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強い王さまのおはなし

2011/07/15

 とある世界に、とても強い王さまがいました。
 とても強い王さまは、身ひとつでもとの王さまをうち負かして王さまになったひとでした。
 王国の住民は、あらたな王さまをたたえました。
 なんて強いひとなんだろう。なんてすごいひとなんだろう。たったひとりで王さまにいどんで、あんなにたくさんの兵をたおして、それで勝ってしまうなんて。
 すばらしい王さまに、住民たちはお祝いしました。
 王さまは、それまでたったひとりでいたのに、5にんものお嫁さんをもち、50もの宝物をもち、500にんものしもべをしたがえる王さまになりました。
 けれど王さまはそれらをもらってもちっともうれしくありませんでしたから、ぜんぶそのままにしておいて、世界じゅうを旅することにしました。
 王さまは、ほんとうはただ強いひとと戦いたかっただけなのです。王さまになる気なんて、なかったのです。


+++++++++++++++++



 王さまのことはどこにでも知れわたっていましたから、たくさんのひとが王さまを打ち負かそうとしたり、だましてあやつろうとしたり、こびを売って取り入ろうとしました。それを王さまはみんな、みーんな、たおしました。
 そうして王さまは、旅をする前より、もっともっと有名になりました。命をねらうひとや、こびを売ろうとするひとはもちろん、王さまを一目見ただけでこわがるひとまでいました。
 王さまはいい気分でした。ちやほやされてうれしいのはちょっとのあいだで、すぐにたいくつになりましたが、にくまれるのもこわがられるのもあっと言う間だからすきでした。
 あるとき、王さまはたくさんの敵にかこまれているオオカミを見つけました。
 きずだらけのオオカミは、ぜえぜえはあはあ苦しそうなのに、にげようともせず敵に立ちむかおうとしていました。
「なんと勇かんなオオカミか。しかしそうでなくてはおもしろくない!」
 オオカミのすがたを見て、とても昔、まだ弱かったころの自分を思いだした王さまは、その気持ちがなつかしくってオオカミを助けることにしました。
 助かったオオカミは、けれど王さまに生いきな口をききました。
「あんたは知っているよ、とても強い王さまだろう。オレを助けて、『えつ』にひたるつもりかい」
 旅をしてから王さまを知っているのにそんなことを言いだすものははじめてで、王さまはおかしくって笑いました。
「おれはそのようなことはせんよ、オオカミよ。お前の死にそうなのに立ちむかうすがたを見て、おれはひさしくわすれていた気持ちを思いだしたのだ。命を助けてやったのは、その礼だ」
「はん、なんてやつだ! オレはこの世界でいっとう強い王さまをたおす気でいたのに、こんなところで手助けをされてしまうなんて!」
 王さまは、それを聞いておどろきました。ながらく旅をしてきたこの世界で、自分よりももっと強い、世界でいっとう強い王さまがいるだなんて。
 戦いたいと、王さまは思いました。だからオオカミにたずねました。
「オオカミよ。このおれが助けてやったのだ。世界でいっとう強い王さまとやらがどこにいるのか、教えてくれないか」
「いやだね! オレはあんたに助けてくれなんてたのんでいないんだ! あんたがかってに助けたんだ! だから礼なんてするものか!」
 なんてやつだろう、と王さまはびっくりしました。けれど同じくらい、たのしくもなりました。だれかにこんなことを言われるなんて、生まれてはじめてのことでしたから。
「それではしかたない。世界でいっとう強い王さまと戦うというお前のあとをついていくことにしよう」
「かってにしろ! しかしこれはいい『つれ』を手に入れたかもしれない。こいつはめだつからおとりにしてやって、このオレがずぶりと世界でいっとう強い王さまのあごをかみくだいてやるのだ」
 王さまは、またオオカミのことばにびっくりさせられました。この自分をおとりにつかうだなんて、このオオカミはなんて『ひきょう』で、けれどおもしろいやつなんだろうと思ったのです。
 そうして、ひとりといっぴきの旅がはじまりました。
 オオカミは王さまに心をゆるそうとせず、王さまにきついことばかり言いましたが、王さまは笑ったりおもしろがってそれをうけいれました。


