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誰編出るかトトカルチョしようぜー

2013/09/12

<つってもおめー賭けれるもんねえだろ

 …り、リクエスト受け付けるとか…?>

<ヴァルアル以外の閣下絡みのカプ地雷じゃねーか

 そうでしたー>

 と言う訳で発売日決定+予約開始+予約特典発表+正式オープン日決定+ティザーサイト公開おめでたい。本格始動はアルカディアス後かなーと予想してましたがマジでその通りとは思わなんだよ……もうちょっと早めてくれてもいいんじゃよ?
 しかしライブでクリガと同時に発表してた日程はもう一、二週間早かったような気がします。やっぱ3Rの悲劇再びにならないために開発期間長めに取っておこうと判断したのかしら。
 ところで10月にはディレクター誰なのかわかるんですかねD2の井上さんならご遠慮願いたいんですけどシナリオの出来的な意味で。周期的には神パラチームがディスガイアに出戻ったのかなと邪推したいところだけど、また新タイトルや5の開発しててもおかしくはない。かと言ってD2のゼノ兄さん仲間になる編を出さないまま終えるのは不自然なのでD2チームにはそっち頑張って欲しい。けどVITA担当は元3RチームのD2チームだっけか? …どうなるのかなあ。

 まあとりあえず今我々にできることは脳天気な予想しかないと思いますので以下予想図。

Read...

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指導者と支配者と

2013/09/28


 魔王城、ついに共有浴場設置。
 その報せが城内にもたらされた瞬間の臣下面々の喜び、または衝撃は、ちょっとした言葉で表せるものではない。
 多分、先代魔王クリチェフスコイが復活したときがあるならそのくらいじゃないかととある悪魔が述べ、いやいやあのおぞましい天界の花が一気に吹き飛んだときと同じくらいだとまた別の悪魔が言い返し、いやいやいやそこは殿下がまた女体化してもう一度戻ろうと議会に行ったら大量のマナを請求されてもう二度と戻れないんじゃないかと噂されたときと同じくらいだろうと口を挟み――隕石が落ちた。下手人についてはとやかく言うまい。ちなみに渦中の人物は現在立派に『彼』に戻っている。
 閑話休題。城内の住人たちが勝手に金なり材料なりを持ち寄って造ったものは一旦無視するとして、何故今の今まで共有浴場が設置されていなかったのか、理由については悪魔の体質、性質ともに関係深い。
 人間ほど代謝が激しくない彼らはそれだけ激しい運動をしても垢や汗があまり出ない上に不潔にもなり難く、概ね清拭すれば人間にとって入浴相応の爽快感を得られる。そのためわざわざ湯船に全身で浸るのは贅沢な、女性の美容法の一つだとか、年寄りの健康法の一つ程度の認識が強い。ついで浴室を造るとなると一般的な部屋の増築以上に手間と費用がかかる訳で、トイレに行っても手を洗わない上に吝嗇と評判の当代魔王がやると思うまい。
 それに複数人が一緒に詰められて、ほぼ裸で、心境的にも無防備な姿を晒す場など――基本他者に接する際は下克上の可能性を大なり小なり含んだ奴隷と支配者のそれ、及び親子であっても互いの背を狙うのが当然の悪魔にとってはいかに危険かは想像に容易かろう。
 事実、臣下から絶大な信頼を得ていたあの先代魔王クリチェフスコイでさえも、その臣下たちと、もしくは臣下間で膝付き合わせて語り合う場として浴場を設けなかった。だから今後新設されることもまずないわよ、なんてことをその臣下の一人であった赤毛の少女が声高らかに語ったのをどこかの誰かが聞いていたのかもしれないが、ともかく魔王城に浴場ができた。それは変わらぬ事実である。
 そしてその事実がもたらした希望と感動に、打ち震えるものがここにひとり。
「ようやく……ようやく皆さんと一緒に入れるのね! 今のあのすぐ熱くなったり冷たくなったりお湯が全然安定して出ない上に一人で入るだけでぎゅうぎゅう詰めな狭いお風呂から解放されるんですねー!!」
 魔王城の居候、元天使見習いにして現堕天使である愛マニア、フロンの叫びに応じるよう強く頷くもの、もうひとり。
「うんうんっ! もう抜け毛とか垢とか脂が浮きまくってて、生温いって言うかぶっちゃけると湯冷ましみたいになっちゃってるお風呂にも入らなくていいんだねっ!!」
 天使見習いにも関わらず自称先代魔王の娘と名乗るシシリーがフロンに同調するものの、こちらは更に悲惨な入浴事情を強いられていた。魔王城の住人の中でも新参に入る彼女は、その血筋に関わらず入浴を許されるのは最後のほうで、シャワーもない質素な浴室で上述の状況を半月ほど味わった結果、あんなのをずっと強いられるくらいならと自室の猫の額ほどのテラスで盥に湯を張る道を選んだくらい。
「そうですよー! お風呂に興味がないラハールさんを説得するのにどれだけの時間と努力と熱意を要したことか!」
「ほんとだよねっ! 今思えば、やっぱりお兄ちゃんがお姉ちゃんになったときの生活が利いたんじゃないかな? あのときだと結構頻繁にお風呂入ってたし!」
「だと思います~。わたしとシシリーさんの説得の効果もあるんでしょうけど、やっぱり実感してもらわないと駄目ですもんね! そう考えてみたらやっぱりあれも必要な出来事だったんですねえ~」
「ああっ、世の中にはいらないことなんて起こらないんだね! なんだか世界の真理を見た気分だよ……!」
 天使と堕天使が手と手を取りあい、感激に頬を紅潮させるついでに何故かぐるぐると回り始める。その光景は百合の花咲く耽美さよりも、子犬のじゃれ合いめいた微笑ましさが強いのはふたりの体型所以か。
 だがここは魔界。天使たちの乳繰り合う姿に感動だの和やかさだのを抱くのはよっぽどの好事家で、大半の悪魔は呆れか無関心のいずれかしか持たぬもの。
「あ、あの……いい加減、入りませんか?」
