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プレネールさんカラーのプリニーさん

2011/08/10

 プリニーから手渡されたものを見て、彼女は何度か目を瞬いて呆けた。別にそう奇怪なものではなかったのだが、それでも全くの予想外なのは事実だから。
 人形、らしい。胴体は手のひらに包めるサイズだが、頭は少し大きめの可愛らしくデフォルメされた人形だった。実在の人物をモデルにしているらしく、彼女が持つそれは短めの黒髪に尖った耳、三角眼の赤い瞳、青白い肌に黒い外套を羽織っていた。外套の中を捲ると胸の杭に白手袋まできっちり再現している。おまけに灰色のフェルトの髪と金ボタンの瞳を持つ人形まで携えており、はっきりと誰かを連想させるそれに彼女は思わずまあと高い声を漏らした。
「……あ。やっぱりフェンリッヒ様の人形はまずかったッスかね?」
「はい? このお人形も狼男さんのお人形も、どちらも素晴らしい出来ですのに?」
 世辞でもなく本心から褒める天使に、プリニーはほっと胸を撫で下ろす。
「いや、そう言ってもらえて良かったッス。これでもしフェンリッヒさまの人形がいらないなんてことになったら、今手元にハサミないッスから手でそのままぶちっと引きちぎることになってたッスよ……」
「そんな。それは可哀想じゃありませんか」
 せっかく一セットになるよう造ってあるのに無理から引き剥がすような真似をするなんて、人形たちの製作者も、この吸血鬼を模した人形と彼の僕の人狼を模した人形も憐れだろうと口先を尖らせる彼女に、プリニーはしみじみと目を細める。
「寛容ッスねー、アルティナさん……。もしフェンリッヒ様にアルティナさんの人形持ってるヴァルバトーゼ閣下の人形なんか見せたら、そんな反応はまず貰えないッスよ」
「あら、酷い仰いよう」
 とは言え、彼女も苦笑を浮かべるのみで否定も肯定もしなかった。プリニーの言ったことは間違ってはいなかろうが、それでもあの人狼がもし自分の人形を携えた吸血鬼の人形を見たとして、無視はすれど引きちぎるほど冷酷ではないと信じたいからだ。
 とにかく人形の出来に改めて見事なものだと口元を綻ばせた彼女ではあるが、このまま会話を続けていればいつまでも本題に入るまいと判断し、手渡してきたプリニーに視線を戻す。
「それで、このお人形を持って写真に写ればよろしいんですの?」
「はい、そう言うことッス。あ、ポーズは適当でいいんスけど、目線はこっちが指定しますんで、それに合わせてもらえるッスか?」
「ええ、わかりましたわ」
 唐突に写真撮影をさせてもらえないだろうかと、見たこともない色のプリニーに請われたのはつい数分前。別段急ぎの用事もないし、断る理由もないので頷けば、ああよかったッスならこれをと先の人形が差し出された。
 彼女が『業欲の天使』と呼ばれながら魔界で徴収に励んでいたとき、無節操な悪魔たちがファンクラブを設立したいと言ってきたものだから自分でちゃっかり創って公式グッズとして何点か取るに足らないCDだの雑貨だのを売り、徴収と平行して小金を稼いでいたことがあった。その際、ブロマイドももれなくグッズの中にあったから撮られ慣れてはいるのだが、どうにもこの初対面のプリニーはそれに類似する安っぽい色気を目当てにしていないらしい。無論、今は彼女の手の中にある人形がそんな判断をさせる原因だ。アイドル性とは『誰のものでもない』ことを第一条件としているのに、この魔界の有名人に模した人形と一緒に写真に写るのは多少におかしい。とは言え、このプリニーの写真を撮る目的が何なのかを今更問いかけるのは少々タイミングが遅かった。
「じゃあ、こっちでポーズ決めてほしいッス。立ち位置はここで目線は……」
「はい、そこですわね」
