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電撃にありがとう

2013/10/31

 ハロウィン?
 うんまあうちのクマもそんなこと言ってましたが今日は電撃に公式ではらたけ暴君過去ティナが載った日ですよ? ハロウィンなんかどうでもいいんですよ?
 という思いを込めて殴り書き。






 女の身体はあたたかく、芳しく、そしてこの上もなくやわらかい。
 死体のように冷たい肉体を持つ吸血鬼にとってはごく当然のことなのに、どうしたことか。この瞬間、彼はそれを直接脳髄に叩きこまれたような衝撃とともに痛感した。
 そうなったのは本当にふとした弾みによるもので、ものの数分前の出来事なのに、内心そこそこ努力してもろくに思い出せないくらいどうでもいいことのはずだった。
 なのに今は。そのどうでもいいはずの切欠のお陰で、いやせいで、女の身を抱いてしまっている。
「……あの。どうか、なさったの?」
 吐く息さえも肌にかかるほど、間近に女のかんばせがある。
 つい先日に知り合った、おかしな娘。吸血鬼たる己を一目見ても怖がらず、なのに憐れみから血を捧げようとする不可解な女。ただの身分を持たない看護師と名乗ったけれど、その佇まい、魂の有り様が人界では滅多にないほど高潔で、更に戦場に近い町に住んでいるにも関わらず他の住民のように性根が歪む気配もないのはいっそ不気味なほど。
 それでも嫌えはしなかった。それどころか神に祝福された存在とはこういう者か。聖女とはまさしくこれを指すのかと、ここ数日彼女を陰ながら見守るなか、彼は何度しみじみ感心させられたろう。
 そうとも。悪魔としての使命に忠実なはずの自分が。
 人間に感心しつつもやはり自分の魔力の糧である以上、最も畏れを振りまいてやるべしと気負っていた存在に、こんなに感銘を受けるなんて、予想だにしなかった。
「吸血鬼、さん……?」
 しかし、なら。どうして――。
 細やかに震えているのがわかる。瑞々しく繊細そうな、見るからにふっくらとしてやわらかく、触れただけで蕩けそうになるだろう唇が。
 清い心を映す鏡のごとく、星のまたたきを宿すうすあおの瞳が不憫なほどに揺れている。大きく見開かれた目元に髪が一本入り込みかけて、思わずそれを手で払ってやる。
「ご……ごみでも、ついてましたの? でしたら、……ありがとう、ございます」
 自分の仕草に何を見て取ったか。娘は丁寧に微笑んできたが、らしくないほどぎこちないせいで正直あまり嬉しくない。
 しかし気にしないことにした。この冷たい身体にじんわり伝わる女の体温を前にすれば、そんなことさえどうでもいい。
 細い娘の背に回した手は熱い。手袋越しでこれならば、素手で触れば火傷をしかねない。火傷どころか今の調子なら己の身体さえ燃えそうだ。そうすればこの娘も自分と一緒に燃えてくれるのだろうかとぼんやり考えて、もう片手にちらと意識を向ける。
 相手のかすかな抵抗が見て取れる腕は、あくまでやさしく退けたまま。振り払うのは勿体無いし、かと言ってわざわざ手中に収めるほどではない気がして、半端な状態のままに動かせない。
 動かせないというのならそもそもがもう片手だって。たっぷりとした艶やかな桃色の髪の波の向こう、驚くほど華奢で自分の手のひらにすっぽり覆い隠せそうな背中を支えたまま、突き放そうとも寄せつけようともせずただしっかと固定しただけのそれは、本人だって明確な意図があってやったことではない。彼女が戸惑うのも無理はなかろう。
 けれどだからと言って、呆気無く離れてしまうのもどうなのだ。
 鮮やかな、芍薬の花弁の色にそっくりそのまま染め上げたような髪が、夜風に煽られふんわり広がる。病みつきになりそうな甘い匂いに、神経と理性が削られていく。体と体の距離は不用意なまでに近い。すぐ下を向けば女の乳房に自分のタイが掠るほど。危うい予感はある。だが離れたくない。放したくない。
「……吸血鬼さん」
 ずっと黙ったままの自分を、さすがの娘も不安に思ったらしい。先とは違い、今度は気遣うように見上げてくる。その目つき、やさしさが溢れんばかりのあどけなくも狂おしい表情に、知らず腕に力が籠もる。
「あの……お腹、空いてしまいましたの?」
 渇きなど感じる余裕もない。もともと使命の一貫、魔力の補充としての役割でしかなかった吸血は、この娘を目にして以降、薄まってしまったような気がしてならない。代わりに彼女を目にするとただただ欲求が深まっていく。具体的にどうしたい、なんてことはさして頭に浮かんでこないのだが。
 黙りこくる自分の表情を彼女はどう受け取ったものやら。早合点した間を持って、小さく頷き今度は自然に微笑む。ああ、やはりそれが最も美しい。
「それでしたら、どうぞ。あなたがどうしても我慢できないと仰るなら、わたくし、約束なんて気にしませんから」
「そんなことは……」
 反射的に出した己の声はみっともないほど枯れていて、娘はほらねやっぱりと笑う。どうして彼女はそうもなめらかに、潤った声で己の耳朶をくすぐるのだ。
「喉、渇いていらっしゃるじゃないですか。あなたはプライドが許さないなんて仰ったけれど、プライドでお腹は膨れませんのよ。ですからわたくしの血を吸いたいのなら、吸ってくださいな」
 違うと言いたい気持ちはある。心の中のもうひとりの自分は、必死になってそうではないと頭を振っているのに。眼前の光景、あの美しい瞳がゆっくりと瞼に隠されていって、それだけにかんばせの珠のような白さと、きめ細やかさと、唇の朱が、ひときわ映えて。それが。
「……平気よ。だいじょうぶ」
 何がだ。
「あなたを信じていますから……ね。血を……」
 唇が、無防備に開かれていく。背に回した手にゆっくりと重みが増して、彼女が自分に身を預けていくのがわかる。あれだけぎこちなかった手が、おずおずと、完全に迷いが消えないもののそれでも努めて力を抜こうとしていって。
 応えるべきか。応えざるべきか。
 焦りはある。戸惑いもある。しかし一足先に自分を信じた娘がいるのだ。このまま宙ぶらりんは許されない。
 だから自分も迷うまい。勇気を出して、己の心に正直になろう。そうすればその果てに、この気持ちがなんなのか。その正体も掴めよう。
「アルティナ」
 囁きは、自分でも驚くほどに小さく秘めやかに。
 けれどそれでも、ありったけの想いを含んで。
「……アルティナ………」
 身を寄せる。女の耳に、自分の声は届いたろうか。


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