 と言う訳ではしゃぐ二人の先輩に、鬱陶しげな視線を送りつつ通りがかる悪魔たちの心情を読み取って肝を冷やしたのがもうひとりの天使。未来から来たと自称し金銭を好む『業欲』の名を冠したアルティナが割り入ると、はっと二人も我に返る。
「むう、そうですね……。感動のあまり、わたしたちの使命をあやうく忘れちゃうところでした……」
「一番乗りできるんだから、エトナさんの言う通りお風呂の中しっかりチェックしなくっちゃね!」
 その通り。
 件の共有浴場がついに完成した本日、現場の責任者兼一応当代魔王の部下であるエトナが、完成したことはしたけど実際に使わないとわからない不備もあるだろうから試してくれないかと、言い換えれば一番乗りの権利をやるから実験台になれと三人の天使に頼んできたのだ。
 典型的な悪魔の少女らしく、残酷で気まぐれで基本自分の快楽を第一に優先するエトナには珍しいことではあるが、完全に情がない訳ではない。共有浴場建設について口酸っぱく魔王に啓蒙していた天使ふたりの努力を汲み取ってくれたのだろう。ちなみに彼女専用の浴室は城内で最も金をかけ常に最新鋭の設備を整えているらしく、曰く不自由したことがないとのこと。
「そういえば……」
 やる気に満ちて両の拳を握りしめたシシリーが、自分よりも新参の、しかしどう見たって自分よりずっと年上であろう天使に振り返る。
「アルティナさんがお風呂で困ってるなんて話聞いたことないけど……どうして呼ばれたんだろ? 普段はどこ使ってるの?」
「わたくしはフロンさんと同じところですから、わたくし自身が口にしていなくても不便な思いをしていると思われたのでは? 天使が清潔を好む性質なのは事実ですし」
 そうなの、と目を丸くする幼い天使に、同じ風呂を使っているフロンは深々顎を引く。
「うんうん、確かそうですよね……。けど、だったらアルティナさんはあそこ使ってもなんとも思わないんですか?」
「そうですわねえ……特には。体を洗う分には問題ない水があれば十分ですし」
「……え」
「おおう……」
 三人の中で一番大人びた天使の、物言いは軽いくせにやけに重い響きの発言に、残り二人の口元が思わず引きつる。天使の身にも関わらず悪魔相手に誘拐事件を起こした時点で肝が据わっているのはわかりきっていたが、どうやら彼女は二人の予想を遙かに越える劣悪な環境の中を生き抜いてきたらしい。
 なのにこちらは不満を抱き、おまけに不満を解消する方法が他人頼みの啓蒙活動なんて。なんて自分は情けないんだろうと意気消沈していく少女天使二人に、水を差した張本人大いに慌てた。
「おっ、お二人ともいいから早く入りましょう! こんなところで油を売っていたら、わたくしたちの報告を待つ悪魔の方々にご迷惑がかかりますし!」
「あ、そ、そうですね!」
「よーし、きっちり入ってしっかりチェックするよー!」
 そうだとも。反省だけならいつだってできる以上、今は有効に時間を使わねば。と現在城内の悪魔たちからの羨望を一気に受ける三人の天使はようよう共有浴場の、下ろしたての暖簾をくぐったのだが。
 ――本題は、そちらではなくて。

◆◇◆

 プリニーに買いに行かせた、期間限定苺たっぷりとろ生練乳スフレとやらはなかなか。及第点をつけてやってもいいくらいに濃厚でまろやかで新鮮で、何よりここが肝心なのだが、脳が蕩けそうに甘い。
 今年のあそこの期間限定商品は結構当たりが多いじゃないかと最後の一口を頬張ったエトナは、気だるくも指をぱちんと一鳴らし。口の中のものを喉に押し流す間もなくプリニー三匹が進み出れば、紅茶、炭酸水、苺シェイクとそれぞれ丁寧に差し出してくる。
「……んぐ」
 今の気持ちは紅茶かなと、湯気立つカップを受け取ればその香りの芳醇なこと。こちらを主役に据えても問題ないほど高級茶葉の予感がしたが、やっぱり飲み物は添え物だろうと気だるさに浸りながら娘は思う。思うついでにカップの中身を一気呑み。これもまた背徳の一種だろうか。
「ん~……やっぱ変わるもんねえ」
 次は炭酸の気分だからと、その隣のプリニーが持つ盆からレモンの輪切り入りのグラスを受け取ってエトナはいくらか以前を思い出す。
 城内のプリニーは基本的にエトナ直下の使いでもあるため、彼女自身が神の如き絶対の存在であり、その命令はお告げに等しき重みを持つはずなのだが――そんな掟を強いていようとも、根本的にやる気のない連中の性格まではなかなか変えられない。呼んでも反応しなかったり遅かったりと、陰でどう思っているのか見透かせる態度に苛立たされることもままあって、だから彼女は日頃から付け上がらせないよう、さぼる暇を与えないよう彼らを厳しく扱ってきた。
 なのに最近の木っ端悪魔どもときたら。まるで心を入れ替えたように素早く適切に、しかも質の高い対応を寄越してくるので、ここ最近のエトナは怒るに怒れない、安穏と堕落の日々を過ごしてある。
 いや、実際にプリニーどもは心を入れ替えたのだ。だらしない雑魚悪魔どもについぞ業を煮やした城主がプリニー世話係として雇った男の手によって、彼らは忠臣に生まれ変わった。しかしそいつを脳裏に思い出せばエトナの胸に黒いものがちらつき、無意識に口先が尖ってしまう。
「……ふん」
 男の名はヴァルバトーゼ。もといた魔界の地獄で、プリニー教育係を生業にしている吸血鬼である。つまりプリニーの扱いにかけては玄人の彼女以上、達人と呼んでも過言ではなかった。
 だが唐突に現れた男にこうも短期間でプリニーの質を上げられるなど、エトナにとっては相手がどんな肩書きを背負おうが面白くない。ろくな会話なぞしていないが、まるでそれまでの自分の扱いが間違っていると指摘された気分になるほど。
 おまけに男の仕事は完璧で、文句をつける隙さえないのがまた気に障るったら。それどころか彼女が最もプリニー改善の恩恵を受けているため、周囲に愚痴を漏らしても同意は一向に得られず、逆に感謝すべきじゃないのかとからかわれるほど。
 しかしエトナは歴とした悪魔だ。誰かの仕事に手放しで褒めるなど、想像するだけで背筋が粟立つ、柄じゃない。故にここ最近の彼女が新入りプリニー世話係に抱く黒い靄は、至れり尽くせりによってどうにか覆い隠されてある、臭いものに蓋した状況が最も適切。
