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今更の告白

2012/10/04

 イワシの日兼天使の日記念SS滑り込みー。
 宣伝SSを某所に投稿して時間なかったからちょっとアレだけど……。


 いつ、ですか……?
 ええと、……そう、ですわねえ。厳密にはいつだったかしら……何せ四百年前ですから、記憶が曖昧で……。
 あら、それならあなたはしっかり覚えていらっしゃるの? でしたら先に教えてくださいません? あなたから話を聞けば、わたくしも思い出すかもしれませんし。
 ええ……? もう、なんでそう言うことになるんですか……。大体あなた、今こうしていられる関係なんですから、今更そんなことで照れなくても……。
 ……もう、男のひとってみんなこうなのかしら。仕方ありませんわねえ……うぅん……確か…………あ、ぇ、ひゃ、きゃっ!?
 こら、こーらっ、変な悪戯なさらないのっ。もう言ってしまいませんわよ! ええ、思い出しました。自力で。あなたのあれと関係なく。
 はい、よくできました。
 ……確か、あなたを初めて見たときから既に、その……好きだったかどうかはわかりませんけれどね、悪からぬ印象を抱いていた記憶はあります。
 最初は、どこかの貴族のご子息だと思っていました。……戦場の視察、ではなくて。その……、あなた、お顔の血色がほかのひとと違って悪いものですから、日が沈んでからしか外に出ようとしない、不健康で退廃的な生活をなさっている放蕩息子が、暢気に本物の死体を見学しに来たのかしら、とか……。
 あ、あの、……もしもし、ヴァルバトーゼさん? 大丈夫、ですか? 傷、ついたりしていません?
 ……ご、ごめんなさい。でも、素直な心の内を告白しましたのよ? そ、そう言うものですか? ぅ……気が利かなくて、その、本当に申し訳ありません……。
 へ? いえ、それは遠慮させていただきますわ。反省していますけど、それとこれとはまた別でしょう? と言いますか、あなた、もしかして傷ついた振りをしてました?
 ……だって、それであなたがやらしいことができるようなら、お芝居の一つや二つ……。
 もしもし? あの、嘘ならきちんとこちらを見て仰ってください。ちょっと、ヴァルバトーゼさんったらっ!
 ……誤魔化しましたわね。はあ、もういいです。
 それで? それで……あのときは、あなたは悪趣味な貴族のご子息だと思っていて。蝙蝠? あ、確かにいましたわね……。
 ごめんなさい。そうそう、思い出しました。手品かしらと思って。びっくりしていたんですよ。けど、あのとき現れたあなたがとても立派な、素敵なひとに見えたから、そんなことすっかり忘れてしまって……。
 ええ、素敵なひとだって、思いましたとも。けど次に、なんだか顔色が悪いわねって、もしかするとこのひと、バロック趣味の御曹司かしら、お付きの人とはぐれたのかしらって……。
 けどあのとき、わたくし急いでましたから、あれが精一杯の気遣いでしてね。
 ……また会えるって? 思っていませんでしたわよ。素敵なひとがいるなって、ただそう思っただけ。買い物の途中の道で、綺麗な花が咲いてるなって、思うのと一緒。
 だって、わたくしの暮らしはそう言うものだったんです。欲を出す余裕さえなくて、日々の労働に手一杯。運ばれてくる怪我人は、うちの診療所で息絶える人と大体同じ数でしてね……本当、悪い意味で人の入れ替わりが激しい場所でした。
 掃除炊事に、一人一人の傷の手当てに包帯の交換と洗濯。死体の処理に……喧嘩や痛みで暴れる患者さんを押さえつけることもありましたわね。ふふ、勿論、怪我も沢山しました。最初の頃は殺されそうになったり、骨が折れた時期もあったかしら。