+++++++++++++++++



 世界でいっとう強い王さまのもとにたどりついたふたりは、さっそく王さまと戦いました。
 世界でいっとう強い王さまは、やっぱり世界でいっとう強いだけのことはありました。
 その王さまは、死そのものでしたから。だれもかれも、どうやったってみーんな死んでしまうのです。
 けれどひとりの王さまとひとりのオオカミは、死にませんでした。なんどもなんどもころされそうになって、けれどなんどか世界でいっとう強い王さまをころしそうにもなって、なんどもなんども太陽と月がめぐっても戦いつづけて、ついに。
 月がまん丸になったある夜、世界でいっとう強い王さまが、とうとうぐらりとたおれたのです。けれど王さまもオオカミももっとぼろぼろでしたから、とどめをさすことはできませんでした。
 ですがここまで戦わされたのは、世界でいっとう強い王さまにとってはじめてのことでしたから、世界でいっとう強い王さまも、ふたりにとどめをさしませんでした。
 けれど世界でいっとう強い王さまのしもべたちは、ひとりの王さまといっぴきのオオカミをこわがりました。
 もしかして、ここで生かしておいたらいつか自分たちの王さまをころしてしまうかもしれない。そうなったら、今の自分たちの『ちい』もおじゃんになる。
 みんな、王さまとオオカミをころそうとしました。とくにオオカミは王さまよりもふかくきずついていましたから、ころすのはきっとかんたんです。
 けれど、それを王さまがまもりました。自分だってきずついているのに、オオカミをころさせまいと戦いました。
「あんた、なんでそんなことをするんだい。オレなんかおいて、とっととあんただけでにげればいいじゃないか」
 オオカミがたずねました。すると、王さまはこたえました。
「そんなことはしたくない。これまでともに旅をしてきたお前を、世界でいっとう強い王さまをたおそうとともに戦ってきたお前をおいてにげだすなどと、おれはぜったいにいやなのだ」
 オオカミは、びっくりしました。生まれてこのかたそんなことを言われたのははじめてだったのです。
 どうにかしもべたちからにげだせたあと、オオカミは王さまにむかって、ほろほろと泣きながら言いました。
「どうかわたくしのこれまでのぶ礼をおゆるしください、王さま。命をすくっていただいたお礼として、わたくしをあなたのしもべにしてください」
「どうしてそんなことをいうのだ。せっかく生きのびたのだから、お前の命はお前のすきにつかえばいいだろう」
「ええ、すきにつかいますとも。ですからこれからはあなたさまのしもべとして、のこりの命をつかいたいのです!」
 王さまは、このオオカミと旅をするのがたのしかったのですから、オオカミが急にそんなことを言ってもにあまり気にしませんでした。それどころか、これからいっしょにいられることになってうれしいくらいです。そうして、きっとこれが友だちだと思いました。
「わたくしはこれまで『ひきょう』に生きてきたオオカミですが、いまならチカラのみなもとの月にだって、あなたにつくすとちかえます!」
「そうか、ならばここでちかってもらおう。オオカミよ、お前はおれに、月があるかぎりつくすのだ」
「ええ、ちかいましょう! 約束しましょう! あの月があるかぎり、わたくしはあなたさまのものでございます!」
 そうしてひとりといっぴきはふたりになり、ふたりはあるじとしもべになりました。