 だがやはり、エトナも悪魔だ。田中なんとか言うでかぶつもぶちのめし、プリニーどもをいびる取っ掛かりを失い、のんべんだらりと甘い菓子に溺れる日々も長く続けば飽きてくるし意欲も暇も持て余す。なので昨今ようやく悪巧みを思いつき、ついに本日実行に移したところ。これが成功すれば、自己満足だが悪魔としての面目欠如となり得よう。
 そして今現在――夜半を過ぎ、閑古鳥鳴く薄暗い書庫の。更にもっと人目がつかない本棚の上、窓からの月光を照明にしたロフトスペースでプリニーを囲いながら、少女はだらだらその結果を待っていた。
「エトナ様、作戦完了しましたッス」
 と、待ちくたびれてきたタイミングでまた現れた新たなプリニーたちが、目的地から回収してきたらしいテープをいくつか持ってくる。彼らの表情から察するに、どうやら中身は見ていないらしい。いやまったくもっていい臣下に生まれ変わったものだと、皮肉っぽく喜びながら軽く身を乗り出して訊ねた。
「どうよ、あの子たち気付いてそうだった?」
「いや、今も無邪気にはしゃいでたッスから多分わかってないッス。それでエトナ様、今から中身確認されるッスか?」
「んー面倒臭いし別にいいわ。……あ、けどざっと確認しとかないと売っ払うとき文句つけられるだろうし……しゃーないわね。見るだけ見るか」
 ならばと小型のテレビと再生機を持ってくるプリニーまで現れて、この反応は単純に忠誠心から来ているのか助平心の現れか。どっちでもいいと一蹴し、再びだらしくなくクッションにもたれかかりながらストローの先を啜り上げる。この甘さと辛さと酸っぱさの絶妙なバランスは、キャラメルポップコーンと奇跡の調和を生み出すに違いない。ので、その袋を持ってこさせてばかんと開封。
「飽きたらあんたらに任せるわ。けど編集はやんないようにして。長さについても無修正ってのをウリにするつもりだから」
「アイアイサーッス!」
 威勢のいい返事になんらかの予感は覚えたが、まあいいかと下僕どもを下がらせないままリモコンのスイッチを入れ、記録された映像を始めから再生する。
 周囲の薄闇を払う、くっきり明るい液晶画面に映されたのは、湯気立ち上る部屋の一部の映像だった。壁も床もタイル張りのそこから、微かに噴水と思しき水音が聞こえてくる。
「あーきちんと音も拾ってるんだ。ふんふん、思ったより画質も高いしいい感じね」
 律儀に待つ気はないため、早送りのボタンを押す。そうしていくらか経ってから、湯気以外は不変だったそこに変化が生まれた。
『……い広い! ほんとに広いし綺麗だよ、フロンさん、アルティナさん!』
 まず最初に映り込んだのは、茶髪に兎の耳めく跳ねた触覚を持つ天使の童女。ほどほどに遠距離のため子細はわからないが、タオルで前も隠さずに、生まれたままの姿のシシリーがはしゃぎ飛び跳ねる。
「うすっぺった!」
 その、遠くからでもわかる飛んでも全く揺れない部位の、見事としか言いようのない絶壁っぷりにエトナは思わず叫んだ。
 周囲のプリニーはあまりの生々しい幼児体型にそっと視線を外したり逆に目を血走らせたり、このひとが言うのかと思わず主を見返してしまったが結局無言を貫き通す。さすがにここでの爆発は彼らもご遠慮したいらしい。
『だめだめ、そんなにはしゃぐと転んじゃいますよシシリーさん』
 続いて現れたのは、洗面器を携えた少女らしい体型のフロン。こちらさすがにタオルで前を隠していたが、先と比べて僅かながらに肢体の輪郭に抑揚がつき、なんだかんだで育ち盛りだと実感させる。ついでに髪も大きくまとめて、それだけでもなかなかに新鮮な。
「んー……やっぱフロンちゃんのが微妙にあるか、って」
『あの、おふたりどちらか忘れ物をしていらっしゃいません?』
「ぉおぉお~……」
 最後の天使の登場に、プリニーたちから思わず感嘆の声が上がる。
 三つ編みのまま、こちらも前をしっかり隠しはしているが三人の中では最年長だろうアルティナの、しかして手やタオルごときでは隠しようもない豊かな胸部や腰周りの肉付き、手足の華奢さに反した柔らかそうな肢体にはそんな反応も出て当然。だが。
「はっ、わざとらしい隠し方しちゃって。天使のくせに媚びきった体型とかどうよそれ」
 自称ナイスバディでありながら、やはり巨乳には種族を問わず殺意を抱かざる終えないエトナである。面白くなくポップコーンを頬張りながらテレビ画面を眺めていたかと思いきや、もう飽きたのか早送りを始める。
 以降その画面に三人のうち誰かが映っていたのはほんの数秒。随分長いこと再び無人の光景が広がっていたかと思いきや、たまにシシリーやフロンが脱衣所側と浴室に行ったり来たりが数回あって。
 結局また三人が揃って映ったのは、風呂を堪能しきって出ていくところ。今度は後ろを向き、それぞれの背に生えた羽やら尻やらを観賞する間を持ってから映像は完全に無人に戻った。
「ふんふん、出入り口付近だとこんなもんか。次は?」
 そして悪魔の少女は完全になんとも思っていない表情で、新たに別のテープを再生すべく手に取る。周囲のプリニーどもの表情は統一されていないが、こちら細々言及せずとも共通してなんとなく気まずげなのはお察しいただけるだろう。
 そう。つまりエトナは大浴場の至るところに隠しカメラを仕掛けたのだ。否、現場責任者の権利を発揮し、仕掛けたどころか組み込んだ、かなり本格的な覗きをやらかしていた。
 当然ながらこれは彼女の個人的な趣味ではなく、需要のある層に売り込んで小遣いを稼ぐための罠である。彼女自身は使っている風呂に不満がなく、そのため共有浴場を使う予定もないからこそ可能な、城内の多くの住人を犠牲にした悪巧みと言えよう。
 三人の天使に一番風呂を頼んだのも、カメラの最終テスト兼玄人向けだがそれだけに高値がつきそうな予感から。こんな方法で金儲けなら、確かに悪魔の面目欠如と言えるだろうと彼女自身は至って満足していたが――はて、その前に肝心な何かを忘れているような。いや、考えないことにしているような?