 それでも誰かの手は望めませんから、大抵のことはひとりでやりました。いい経験だと、今でも思っておりますわ。本当です。……あの経験がなかったら、ここで泥棒呼ばわりされたとき、すぐに挫けていたでしょう。
 だって、あのときわたくしの行動を肯定してくれるひとは、どこにもいなかったんですもの。
 『徴収』は、フロンさまのバックアップと、この行為が救世に繋がるのだと言う使命感がありました。けれどあのときは……完全に自己満足でしかなくて。
 患者さんたちは、いくら看病しても命を落としていく一方。感謝されることもあったけれど、恨み言のほうがやっぱり、心に残ってしまって。近所に住むひとたちも、最初は優しかったけれど……診療所での死人が増えれば、わたくしを不気味に思うのも当然です。
 よく使うお店の人たちにも、忌み嫌われていることくらいわかっていました。街にやって来たひとたちも、わたくしの噂を聞いて遠巻きに眺めるひとのほうが多くて……それでもわたくしは、あそこから離れる訳にはいかないと思ったんです。
 今考えれば、つまらない意地ですわ。家を出たのに、また戻るなんていやだし、新しい生活の場所を一から探すのも、逃げるみたいでいやだった。
 ええ……軽蔑していたんです。あの診療所で、わたくしなんかよりよっぽど長く、手際よく、沢山の知識を持ちながら働いていたのに、あそこをあっさり手放してしまった先生や先輩がたを。
 だから一緒になる訳にはいかなかった。それに、あそこにはわたくしのことを馬鹿にした患者さんがいましてね。だからあのひとは絶対完治させてあげて、見直してもらおうって、最初の頃は思ってました。
 ……いえ。散々泣かされたひとですから、最期まで苦手でしたわ。……ええ、死にました。わたくしのこと、最期まで馬鹿にしたままで。
 すみません……話が脱線してしまいましたわね。それで、あなたのことを好きになった瞬間でしたっけ?
 ……そうですわねえ。初対面の印象はさっき言いましたでしょう?
 それで、次に会ったときは……そうね、嬉しかったかしら。またあなたと会えたのもあるけれど、あんなふうに気負わなくてもいい会話自体が、なんだかとっても懐かしくて。
 わがままなひとねえ、と思いました。悪魔さんだって知らされても、どう怖がればいいのかわからなかったんですもの。
 だって、あなたは素敵なひとだって思ったって、さっき言ったでしょう? そんなひとを、どう怖がればいいんです?
 そう言う問題でもない気がしますけど……まあ、今はそこは一旦置いておいてですね。
 ええ、ですから。もう約束を交わしたときには、あなたのこと好きになっていました。
 あなたに会えるのがとても楽しみで、あなたが見てくれていると思えば嬉しくなって、あなたとお話できるのは、これまでの辛さのご褒美ではないかしらと思って。だから全く、怖がれなくて。うふふ、申し訳ありませんでしたわね、ほんとうに。
 けど……恋愛的な意味合いでそれを自覚したのは、やっぱり、死に際になるのかしら。
 そんな、辛そうなお顔をなさらないで……いいの。今こうしていられるんですもの。
 わたくしは、あなたに看取ってもらえて、あなたにまた会えて……今みたいに一緒になれて、幸せですのよ。
 わたくしの後悔は、あなたをあんな約束で戒めて、苦しめてしまったことだけ……。おまけに、こんなふうになってもまだ血を吸おうとしてくださらないんですから……。
 はいはい、そんな強がり……ん、あ、っぅ、ぃや、駄目ったら、ヴァルバトーゼ、さんっ!
 じ、事実じゃないですかっ、もうっ! ……は、くぅう……あ、んふっ、うぅ……ぁ……。
 な、ならっ、……教えて……。今度、は、っあなたが……ねっ、教え、あ、ひ、んんん――ッ!

