっっとサイテーね!!」
 最早それしか言えない、馬鹿の一つ覚えの勢いで叫ぶも、やはりいつも通り。父は表情一つ動かさず、淡々と指摘してくる。父が動揺するどころか、自分が振り回されてしまうのも悔しいくらいいつも通り。
「なんだ、お前覚えてないのか。ママがその日の夜に赤飯作ってくれただろ」
「え」
「赤飯は常識だぞ。ニホン人の奥ゆかしい文化の現れだ。あれだろ、確かお前が小学校……」
「きゃああああ!?」
 なんのことかと問いかけるつもりがずばりそのときの年齢を指摘されかけて、フーカは悲鳴で続きをかき消す。もしそれが当たってようが外れていようが、男の口から女子の繊細な話題を科学的な観点から切り込まれて平気でいられるはずがない。ましてや医者と患者ならともかく、父と子の間柄でそれが行われるだなんて!


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 以降お月様トークから魔界で暮らす覚悟ってそう言うこったろって話になってフーカさんがそんなもんわかるかーっ! って逃げて混乱しまくって以下云々って感じです。云々が見たいぞオラッて方は拍手で言ってくだされば改めて書きます。
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