 いつの間にか用意されていた蛍光緑のシートを背景に、彼女は本格的な写真撮影用カメラに向かって、斜め立ちで笑いかけたり足を交差させて片目を瞑ったり人形を両手に持って上目遣いをしたりと適当に表情なり格好なりを作る。プリニーもまた撮影慣れしているらしく、身長差を携帯した梯子を使って調整し、程良くおだて気味に合いの手を入れてテンポ良くフラッシュを焚き続けた。
 どちらが慣れていたのか、それとも両者共々手際が良かったのか。撮影は三分程度で終わって、プリニーは彼女の前で丁寧に深く頭を下げた。
「んじゃ、アルティナさん。ご協力どうもありがとうございましたッス」
「いいえ、どう致しまして」
 それほどのことをしたつもりはないと笑いかけて撮影の際に手渡された小道具である人形を返そうとした彼女に、頭を上げたプリニーは軽く首を振る。仕草の意味がすぐさま理解できず、軽く目を見開いた彼女にプリニーはそっと片手を差し出して。
「その人形は撮影のお礼として受け取ってくださいッス」
 と言ってきたものだから、彼女は慌てた。あんな束の間の拘束時間の報酬がこんなに手間暇かかった人形だなんて、割に合わないどころかこちらが恐縮するほどだ。
「ええと、……よろしいんですの?」
「はい、全然いいッスよ~。この撮影用に造ったもんッスから、これが終わったらぶっちゃけほかに何も使い道ないんス。物置に転がしておくのも勿体無いし、売るのもちょっと気が引けるし、かと言って男の人形飾るのも微妙ッスから……」
「はあ……」
 さらっと流されたがつまりこの人形はこのプリニーが造ったものなのだろうか。シャッターやカメラのピントを合わせるのに精一杯に見えた手で、一体どうやって。そんな疑念を抱く彼女の視線を無視しているのか、プリニーは明るい声で説明を続ける。
「それだったら、人形を大切にしてくれるひとに渡したほうが、造った甲斐もあるもんッス。アルティナさんはフェンリッヒ様の人形も受け入れてくれた訳ッスから、条件的に満点ッス」
 付属の人形の扱いについても念を押され、彼女はくすりと笑う。生まれ育った環境もあってもともとものを大事にする性格だが、それが彼女の大切な吸血鬼を模した人形で、おまけに出来がすこぶる良いと来れば大切にしない理由はない。僕にして長きの友である人狼を携えている点も、彼らの信頼関係を思えば先の通り引き剥がす気になれやしなかった。
「それでは遠慮なく頂戴しますわ。ありがとうございます、プリニーさん」
 さしてこれ以上の露出をすることもなくこんなものを貰えるとは。プリニーに声をかけられたときは考えもしなかったご褒美に、彼女はできうる限り丁寧な笑顔を浮かべて礼をする。
 いえいえそんなとひらひら手を振ったプリニーは、いつの間にやら蛍光緑の幕やら携帯用梯子やら撮影用の機材をワゴンに収納し終わっていたらしい。ぎいとワゴンを押してそれじゃあまたいつかッス、と別れの挨拶をすると同時にその姿は描き消えていた。
 恐らく時空ゲートを使ったのだろう。加えて細やかでかつ精度の高い人形制作に、写真撮影に合成兼編集技術のマルチな才能の持ち主とは恐れ入る。この魔界のプリニーでも五指に入るほどの多芸なプリニーではなかろうかとぽかんと口を開けていた彼女は、自分の間抜け面を自覚して口を閉じると改めて手の中にある人形に意識を向けた。
 黒髪に赤い目をした人形は、見れば見るほどモデルとなった人物の普段の表情そっくりで、注視していた彼女は思わずくすぐったさを覚えてしまう。しかし普段の表情なのにどことなく小動物めいた可愛らしさを感じ取ってしまうのは、モデルのせいか人形だからか。その辺りの特定をしてしまうとどこかの誰かに申し訳ない気がするから、彼女は誤魔化すつもりもあって挨拶めいた笑みを人形相手に浮かべる。
「……ほんとう、いい出来ですこと」
 笑いかけたところで相手は人形なのだから、うんともすんとも言いやしないし表情も変わらない。しかしそれでも彼女は胸に宿る熱を失うことなく、さらりとした黒髪を撫でればますますこの人形のモデルとなった人物への気持ちが昂ぶってゆくばかり。そんな流れでとある考えを頭に浮かべた彼女は、お供に軽く会釈をしてから吸血鬼の人形を改めて両手で抱えて自分のほうへとゆっくりと寄せ、外套がひらりと胸を撫でる感覚に軽く肩を竦ませた。