◆◇◆

 あまりそう言う言質の取り方は感心せんな……まあ、いいだろう。
 しかしその……なんだ、その手のアレは……んんっ、いや、男に二言はない。よかろう、言ってやる!
 ………………………………。
 ……………………。
 …………。
 ……い、いや。その。か、確証の有無が曖昧でなあ……!
 だ、大体、悪魔がそう言うものをあっさり自覚するのは、その、おかしかろう……!?
 そうだっ。悪魔にも夫婦や友人関係があるのは否定せんが、それに愛が関わっているとは普通思わんっ。個々の関係の根底にあるのはあくまで利害の一致。俺とフェンリッヒがそうであるように、相応の条件によって協定を結び、更には馬が合う性格でなければ付き合いさえない。
 ……まあそんな表現もするらしいが。俺としてはあまりその単語を使ってほしくはない……。
 で、……お前の、あれか。
 ……まあ、最初に会った時点での印象はしっかり記憶に残っている。ああ、腹立たしくて不愉快で意味のわからん娘だと思ったさ。
 何せ、俺は人間を恐怖に陥れるのが使命であり、その使命に忠実たれと己を磨き続けてきたからな。油断していた節は否定できんが、人間の女ひとり、すぐに悲鳴を挙げさせて血にありつこうと考えていたと言うのに、全くお前ときたら……。
 しかし……その、瞳だ。その色が、すぐに飛び込んできて。
 不思議な色だと思った。見たことがあるようで、ないような……平凡な、この世にあって当然のはずなのに、何故だか吸い込まれそうな瞳だと思って、思っていたよりずっと幼い女だと、ああ。まあ、きらいな造形ではなかった。その、むしろ……なんだ……。
 ともかく! ともかく……おい、笑うな。
 は? なら顔を隠すなっ、おいっ、アルティナっ!!
 …………おーまーえーはっ…………!
 …………もう寝るぞ。ええい、やめろっ、拗ねてなどいないっ!
 ……ならもう笑うな。俺次第? 抜かせ。お前次第だろうが。
 ともかくだな。馴染みの演出と手順でお前の前に現れたつもりがあの見事な不発っぷりだ。お前の神経が特別製だとまだ知らなかった俺は、あのあと悔しさで空腹なぞ感じる暇もなかった。
 だから朝まで待った。本来、悪魔の狩りは夜行うものだがあのときは例外的にな。お前が独りで現れる瞬間を待ち続け、次はどうして怖がらせて血を啜ってやろうかあれこれ方法を考えたとも。
 だがお前はやはり怖がらなかった。それまで死体を埋めてぴいぴい泣いていたくせに、俺には涙の片鱗さえ見せんのがますます悔しくなった。
 思えば……あの時点から俺はお前に振り回されていたのやもしれん。同胞たる悪魔にでさえ恐れられ、大層な二つ名で呼ばれてもまだまだ身の丈に合わぬと思っていたつもりが、粋がっていた部分もあったのだろう。人間の娘たったひとりを怖がらせられないどころか、そいつに憐れまれた上で身体ごと差し出されて、軽い混乱さえ覚えた。
 だから。……だからお前を怖がらせると告げた。悪魔としての矜持を奮い立たせてな。
 ……馬鹿者。あのままお前の血を吸えば、俺はお前から同情されて血をいただくことになるのだぞ。そんな真似、許せるものか……。
 それにお前の血をあっさり吸うのは……なんだ。その、勿体無い、気にもなってな。同情されて腹立たしいのもあるが、あっさり吸うのはおかしい気がした。もっとお前のことを知って……声を聞き、その目で見つめられ、どんなことを考えているのか、そうしていろんな……もっ、勿論、恐怖も含めてっ、表情を堪能した上で、血を吸うべきだと思いついてだなっっ!
 ……笑っていないだろうな? おい、アルティナ。ほれ、顔。もっと上に。
 …………。いいだろう、まあ微妙な線だが許してやる。
 それで、だ。……どこまで説明したか忘れたが、だからお前と約束した。
 そのときにはもう……い、いや、なんでもない。まあ、その、お前は実に興味深い存在ではあった。
 だから観察した。ずっとお前のことを監視して、観察して……おかしな感覚だった。お前のことを一つずつ知るごとに、もっと知りたいと思えた。お前がどうして笑うのか、どうして怒り、どうして泣くのか。あんな環境で、どうしてあんなお人好しでいられるのか……気高く、清く、強い心でいられるのか。
 あの頃は……多分だが、その、お前を欲しいと思ったことはない。お前を見つめるのに精一杯で、お前のことを考えるのに手一杯で、話しかければ散々振り回されて、そんな余裕など生まれなかった。
 だがな、やはり……あのときお前とともにいた三日は、輝かしかった。初めて出会ったときから、ずっとお前は眩しかった。
 三日で終わるとは思わなかった。むしろその逆、三日では終わりそうにないと思ったからこそ、一時的に目を離して本腰を入れたつもりなのに、あんなことになるとはな……。
 そんな顔をするな……。お前に責任はない。お前を助けてやれず、約束を破った俺のせいだ。
 ……ふん、頑固な奴だ。まあよかろう。責任を感じているなら、また次の機会にでもお前に大いに頑張ってもらおうではないか。
 ん……なんだその目は。お前から言い出したのだぞ。それに俺は乗っただけだ。イワシ料理も考えたのだがな、まあそれは他人や別の機会に回せんことはないから、なるべくこっちの……ええい、男の本能に文句をつけるな! また襲ってほしいのか!?
 ほほう……! どうやら図星のようだなアルティナ。うむ、実にいい傾向だ。
 いいやっ、いくら口で否定しようがお前はそう言う目をしていた!
 と、言う訳で今夜は寝かさない方針でいく。ククク……今更謝ってももう遅いぞ? 俺がその気になったからには、今夜はとことん付き合ってもらう。
 さあ、覚悟するがいい!

◇◆◇



「……ねっ。きゅうけつ、き、さん、……ヴァル、バ、とぉぜ、さんっ?」
「ん?」
「ぁ、んんっ、ぁい、してるっ……ずっと、あなたの、こと……好き」
「……ああ。俺もだ、アルティナ」


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