+++++++++++++++++



 ふたりは、まだ自分たちの知らない強いだれかと戦うため、旅をつづけました。
 王さまはひとりっきりの旅になれていて、それがあたりまえでしたが、しもべとなったオオカミとの旅はたのしいものでした。
 オオカミにいわれてからは、たまに王国に帰ったりもしました。
 王国の住人たちはいつでも王さまをうけいれて、王さまがまた強いだれかと戦うために旅をしてもそれをうけいれました。
 王さまはやりたいことならなんでもできました。となりには王さまのしもべのかしこいオオカミがいます。
 王さまはじゆうでした。じゆうすぎて、もうすっかり旅にも王国にいるのにもなれて、たいくつでした。
 そんなある日のことです。
 オオカミもつれずひとりでいたくなった王さまは、ある女の子にであいました。女の子は、王さまを見ていいました。
「あなたはかわいそうなひとなのね」
 はじめてそんなことをいわれた王さまは、びっくりしました。だって王さまはとても強くて有名ですから、いまの王さまを一目見たひとたちはみんなこわがるのがふつうなのです。
「みなおれをこわがるのだぞ。お前はおれがこわくないとでも言うのか」
「わたくしは生まれてからいちどだって、こわいと思ったことなんてありませんから。こわがられるのがふつうだなんて、やっぱりかわいそうで、それからへんなひとね」
 笑って言われてしまい、王さまはちょっとはらだたしい気持ちと、たいくつがまぎれてうれしい気持ちとが『ごった』になりました。
「おもしろい女だ。ならばおれがお前をこわがらせてやろう」
「まあ。それはたのしみです」
 それから王さまは、女の子をこわがらせようと、思いつくかぎりのことをしました。けれど女の子はにこにこ笑ってばかりで、王さまはなんどもくやしがりました。おなじくらい、そうでなくてはおもしろくないともおのれをふるい立たせました。
 王さまは、女の子をこわがらせようとすることがたのしくなってきました。
 女の子といっしょにいると、ふしぎな気持ちになるのです。こわがらせるつもりなのに、女の子とずっとこうしていたいと思いました。
 なのに女の子はある日、死んでしまいました。
 王さまはおこりました。女の子をまだこわがらせていないのにかってに死んでしまっておこりました。
 王さまは泣きました。女の子ともういっしょにいれないことに泣きました。
 王さまはこうかいしました。自分はとても強いのに、強いからこそ王さまになって、じゆうでいたのに、女の子ひとりまもれなかったのですから。強いからこそなんでもできると思いあがっていた自分がばかだと思いました。
 だから王さまは、強くなるのをやめました。王さまを、やめることにしました。


+++++++++++++++++



 王さまの5にんのうつくしいお嫁さんはそれぞれべつのだんなさんのもとへとつぎました。王さまの50の宝物は、てんでばらばらに売りはらわれました。そのお金で、王さまの500にんものしもべたちはあらたな主をみつけるまでをくいつなぐことにしました。
 王さまをやめた王さまにのこったのは、オオカミだけになりました。けれどそれでじゅうぶんです。王さまは、王さまになるまえはひとりぼっちでいたのですから。
 オオカミは、王さまが口をひらくまえに言いました。
「わたくしは、どうあろうとあなたさまのしもべでございます。命がつきるまで、あなたさまにおつかえいたします」
「そうか。ありがとう、オオカミよ。お前はおれの大切な友だちだ」
 ほんとうに、王さまはそう思いました。
 けれどオオカミはあまりうれしくありませんでした。きっと王さまはオオカミにも、じゆうになりたいのならなっていいぞと言おうとしたのだと思ったのです。それは王さまにとって、オオカミは5にんのお嫁さんや50の宝物や500にんものしもべとあまりかわらないものになるのです。
 そんなのはいやだから、オオカミは王さまがなにを言おうとしたのかわからないままずっと王さまといっしょに旅をすることにしました。そうして、王さまをもとの王さまにもどそうとしました。
「王さま、王さま。また強くなりましょう」
「強くなることになんのいみがあるのだ」
「強くなればもっとうつくしいお嫁さんがもらえます。宝物がもどります。あらたなしもべもたくさんできましょう」
「いらない。いらない。そんなものはいらない」
 王さまはがんこでした。オオカミはとまどいましたが、やはりあきらめませんでした。
「強くなればきっと、あなたさまのほしかったものが手にはいります。だからまた強くなりましょう」
「オオカミよ、おれがもっともほしいのは、かこにもどるチカラだ。うしなった命をとりもどすチカラだ。それは強くなれば手にはいるのか」
「……いいえ王さま。強くなることでそんなチカラをえたものなんて、わたくしでさえ聞いたことがありません」
「そうだろう。だから強くなってもいみはないのだ」
 ほんとうに、王さまはそう思いました。だから王さまはすこしずつ弱くなっていきました。


