スポンサーサイト

--/--/--

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
[↑]

4、5周年おめでとうございます

2016/02/24

 超久しぶりだヨ! ヴァルアルだヨ!
 時間差し迫りまくってるせいで後半自分でも何書いてんだかよくわかんなくなってきたヨ! まあリハビリだと思って生温かい目で見てほしいヨ!(最低だなその言い訳)




 夜更けであっても深夜には及ばず、いつも通り生のイワシ丸々三尾を執務の片手間に食したものの、小腹が空いてきた時分。
 夕飯より余程手の込んだ料理を天使の娘から夜食として差し入れられた『新党・地獄』党首ヴァルバトーゼは、二重の褒美に頬の緩みを隠しもせず早速トマトとオイルサーディンのブルスケッタを一つ頬張る。も、その尖り耳に、不用意な問いが滑り込んだ。
「あのときあなたに告白したら、あなたは血を吸って下さったのかしらね」
 そう、謡うように告げた女天使アルティナに他意はないのだろう。その証拠に茶器がかち合う音は不自然に止まず、即ち彼女の手元も止まることなく、こちらに踵を返した足取りでさえ悔しいくらい普段通り。
 けれどそれを聞かされた男は、夜食を頬張ったままの姿勢でたっぷり五秒は硬直し、その形相たるや固まらせた張本人が目を見開くほど。
「……ヴァルバトーゼさん?」
「ぉっ……ぐ、ふ!? ぉま、っえ! いきっ、なりっ、何……!」
「だ、大丈夫ですか!?」
 ようやく息を吹き返したかと思いきや激しく咳込む吸血鬼に、天使は慌てて紅茶を渡す。
 青年、受け取った流れで一気飲み――とはいかず、飲もうとしても咳のせいでカップに口さえつけられず、むしろ中身を零しそうになり、ソーサごと机に一旦置かねばならない始末。
 それから彼の気管支が落ち着いたのは、女の細指に背中を存分に擦られ、口の中のものを弾き出す勢いの咳を喉の奥がひりつくまでやり切ってから。
「……噎せただけであんな咳だなんて。かなりお疲れではなくて?」
 恋人の苦言を兼ねた気遣いに、まだ喉に違和感を残していたものの、痩躯の青年は背筋を伸ばして大きく首を左右に振る。
「んむっ、大事、……ぇほっ、ない」
「あまりそうは見えませんが……はい、お鼻」
「ん……」
 差し出されたハンカチで鼻を拭った吸血鬼、ようやく紅茶にありつくも、その香りは普段彼女が淹れてくれるものよりやや薄い。火傷の心配がないくらいには長らく放置してしまったせいなのだが。
「少しばかり運が悪かっただけだ。……大体、俺がこうなったのもお前がおかしなことを言うからだろうが」
「そうですの? わたくしとしては、単純で素朴な疑問のつもりでしたけれど」
 首を傾げる天使の、朝露に濡れた野の花を連想させるうすあおの瞳には、確かに普段のいたずらっぽさや茶目っ気はない。しかしこちらの顔色を恐々伺う態度でもなく、長らくその疑問を胸中で持て余していた訳でもなさそうな。要するに、本当につい最近になってそんな疑問が思い浮かんだのだろう。
 ならばこちらも即答しよう、とは相成らず、男は相手の意図を把握していながら、それでも話を引き延ばそうと視線を泳がせた。
「……一応、念のため訊くが、あのとき、とはどの……」
「勿論、なんて言うのは我ながら不謹慎かしら……人間のわたくしの最期ですわ」
「…………っ」
 覚悟していたにも関わらず、吸血鬼はその単語を耳にした途端、全身を軋ませてしまう。
 たとえ今は天使として人外の寿命と霊力を得ていようが、彼女は一度死した身の上。自分の腕の中で事切れた瞬間の重みはいまだ彼の記憶には鮮明で、そのとき走った強烈な胸の痛みもまた同様に。それを懐かしい、と思える余裕は四百年のときの流れと予想外の再会によってようやく生まれたほどだ。
 古傷の疼きを誤魔化すつもりで紅茶を啜るも、生憎とその味わいはそれを打ち消すほど濃厚ではなくむしろ淡い。
「わたくしが死んでしまえば、あの約束そのものが成立しません。だから反故にしていいと、あのとき説得したつもりでした。けれどあなたは結局断ったでしょう? だったら、あなたが好きだから、あなたに苦しんでほしくないから、わたくしとの約束を忘れて血を吸ってほしいとお願いしたら、あなたはどうなさるのかしらって……」
 赤の他人がそんな仮定を持ちかければ不謹慎だと一蹴してしまえばいいが、転生を果たした張本人からの疑問となると逃げようがない。
 しかしこの娘はどこぞの姉妹宜しく思いつきを即座に口にするほど短絡的な思考の持ち主でもなかろう。こちらに訊ねる前にある程度自分でも考えたはずだと、青年は渋い面構えのまま今度はクリームチーズとアンチョビのブルスケッタを手に取る。アクセントに砕いた胡桃も散らして美味だろうに、話題のせいでじっくり味わえないのがつくづく惜しい。