 そんな突発的な刺激があっても、彼女は衝動に突き動かされるまま静かに、けれど確かに――人形に口付ける。
 匂いはしない。人形だから当然だ。
 けれど感触はある。モデル当人の髪ほどではないにせよ、彼女の花弁に似た柔らかな唇に浅い凹凸を残す細い髪とその奥の丸い額の硬さは本当に誰かの額に口付けたような気分にさせられて、胸の奥の柔いところが蜜をじわりと滲ませる。滲む蜜は媚薬の効果でも持っているのか。胸の奥から始まり全体に浅く苦しく、少し痛く、ほのかに甘く、微かに気持ち良い感覚が広がっていく。
 しかし人形相手に口付けてこんな気分に浸っているのはどうにも独りよがりが過ぎる。自慰めいた後ろ暗さを感じてしまった彼女はすぐさま理性を取り戻し、微かに火照った頬を気にしながら誰にも見られていないか確認しようと首を左右に振った、流れで。血の色の瞳と目が合った。割とがっつり。結構しっかり。いや、大抵の悪魔は赤い目をしているからまあ目撃者がいて恥ずかしいくらいで済めばよかったのだが。
「…………」
 彼女は石化の呪いにでもかかったように硬直した。理由は単純明快だ。
 彼女と目が合った人物が、おずおずと進み出る。黒髪に赤い瞳、尖った耳に血色の悪い青白い肌に黒い外套を身に付けた悪魔が。
「あ、アルティ……」
 どこまで見ていたのか。最悪なことに彼女と目が合った、人形のモデルとなったはずの男の視線は彼女と彼女の両手に抱えられた黒髪の人形の間を交互に行き来して、その速度は奇妙に忙しない。ついでに頬に僅かな赤みが指しているようなそうでないようなまあ気のせいだろう気のせいと言うことにしよう気のせいだ。しかし猛烈にまずい予感を覚えるのは、恐らく彼女の気のせいではあるまい。
「……い、いや、その、覗くつもりはなかったのだ。珍しく、お前がこんなところで突っ立っているようだから何をしているのかと気になって、その、だな……」
 語尾が掻き消えそうに途切れ、彼女の見開いたままの視線を受けて男は首ごとゆっくりと斜め下へと向けて、俯いていく。しかしそれではこの沈黙に耐えられぬと思ったのか、わざとらしい咳払いをいくつかして表面上だけでも感情を切り替えた素振りをする彼は、深呼吸をしてから今更遅いがようやくなんでもないように装って訊ねる。
「……あーその、アルティナ。お前が手にしている人形はどうした?」
 しかし、彼女は。
「おい……アルティナ?」
 だが、彼女は。
「……アルティナ?」
 彼の前から、忽然と姿を消していた。




 その日。得体の知れないプリニーからよく出来たデスコの人形を貰ったフーカは、仲間の天使にも見せようと彼女の部屋を訪ねて一枚の書置きを発見する。
 天界に帰りますとだけ書かれたそれは期間も理由も記されていないものだから、不安に思った彼女は吸血鬼を始めとする残りの面々に心当たりがないか訊ねるつもりだったが生憎と吸血鬼は留守だった。出鼻を挫かれたものの次に訪ねたお付きの人狼に理由を聞くと、訊ねただけで物凄く嫌そうな顔をしていたのでまあ概ね事情は把握して、屋敷を留守にした仲間に彼女の行方を託したのだが。
 結果から言うとふたりして色気もなく疲れきった顔でようやく地獄に戻ってきたのは、それから一週間後。彼らに何が起こったのかは、いまだようとして知れていない。





後書き
 アルティナちゃんの抱いてる閣下人形はフェさん人形抱いてるの抱いてないの? って疑問に対してのFAが出たのでざっと。フェさん人形付属してなかったら閣下人形のために暴君コスを作るアルティナちゃんを予定してましたがフェさんいたからこうなりました。
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