 ふと脳裏に薄暗い、どうしようもないざわめきが過ぎったけれど、菓子を貪ればすぐさま心の平穏を取り戻す。そうだ、多分この胸騒ぎは脳に甘味が欠けたせいだろう。
「んーこっちは背中率高いわね~。フェチな奴にしか売れなさそうって……。つか、天使の裸なんてそもそもフェチ向けか……」
 だから調子を取り戻したエトナは次のテープもざっと確認。また次のをと手に取ろうとしたのに、薄暗いせいで手元が見えづらいからか、袋菓子の中身がすっかりなくなっていると知らされ舌を打った。
「ったく、思ったより量少ないじゃない。最近はどこも袋ばっかりでかいくせに中身ケチってるやつばっかね」
「ならばこれでも食うがいい。カルシウムが補充できる上に美味いぞ」
 横から手渡された袋菓子の中身を勢いそのまま口に放り込めば、口に生まれるのは塩気の強い、まあうま味と言えばうま味はあるが彼女が求める甘味からはほど遠く、むしろ骨だの身だのが混じった苦味の強い。
「骨煎餅とかいらねーっての。ちょっとあんた、あたしの好みわかっ……」
 てるのと責めるはずの声は、その手渡してきた張本人を目して掻き消えた。
 いつの間にいたのか。エトナの真横、仁王立ちで彼女を睥睨していたのは、周囲の闇に溶け込むような黒髪痩躯、上等そうな黒い外套は真紅の裏打ちを施して、その奥には礼服めいた貴族的な装い。なのにそれらを台無しにする青魚臭さを漂わせた、プリニー世話係にして教育係。
「ふむ。プリニーどもの不自然なほどの集まりように予感を覚えてみれば、よもやこんな場に出くわすとは……」
「げっ!」
 よりにもよって見つかったのがヴァルバトーゼとは。
 エトナにとってはプリニーの件からして印象が悪いこの吸血鬼、ついで鬱陶しいほどの堅物のため、盗撮映像など発見次第破棄したがるだろうことは予想に容易い。だが翻せばそれだけだ。見つかった程度で取り乱すなんてこのエトナ様らしくもないと見栄を取り戻せば、すぐさま剣呑に睨みつける。
「……たかがプリニー世話係のくせに、あたしのプライベートエリアに勝手に入んないでくれる?」
「ほう、そうだったか。それは悪かった、謝ろう。……しかし、こんな無防備な、壁もないところでそんなものを見ているお前もどうかと思うが?」
「今何時だと思ってんのよ? こんな時間にこんなところに来る奴なんて、普通に考えたらいないでしょ」
「しかし現にこうして俺が来たが?」
「……うっさいわね」
 一応、プリニーどもは遮蔽物兼人払いの保険として囲っていたつもりだった。しかし今の連中は全員みっちり再教育を施されたため、エトナがめねつけても冷や汗を浮かべる程度で、敬礼したままぴくりとも動かない。恐らく最初こそは近づいてきた吸血鬼を抑えようとしたのかもしれないが、彼の一瞥で全面降伏の道を選んだのだろう。
 だとしたら全くもって面白くない。城のプリニーは全て自分に絶対服従のはずだったのに、この男は短期間でそれを一気に塗り変えて、おまけに自分が正しいとばかりの自信に満ちた面構えでいる。
 そう認識した途端、堕落に誤魔化されたエトナの中の黒いものがごぼりと泡を立てた。そいつはそのままゆっくり奥底から浮上して、彼女の心を粘っこく塗り潰していく。その正体は嫌忌か憎悪、はたまた嫉妬か劣等感か――兎角、敵意であることには違いない。
「んで、なんの用。できればあたしの機嫌がこれ以上悪くないうちにとっとと出てってほしいんだけど?」
「安心しろ。俺も多忙ゆえ、早急に用を済ませれば出ていくつもりだ」
「へー、それはありがたい話ねえ。で、用事ってナニ」
「先のあれ……風呂場のカメラと盗撮映像、両者ともに全て破棄しろ」
 駆け引きの要素を廃した男の切り返しに、少女の口元が思わず引きつる。しかし少しは客観性を取り戻し、余裕ありげに肩を竦められた。
「って言われてもねえ……。別に寝てる子の部屋の鍵開けて野郎相手に斡旋する訳じゃないんだし、裸見られるくらいなら誰も損しないんじゃないの?」
 被写体の体にまで害は及ぼすまいと極端な発言でしらばっくれると、男は瞬きもせず顎を引く。
「ほう。そう思うのなら、どうしてお前もあいつらと一緒に入ってやらなかった」
「は、冗談よしてよ。あたしがあいつらと一緒に風呂入らなきゃなんない理由なんてないでしょ。天使は天使同士仲良くすりゃいいじゃん」
「ふむ、そう考えている割にはあの堕天使とお前はあの連中より余程親交が深いように見えるが。自分でもその発言は矛盾しているとは思わんのか?」
「……さあね」
 いやなところ突付かれしらを切れば、吸血鬼は忌々しくも肩を竦めてさっきの自分の仕草を真似てきた。それだけで腹の底が熱を帯びるが、挑発に乗るまいと拳を握りしめ耐える。なのに男の説得は淡々と続き、彼女の余裕を削っていく。
「付き合う切欠が打算だろうと偶然だろうと、親しいものの裸体を他者に売り払うなど感心せんぞ。相手が天使なら、お前の裏切りを怒るよりも悲しもう」
「それがどうしたっての? 誰に悲しまれようとここは魔界で、あたしは悪魔よ。天使どもの間抜けな脳味噌に厳しい現実教えてやるんだから、逆に感謝してもらわなきゃ」
 せせら笑って無傷を証明、お前の小言は全くの無駄だと先んじたつもりなのに、男は頑として動じない。それどころか青白い光を浴びた鮮血の瞳は彼女を憐れんで、まるで出来の悪い生徒を前にしているようでさえある。
「……魔界が弱肉強食で成り立っている点は否定せん。しかしお前のそれはこの世界の掟に則っている訳ではないな? 己の力の証明や誇りのためではなく、己の堕落のために他者を犠牲にするなど、正しき悪魔の生き方ではなかろう」