「で? お前はそう説得すれば当時の俺が血を吸うと?」
「どうでしょう。それがさっぱり予想できなくて」
「は?」
 思わず目を見張る。それでかつての自分が折れると見込んだからわざわざ訊いたのではないのか。そう頭に疑問符を浮かべた彼に、女はほろ苦く笑いながら肩を竦めた。
「だって、約束を果たしたはずの今でさえ血を吸ってくださらないんですもの……。昔から使命感が強いあなたの情に訴えても、その信念が揺らぐと思えませんわ」
 まあそう考えるのは至極当然。
 人間に情愛を捧げられたところで、その気持ちを汲んでやるほど悪魔の心は純粋ではない。夜魔族に代表されるように、得られた純情なり下心なりを都合のいい武器にするものだ。それが瀕死の相手なら、捨て駒にもならぬと一蹴される可能性のほうが高いが。
 それでも自他ともに認める変わりものの吸血鬼なら。自他ともに認めるほど頑固で気高い彼ならば。瀕死の人間の娘に情を捧げて頼まれれば、無碍にはすまい。そう希望を見出すのも、まあわからなくはない。
「……でも。それでも、約束をなかったことにしてもらえなくても、少しくらい、今と違ったりするのでは、とも期待してしまって……。その、いけませんか?」
 控えめに、少しくらいは自惚れたいといじましく俯く恋人の姿に、吸血鬼の机に隠された部位が緊張感を持つ。
 いやしかし、話題が話題だ。こんなときに彼女の腰に手を伸ばそうものなら、誤魔化さないでとご立腹承るに違いない。久しぶりにふたりきりになれたのに、自分でその機会を逃すのは愚行極まると深く嘆息した青年。下手に続けていた引き伸ばしを諦めて、ようやく腹を決めた。
「……違う、どころではないな。むしろそうしなかったお前に感謝したいくらいだ」
「はい?」
 そんな返答を寄越されるとは予想だにしなかったのか。天使は大きな猫目を不思議そうに瞬かせて、彼を見る。見つめる。その瞳に彼の姿が映るのを、彼自身が認識できるほどに。
 ――ああ。やはり。
「……その方法は、俺を説得するに当たって最悪手だと言っている」
 やはり、この娘は美しい。
 女に見つめられ、自身の存在を認識されている実感を噛みしめながら、男は答える。四百年振りの再会からそれなりに時が経った今でさえ、彼女に魅せられたままの己につくづく呆れながら。
「確かに、瀕死のお前相手に情に訴えられれば俺も揺らごう。だがな、結局それでお前が息を吹き返さないなら、約束を踏み躙る意味がない。……お前と出逢った唯一のあかしを、俺の手で壊す理由にはならぬ」
 しみじみと呟けば、彼が女と彼女と交わした約束をどう受け止めたのかようやく把握したらしく、天使はそっと視線を伏せる。と同時に頬にほんのり朱が差して、こちらも思わず気恥ずかしくなるが、それでも一度動き出した舌は止まらなかった。
「むしろ、どうして自分を慕う娘ひとりさえ守りきれなかったのか……そう、あのとき以上に激しく己を責め、悔いるだろう。己の不手際を呪い、慢心を恨み、……生きる意味さえ見失い、野垂れ死ぬやもしれん」
「そんな……! 幾らなんでも、それは大袈裟でしょう!」
「そうだな。だが、お前に見殺しにしてしまった上で想いを捧げられれば、そうなる可能性は十分ある」
「………………」
 四百年前に彼が出逢った娘は、ただの人間ではなかった。
 無力ではあったが使命感は当時の自分を遥かに凌ぎ、魂の高潔さはどこからと言わず佇むだけで滲むほど。迷いなく、劣悪な環境を嘆き愚痴る素振りもなく、凛と前を見据え続ける精神の純粋さ。素晴らしかった。敬意さえ抱いた。当時の彼は、愚かしくもそんな己の気持ちにさえ気付かなかったけれど。
「……あのときのお前は貴すぎた。死に際に普通の人間の娘の真似をされたところで、納得できないほどには、な」
 苦笑交じりに告げれば、その高潔さゆえに天使となった娘は何が不満なのやら。顔を逸らすどころか、ワゴンのほうに向き直り、彼へ体ごと背けてしまう。
「……過大評価ですわ」
「そうか?」
「ええ。そこまで仰られると、あのときのあなたへの想いさえ拒絶された気になります」
「む……」
 いくら男にとって尊かろうが、四百年前の彼女にとっては修道女としての努めを精一杯に果たしていただけのこと。そんな最中に不意の出逢いを経て、予想だにせぬ存在に乙女心をくすぐられた。そのとき胸に走った甘い疼痛は、貴公子を遠巻きに眺める町娘のそれとさして変わらない。
「あなたとの出会いは、確かに少し特殊でした。……けれど、あのときのわたくしだって年相応の娘ですもの。素敵なひととお話しできて、密かに浮かれてしまうくらいには世俗を捨てられませんでした」