+++++++++++++++++



 ついに王さまは、だれかにおそわれればすぐに死んでしまうかもしれないほど弱くなりましたが、それでも強くなろうとは思いませんでした。また強くなっても、まもりたかった女の子はもういないのですから。
 けれど王さまは、死にたくなったわけではないのです。むしろいくら弱くなっても、自分から死ぬようなことはしないと、きっともっと生きたかったはずの女の子のぶんも生きなければと、思っていました。
 オオカミは強い王さまに助けてもらったので、王さまが弱くなるのはいやでした。けれど王さまに死なれるのはもっとずっといやなので、王さまを生かそうとしたし、自分もまたひっしに生きました。
 そうしていくなかで、王さまはじゆうなころよりもオオカミをたのもしく思いはじめました。
「ありがとう、オオカミよ。お前はおれにとって、かけがえのない友だちだ」
 お礼をされても、けれどオオカミはあまりうれしくありませんでした。なぜと言って。
「そう思ってくだすっているのならば王さま。どうかまた、あのときのように強くなってくださいませ。それがわたくしのねがいでございます」
「それはできない。強くなったところで、守りたかったあいつはもういないのだ」
 オオカミは、弱くなっていった王さまからどうして王さまをやめることにしたのか。そのわけを聞いていたので、むっとしながら言いました。
「そのとおりでございます、王さま。王さまをこわがらなかった娘はもうどこにもおりません。ですから王さまがそこまですることはないのです。どうしてあの娘のことを、こんなに引きずっておられるのですか」
「わすれたくないからだ、オオカミよ。あいつのことをわすれてもとにもどるくらいなら、おれはこのままでいい。死んでしまってもかまわない」
 オオカミは、そのことばを聞いてびっくりしました。そうして、おそろしくなりました。
 王さまにとって、かけがえのない友だちのオオカミは、女の子よりも大切なのでしょうか。オオカミが命がけで王さまにたのんだら、王さまはなんと言うのでしょうか。
 それを知るのがとてもおそろしくなったので、オオカミはそれだけはすまいと思いました。
 オオカミは王さまをおいて死にたくありませんでしたし、もし王さまに命をかけてたのんでも、やっぱり強くなりたくないと言われやしないかと思うと、それこそ死んでしまいたくなるから、ぜったいにぜったいにそんなことはすまいと思いました。
 だからオオカミにできたのは、王さまにひたすら強くなりましょうとよびかけることだけでした。けれど王さまは、やっぱり女の子のために生きていて、女の子へのこうかいから弱いままでした。

 そうしてオオカミと王さまは、今日もおなじことばをかわします。
「王さま、王さま。強くなってくださいませ」
「それはできない、オオカミよ」
 きっと明日も、あさっても、しあさってもおなじ。
 がんこな王さまは、女の子のことをわすれられないから。おくびょうなオオカミは、命がけでたのめないから。ふたりはずっと、ずうっとこのまま。
 ながいながい旅のすえ、さいはてにたどりついたそのさきでも。
 ふたりはずっと。まるで太陽と月が空をかわりばんこするように。
 おなじことをくりかえし。
 ずっとずっと。そのまんま。

 強い王さまのおはなし。これで、おしまい。









後書き
 フェさんが暴君閣下には最初ツンってたらいいなあと思って……。
 簡略化しようとして悪魔とか吸血鬼の要素とっぱらったらアルティナちゃんとのエピソード以降がちょっと苦しくなりましたねー。反省点です。
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