 二つの地雷が狙ったように見事に踏まれる。冷静さを心がけていたはずなのに、そこに触れられた少女は我を忘れて唸りを漏らす。
「正しいだの誇りだの……!」
 うんざりだった。
 そんな台詞を吐いても違和感がないのはあの偉大にして誉れ高き先代魔王だけなのに、この男は平気であのひとと同じような物言いをする。まるでこの男は自分より一足も二足も先にあのひとと同じ目線に立っているのだと、賢しげに自慢しているようではないか。
 自分よりプリニーどもに強い影響力を与え、更には憧れたひとの価値観にまで辿り着いたのがよりにもよって落ちこぼれ悪魔の代表職、プリニー教育係だなんて。
 初恋のひとを侮辱された挙げ句、自分を見下された二重の屈辱に、ついぞエトナは吠えた。
「あんたみたいなクッソ弱い、魔力だって欠片もない奴に言われたかないわね! 大体そんな偉そうな口利いてるけど、すぐ止めなかったってことは、あんただってちょっと中身見たかったんじゃないの? あの中に気になる子でもいたとかさぁあ?」
「……っ!」
 完全に自棄から出た当てずっぽうだったのに、当たるときには当たるものだ。あれだけ超然としていた男が最後の一言に動揺を示し、少女の口角が上がる。そのときの彼女のかんばせときたら、鼠をいたぶる猫のそれそっくり。
「へぇえ~? 誇り高き悪魔とかどうとか抜かすくせに天使が気になるの、あんた?」
 だが男も男でそれしきで崩れるほど柔くはない。すぐさま毅然とした態度を取り戻し、彼女を睨みつけてくる。しかし芯まで動揺を押し隠せていない証拠に、眼光に籠もる力は以前より弱い。
「……気になどならん。いいからそいつを破棄しろ。今ならこの件は誰にも」
「お目当ては、そーね……あんたシシリーちゃんとはプリニーの件でよく話しかけられてるっぽいけど、完全に子ども用の対応だし? ロリコンってキャラではないか」
「おい貴様、俺の話を……!」
 脅しを無視して話を進めれば、男は目を剥くがその反応こそ隙となる。さっきまでとは綺麗に逆の立場に入れ替わり、安定感に満ちたエトナの声が推測を悠々続けていく。
「フロンちゃんとは……ううん、そもそも会話の共通点ないか。となると……残すはあの半乳天使?」
「はっ……!?」
 ビンゴだ。
 目をかっ開き青白い頬を僅かに紅潮させた男に、勝利の手応えを感じ取た悪魔の少女。余裕たっぷりほくそ笑む。
「へーえ、そうなんだ~? あの中で一番乳でかくて従順そうな女に唾つけるとか、あんた誇りだの使命だの五月蝿いくせに結構俗物ね~。しかも夜魔よりガード堅い天使がいいとか……やっぱあれ? 悪魔の女なんて喰い飽きたから玄人好みにシフトチェンジってノリ?」
「なっ、馬鹿もの! 貴様のそのあまりの品のない言いように言葉を失っただけだ!」
「んなこと言ったって無駄よ無駄。……そうそう、思い出したわ。あんたあの天使とは初っ端から仲良かったわよね。フロンちゃんが不思議がってたっけ」
 エトナにとってはどうでもいい話のため思い出すのに難儀したが、確かそうだったはずだといつかの記憶を掘り起こす。
 実力さえ確認してしまえばほかは無関心な悪魔と違い、仲間との繋がりだのなんだのを重視するフロンは城の住人たちの関係にも興味を示し、新入りが来るたびにその辺りまでじっくり調べる習慣を持つ。
 誰かのつてを頼って仲間入りならともかく、完全な『新入り』なら最初からある程度仲がいい相手なんて城内にいないと思うしそれが普通なのだが、この吸血鬼は例外だった。
 ともに仲間になった胡散臭い人狼の従者と信頼関係を築いているのはまあ当然として、何故か未来から来たと抜かすあの天使とも仲がいいらしい。初対面のはずなのに互いを知っているようでもあって、これはラブの匂いがしますと鼻息荒く騒いでいたか。
 その予想が当たろうが当たるまいが、今この場ではどうでもいい。問題は、絶好の機会に得たこの武器をどう使うかである。
「ま、あんた仕事は真面目にやってるんだから、プライベートではじけるくらい個人の趣味の範囲だし別にいいわよね~。股開けばなんでもいいとか抜かす馬鹿よりよっぽどマシよ、うんうん」
 ついさっきまで俗物のなんだのと馬鹿にしていたくせに、朗らかに同調するエトナに吸血鬼が身構える。このくらいで警戒心が解ける訳がないと彼女も理解しているので、口元そのまま薄らと目を開け本題に入った。
「じゃあさ。あの天使のいいとこ、あんたにあげる」
「…………何を」
 硬質な黒髪の向こう、意志の強さを示す眉が険しく歪む。
 紅い瞳はますます不機嫌そう、エトナへの不快感も露わだがその心の奥底はどうなのか。食指が動かない、揺れていないと断言できるか。いや揺れているはずだ。この男も綺麗ごとを口にしていながら、所詮は己の欲望に生きる悪魔なのだから。
「あんた、あの女にしか興味ないんでしょ? だったら映ってる分であいつのとこだけ抜き出した編集済みのテープ、タダであげるわよ。って言っても基本遠景だから、肝心なとこはモザイクかける必要ないくらいにボヤけてると思うしその辺は先に謝っとくわね。あ、なくしてもダビング二回までならタダであげる。それ以降は悪いけどテープ代自腹切って……」
「ダビングなどいらん」
「へえ……?」
 一本きりで十分か。そう深く頷くエトナの余裕は、続く男の言葉に打ち消された。
「マスターを寄越せ。でなければ話にならん」
「……ふうん、独占欲ってやつ? 地味に本気だったり?」
 まだからかう姿勢を保っていながら、その一言にエトナは内心大いに舌を打つ。