 真に神の信徒として振る舞うのなら、容姿の優れた異性との会話でさえどうとも思うまい。四百年前の先輩たちの姿を思い返してそう告げた天使に、青年は思わず失笑してしまう。
「そのくらいで『世俗を捨てられない』も何もなかろう。大体、そこまで行けば世捨て人の域だ」
「教会に属する人間としては、ある意味で理想ですわね」
「しかし、お前は世を捨てなかった。……高い塀の中で神相手に祈っていればもう暫く長く生きただろうに、自らを危険に晒してまで他を助けようとした」
「それはそうですけ……っ!」
 指摘を受け、ふと背後へ振り返ろうとした娘は視界の下方、床に映った動く影に気付く。いつの間にか、相手は立ち上がっていたようだ。いや、それどころか。
「ならばアルティナ。逆にお前に訊ねよう」
「あ」
 不意に、背後から手を掴まれる。
 けれど白手袋は、紅い杭の刺さった腕は、黒い外套の男は荒々しさなど欠片もなく、むしろやさしく、糸で絡め取るように女を振り向かせ、その上で丁寧に拘束する。やさしいくせに、どこにも力が入れられないくらい甘やかに。
「あのとき、魔界に住めと誘えば。お前はそれを受け入れたのか?」
「――――――」
 瞬く瞳。止まる呼吸。
 思考も止まり、鼓動も、と思った途端にどっと大音量が鼓膜に届き、思い知らされる。
「……それ、は……」
「どうした?」
 薄っすら口元だけに浮かべた男の笑みは、正直なところ底意地悪そうに企むようで、普段の威風堂々たる彼らしからぬもの。
 しかし今の彼女には、笑みにも問いかけにも意地悪だと拗ねて黙秘権を掲げることさえできない。そんな気はなかったものの、自分のほうが先に似たような問いかけを彼に投じたのだから。
 その上でつくづく後悔する。自分はなんて愚かしい問いを口にしてしまったのだろう。
「……その。大変申し訳ないのですけれど」
「ふむ」
「お断り、すると思います……。ですが、あなたのことがどうでもいいのではなくて……!」
「ああ、わかっている」
 そう、わかっているとも。
 かつて彼が四百年前に出会った娘は、一時の情に流されるような娘ではない。自分よりも他者を優先し、敵味方の区別なくひたすらに命を助けるのが自分の使命なのだと信じ、殉じていた。
 だからこそ憧れた。悪魔の誘惑に負けない、いや抗う敵意さえないのに清くあり続ける目映い瞳に。
 だからこそ自分もこうあろうと心に誓った。どんな苦痛が降りかかろうが、誰が相手であろうが、それこそ彼女からの願いであっても、自分を貫こうと覚悟を決めた。
「それに、これでお前もわかっただろう?」
「……ええ。お恥ずかしいお話ですけれど」
 いまだ頬に動揺の名残りを拭えないまま、天使の娘は瞼を伏せる。
 自分だって当時は普通の娘だと告げたものの、あのときの彼女は密かに、自分は恋には無縁なのだといつの頃からか達観していた。教会の外を出ても、敗残兵たちと会話を重ねても、そんな感情など欠片もなく、色恋に連なる思考要素そのものが完璧に頭から消え去っていた。
 しかし今、自分の指に手を絡めたままこちらを覗き込んでくる男が。四百年前はもっと背が高かったけれど、髪の色も深い瞳の色も変わらない吸血鬼が、一目で彼女を年頃の娘に『変えて』しまった。
 ああ成る程。いくら女子どもを無碍に扱わぬ紳士であろうが、約束を律儀に守る誠実さを見せようが、やはり彼は悪魔だ。色恋から完全に思考を隔離していた娘に恋慕を抱かせるなんて、そんな真似は数多の人間の男でも成し得なかった悪行である。
 そしてこの悪魔の不思議な魔力に完敗していながら、自らの負けを自覚していなかった自分の愚かさときたら。死に際に想いを伝えなかったのは、不幸中の幸いと言ってもいいだろう。
 そう長く細く息を吐き出した天使の唇に、そっと冷たい唇が重なる。
 女の仕草に何の意図を見出したものやら。それまで紳士的だったはずの吸血鬼は、手袋越しの指どころか腰だの脚だの着々とふたりの接地面積を増やしていくが、彼女は抵抗する気力も湧かずされるがまま。
 ただそんな中でも、思うところはあったようで。
「……あまり認めたくはないのですけれど」
「ん?」
「似たもの同士なのかしら、わたくしたち」
 答えは返ってこなかった。
 ただ粘液が混ざり合うような音と、微かな女のくぐもった悲鳴が漏れ聞こえたことで、概ねその後のことは把握できるだろう。
関連記事
スポンサーサイト
[↑]
Copyright (c) 掃き溜め All Rights Reserved.

FC2Ad

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。