 あの天使はほかの二人と違って体つきがいいだけに、一番金の匂いがしていたのだ。なのによりにもよってそいつのマスターを要求されるだなんて。もしやこれは取引なんて持ちかけるべきではなかったか。
「ちなみにあの女だけではない、全員分のな」
「……それは、ちょっと」
 形勢を立て直す前に自分で破棄させろと畳みかけられ、我知らず苦笑が漏れたがここで余裕を失ってはならない。まだまだ自分が優位なはずだと、わざとらしいため息を漏らす。
「結構数あるしオススメしないけど? いつか誰かに見られたりしたら、疑われるのはあたしじゃなくてあんただし。ロリコン疑惑な噂なんて立ったら、下手すりゃあの天使にも幻滅されるわよ?」
「安心しろ、俺はそんなもの見る気も保管する気もない。すぐに滅却処分する」
 突っ込みどころを敢えて作ったはずがこの返しだ。罠も何もあったものかとばかりの対応に、少女の口の端が引きつった。
「それは困るわね~。このカメラ設置すんのにあたし結構な自腹切ったのよ? せめてプラマイゼロにするくらいの小遣いは稼がせてくんないと」
「知るか。そのような卑劣な真似で私腹を肥やそうとしたお前が悪い。そんな企てをしたところでこうして露見するのが世の定め。いい勉強代になったとこの場は諦めろ」
「はあ? 諦める訳ないし!」
 反射的に大声で否定したのに、相手は気圧されるどころか明らかな軽蔑の眼差しを投げてくる。天使狙いの悪食を棚に上げて正義面とは、悪魔のくせにちゃんちゃらおかしな話ではないか。
「大体、なんであんたに見つかった程度でそんなことあれこれ命令されなきゃなんない訳? あんた、あたしの何だっての? 偶然弱み握っていい気になってるだけの、プリニー教育係がさ!」
「いい気になどなって」
「なってるってツラじゃないの! どうせあんた、あの天使が映ってなかったら気付いても無視したんでしょ? はん、たかが女一人のために正義感燃やして他人のやることに口出しとかだっさい上にくっさ! んなもんやったところで点数稼ぎにもならないってのわかってんのこのナルオナ吸血鬼!」
 それまで順調だったのに、この男のせいで唐突に計画が潰えそうなせいか。驚くほどの勢いで罵り言葉がエトナの口をついて出て、タール状の濁りに埋め尽くされた胸にとうとう炎が灯った。
 そうだ。自分は悪魔なのだから、取引で懐柔しようとするなんてどうにかしていた。魔界は弱肉強食だとこの男も言っていたではないか。なら、自分もまた力の誇示によって己の主張を示せばいい。
「……ほう。つまり、穏便にことを納めるつもりはないと」
 完全に喧嘩を売られた吸血鬼は、それでも取り乱すような真似はしなかった。細い肩を残念そうに下げるだけで、彼女の相手になると意志表示する。
 だがその仕草を受けた周囲のプリニーどもは逆にざわつき、場の緊張感が一気に増す。連中は吸血鬼にトラウマを植え付けられ済みだからこその反応だろうが、少女にとってはちゃんちゃらおかしい。こちとら一対一ではないにせよ、以前に一度勝利済みなのだ。
 今回も鮮やかに勝利をもぎ取り、世話係の威厳に泥を塗った上でプリニーどもの畏れの対象として返り咲こう。そんな気合いをたっぷりかぎろう瞳に籠めて愛用の槍を取り出したエトナとは対照的に、ヴァルバトーゼ面倒そうにため息一つ。
「その前に約束しろ。お前が負ければ一週間、こいつらに暴力を振るわないし爆発もさせないと」
「ならこっちも約束。あんたが負けたら、あんたは一生あたしに絶対服従」
「大きく出たな。まあよかろう」
 短く首肯した吸血鬼に、エトナはやったと笑むと同時に槍を頭から降り下ろす。合図もない不意打ちになるが、そも悪魔が正々堂々勝負なんて――。
「全く……」
「ち」
 だが来ると予見されていたらしい。しかも避けるのではなく片手で真っ向から綺麗に受けられて、面白くないったら。
 しかもあれだけ力を込めた一撃なのに、相手は骨さえ折っていなかった。こちらが動く前にもう片手がぬっと顔面に伸びてきて、頭を掴まれる予感から後ろに跳んで距離を取る。が。
「な……っ!?」
 まだ手が近付いてくる。いや手にしたってかたちがおかしい陰が強い。こいつは何かを投げたのかつまり飛び道具か。
 一体なんの。あの男には武器らしい武器なんて手にしていなかったはずなのに、と体を捻り膝で着地したエトナは、自分の真横すれすれに落ちた物体に素で絶句した。
「……は?」
「軽食のつもりだったがこんなところで使う羽目になるとは……。はあ、もう一尾携帯すべきだったか」
「ぁあぁあぁ~……勿体ないッス……」
 吸血鬼の苦々しげな嘆息とともに、プリニーたちの嘆きがそいつに降り注ぐ。
 落ちた衝撃で薄らと脂を撒き散らし、ついでに中身もやや崩れたが、冴え冴えとした月の光を浴び澄んだ白銀に煌めくそいつは、連中の餌にして男の大好物。小さな海水魚らしく多いに群れて外敵から身を守るものの、それだけ漁船には捕らえられやすい、赤身と脂肪が多く、魚偏に弱いと書く生魚。
「乙女の顔に生のイワシなんて投げんじゃないわよ!!」
 これについては本気で堪忍袋の緒が切れたエトナに、ヴァルバトーゼは悪びれた様子もなく詰め寄ってくる。
「不意打ちで人の額をかち割ろうとした奴に言われる筋合いはないッ」
「うっせ!」
 膝蹴りを防ぎ、流れで足を狙うがそれは相手も予測済みか。外套で視界を眩まされ、第六感から柄を上げると直後に鋭い手刀が降りた。
 その一撃は鋭く重い。受けた角度が悪かったのか、指に力を込めねば逆に獲物を弾かれそうで、歯を食いしばったエトナは押し返すべくめいっぱい踏み留まって腰を捻る。
「そぉっ……れ!」
 力任せに穂先を男に叩き込むも、当然ながら遅いためこちら綺麗にかわされた。
 しかしその威力は我ながら吐息が出るほど絶大強力。ロフトスペースの床に、半球状のひびが入った上に槍の周囲も薄らと凹む。
「……ふむ。細腕に関わらずなかなかの魔力」
 しかしさすがは元『暴君』と言うべきか。男は彼女が作り上げたクレーターを目にしても余裕を崩さず、恐れをなした様子などこれっぽっちも見せやしない。だがそれがどうした。
「褒めても降参は聞かないわよっ!」
「うむ」
 今度はこちらが襲いかかる。
 頭を割るか腹を突くか足を払うか胸を抉るか肩叩き潰すか。手法は様々、狙いどころも選り取り見取りの嬲りたい放題に彼女は喜々と槍を繰るはず、だったのに。
「ふッ」
「ぅ……」
 一手先に間合いを詰められ、こちらが後退するより先に拳が顎を狙ってくる。それをぎりぎり避けたところで、仕切り直しにまた大きく距離を取ろうとしたら膝を狙われた。
「……って、……く、ぅう……!」
 穂先でそいつを受け払い、反撃とばかりに薙いで突くが、吸血鬼に穂先は届かない。
 それでも諦めず、畳みかけるよう猛攻を繰り出す。後の息切れも承知の上で突きの密度を高めていけばなんとか脇腹に穂先が届き、そこから横に薙ぐはずが。
「あっ、……あんた!?」
 こちらが抉るより先に、柄をがっしと掴まれる。その力強さは男の印象からかけ離れて獰猛で、留めを刺せるより奪われそうな予感の強さが勝って槍を引いた。
「ちっ……!」
 途端、今度はこちらの番だとばかりの一打ずつが的確な反撃を連続で食らう。掠ったとはいえ、男の脇腹にはしっかり鮮血が滲んでいるのに本人はものともしていないらしい。厄介なことこの上ない。
 そう、この吸血鬼はエトナにとってこの上なく厄介だった。
 真っ向から攻めてくるタイプの敵を少年魔王にばかり相手をさせていた弊害がここに来たのか。多少傷を負っても勝利に執着する敵とはあまり闘ったことがなかったし、槍の長短を熟知して、こちらに不利な近距離で闘うよう強いてくる敵と真正面から闘うことも慣れていなかった。
 更に更に恨めしいことに、徹底して素手で闘うのかと思いきやさっきの強奪未遂だ。こちらの勝手な心情に過ぎないが、あんなふうに荒々しく自分の獲物を奪われかけるなんて衝撃的だっただけに腕の強張りがまだ取れない。そこを見透かされ、突き出した柄にまた手を伸ばされた。
「……でっ、あんっ、たねッッ!」
 再び大きく振り払って奪取は防いだが、腹に蹴りを喰らい、こちらもまた掠った程度だが十分な痛みにうずくまりかけるがどうにか低い体勢に留めて下方へ退避。
 予想通り、相手が自称美少女と言えど容赦のない吸血鬼は、三秒前まで彼女がいたところに盛大に踵を落として床を鳴らす――多分にあれは脅し。あそこで飛び退いていなければ、お前はこいつを喰らっていたのだと知らしめたいのか。
 馬鹿正直で猪突猛進な堅物かと思いきや、意外にも狡猾さと何より鬱陶しいほどのしつこさを見せつけられ、エトナはうんざり吐き捨てる。
「あのさ……人の獲物奪おうとしないでくれる? そう言うの、誇り高き悪魔のやるこっちゃないんじゃないの?」
「さて、真正面からの強奪もまた力比べの一つだと俺は捉えているが。俺にそいつを奪われるなら、お前はその程度の技量でしかないと言えよう」
「……ハッ!」
 屁理屈だ。だが誇りなんぞひけらかす気もない悪魔としては糾弾するのも馬鹿馬鹿しいと、一気に闘志を煮え滾らせる。それも純粋な、怒りと呆れと不満を燃料にした素晴らしい純度の戦意が魔力と一体化しながら臍の下の底から溢れ出て、彼女の全身を隙なく覆っていく。
 小競り合いはもうここまでだ。
 この一撃で勝敗を決めようと、エナメルの長手袋を鳴らし改めて槍を構え敵を鋭く見据えれば、外套の男も姿勢を変えないまま静かで隙のない眼差しを寄越す。
 もとより静かな夜の書庫に、いやまし静寂が緞帳めいて広がっていく。張り詰めた空気は冷たく心地良く、自分だけでなく周囲の魔力の流れさえ風のように肌で感じ取れるほど。
 壁の向こう、そのまた向こうに荒々しく輝く魔力の塊がある。それより手前側には似たような、けれどまだ未熟さの残る魔力があって。ほかにも馴染みの気配とともに、魔力の存在が感覚的に、けれどきっと地図よりも精密に少女の脳裏に描かれた。
 その中で。微かに彼女を苛立たせる魔力がある。眼前の、彼女を囲う雑多なプリニーどもより近い位置に。
 改めて見やれば、相手も本気らしいのはそこそこ好ましい。が、好きでもない男と様子を伺いあう消耗戦などご免被る。
「――――――ァぁあッ!!」
 だからエトナは駆けたし賭けた。弩から放たれた如き速さで、男の腹を真っ直ぐ狙う。まとう魔力と相俟って、周囲のプリニーにはまさに赤い矢が走っているように見えたろう。
 しかし相手も方向を予見したか、こちらが懐に飛び込むより先んじて視界いっぱいに赤と黒が翻る。またも外套を使われたのか、相手は自分を闘牛扱いしているのか。
 だがはためき方から相手の胴体位置は予測できる。勢いをつけた足を一気に止め、唐突に半転。今度こそ相手を串刺しにすべく槍を伸ばすはずが、片足にぶにゅうと。
「ひぇっ!?」
 ブーツが、気持ち悪い肉厚なものを踏んだ。
 お陰であれだけ練った魔力が霧散した上、何を、とそちらに意識を取られたのがまた悪かった。
 バランスを立て直す隙を突かれ、お手本のような足払いを喰らう上に、体を回転させた勢いが止まらない。ない。その、せいで!
「きっ……!」
 体が、全身が。
 捻れたまま完全に宙に浮く。いや、浮いた。もう完全に、はっきりと。
 スローモーションで流れる頭に床、足が天井に投げ出された上下逆さまの光景に、エトナの下腹と背筋がひやり冷たくなる。
 恐怖や後悔を抱く間もなく、自動的に頭か背中から床に着地する姿が脳裏に浮かび全身が軋み縮こまりかけ、たが。
「……ッ!」
 魔力は散っても、まだ。闘志はいまだ燃え尽きていない。
 恐怖の冷気を押し留め、負けてなるかと痺れる手中の槍を掴み一矢報えと命ずれば――以降は体が勝手に動いた。即ち、絶妙な力具合とこれ以上なく美しく自然なフォームで槍を投げていた。
 我ながら驚くほど見事な投影に、惚れ惚れする間もなく赤い穂先が、薄闇の中はためく赤と黒の外套に吸い込まれる。相手はこの瀬戸際の反撃に気付かず、振り返りもしない。
 ならばいい。あとほんの刹那の間に、痩せた男の背中から血飛沫が舞い散るだろう。青白い光のもとでは鮮血とは言えずほの黒い液体かもしないが、生々しい匂いと温さが吸血鬼の惨敗を教えてくれるはず。
 たかが盗撮ごときでそれはちょっとやりすぎかもしれないが、加減ができないなら仕方ないかと軽く反省。まあ下僕にする以上、あとでヒーラーを呼んできてやるくらいのことはしてやろうと、自分の勝利を確信し、満足げに目を瞑りながら勝利の代償として襲いかかってくるであろう痛みと衝撃を覚悟したエトナは、しかし。
「どぁ!!」
「ぶぐぅえ!?」
「ぎゃああッス!?」
「……ぅえ」
 なんだか気持ち悪いくらい柔らかくてつるつるした触感のもののお陰で、さしたる衝撃も痛みも受けず、ついで意識を失わずに済んだ。
 暫く彼女は天地真逆、おまけに予想外にもほどがある微妙な感触の衝撃に放心状態を味わっていたが、自分が下敷きにしているものがなんなのか少しずつ把握した途端、ずるり全身が滑って頭が冷たい床にぶち当たる。
「あて」
「また随分な格好だな」
 と、受け身を犠牲に反撃され、今頃は背中から槍に貫かれてもいいはずの男の声を遙か頭上から耳にして、怪訝にそちらを見上げてみれば。
「…………あ、あん、た…………?」
 こちら腹立たしいほど変化に乏しい、外套のみを脱いだ吸血鬼の、呆れ気味の眼差しとかち合った。その腹は白いシャツとぴったりした黒い上着に覆われたままで、どてっ腹に穴が開いてもいないし鮮血に彩られてもいない。
 何故かと目を見張り慌てて周囲を見渡せば、丁度男の後方。床に深く突き刺さった真紅の槍と黒い外套が、月光を照明としている影響もあってか、オブジェか伝承を模した彫像のような存在感を漂わせていたのを発見させられる。
「つまり……最後のあれ、囮?」
「そうなるな。この薄暗さでは外套の奥まで確認できまい?」
「……ぅええ~」
 あっさり応じた男の一言に、肺から呼気をめいっぱい抜き、全身から脱力した。
 馬鹿馬鹿しくてならなかった。イワシを踏まされバランスを崩し、足払いを受けた上にまんまと相手の撒き餌にかかってしまうだなんて。それでは闘牛扱いを受けるのもやむなしだ。
 頭を両手で覆うエトナの仕草に勝負あったと理解したようだ。男の背より後ろにいたプリニーどもが静かに近付いてきて、主人と指導者、両方の私物に被害を出すまいとおっかなびっくり槍を抜こうとするが、小間使いのプリニーなんぞに彼女の全力をかけた一投が抜ける訳がない。
 案の定びくともしない槍に難儀し、大きな蕪よろしく列になって引っこ抜こうと集まっていくプリニーたちの姿を漠然と眺める少女の胸中は惨めそのもの。一度勝った相手に負けた上、魔力としては自分のほうが上だったのに黒星だなんて、久々の戦闘で体が鈍っていたとしても結構辛い。反対に吸血鬼は戦う以前と比べ、やけに気安げに顎を引く。
「ふむ、多少はましな面構えになったか」
「はん? ましって何が」
「おまけに気付いていないとは……プリニーどもに感謝するがいい。こいつらが主の淀みに危機感を抱かなければ、貴様はいずれ自ら友を失うところだったぞ」
「はあ?」
 唐突にも程がある言い回しに目を丸くするエトナを放置し、プリニー教育係はまだうんとこしょとやっているプリニーどもに嘆息。どけと周囲を追い払い、一旦床に刺さったままの槍を更に深くへ突き刺してから丁寧に引き抜いた。
「詳しくは知らんが……貴様は最近になって魔力が増えたらしいな? しかも膨大に」
「それがどうかした」
 こつを知っているからだろうが、渾身で放った槍を脆弱な魔力しかない男にあっさり抜かれ、微かに苛立つ。が、この場では男の説明のほうが先だ。
「魔力の急激な増減は、体は勿論、心にも影響を及ぼす。魔力を失えば不安感から神経過敏になるし、魔力が増えれば自己肥大を起こし他者に対して傲慢、鈍感になる。……前者はそのうち慣れるにしても、後者はいかん。悪魔は基本的に自分の実力に自信を持つ故、その傲慢さが過ぎても気付かん場合が多い」
 つまり自分は後者になっていたとでも言いたいのか。だがそれしき別にどうでもよかろうと、まだ逆さまになったままのエトナは吸血鬼を睨みかけ、僅かに安堵している心のうちに気付く。
 しかし安堵すると言っても何にだ。自分は別に、誰にも何も悪いことを――と、思ったのに。
 茶髪の稚児髷にくりりとした赤い瞳の天使と、柔らかな長い金髪の、日向めいた笑顔を持つ知己の姿が泡沫めいて脳裏に浮かび、胸に鋭い痛みが走る。別に普段は何の感慨もなく、思い出しもしない連中のはずなのに、今そのふたりのかんばせを思い出してしまうとどうしようもなく後ろ暗い。
 理由は明確。これまで何故かなんとも思わなかったけれど、彼女はさして金に困っていないにも関わらず、悪魔らしいことをしようなんて発想からあのふたりを男悪魔どもの獣欲の的にしかけたのだ。
 唐突な居心地の悪さに戸惑いながら、正常な体勢へ戻るべくプリニーどもから滑り落ちきり床に寝そべるエトナの耳に、プリニー教育係の落ち着いた声が届く。
「……いつだったか。お前直下のプリニーどもが、主を止めてほしいと俺に頭を下げてきてな。主は鬼畜だが、友やその知人の盗撮映像を売り払うほどの外道ではない。なのに今は仲間を売ることに躊躇いがない、相手の気持ちを想像さえしない。どう考えてもおかしいが、自分たちが訴えたところで罰せられるだけだから、と」
「そんなの……いつの間に」
 半身を起き上がらせざっと周囲に目を配れば、何匹かのプリニーが彼女の視線から逃れるように俯いたり、よそ見をしたりと不自然な仕草を見せる。余計なことをしくさったのはどうやらあの連中らしいが、さっきの約束を思い出し、ついで予想外な忠誠心の高さに、ここはうんと睨むだけにしてやることにした。
「教育対象に故意に足並みを乱されては困るので渋々詳しい話を聞いてやれば、貴様はここ最近、戦いにも出ず菓子を食い散らかし、堕落した日々を過ごしているとのこと。確かに、それはいか…………」
 男は槍をプリニーどもに預けると、自身の外套の穴を確認すべき広げて軽く硬直。彼女の側からでも、それは見事な大穴が見えた。あれでは手前の魔力だけでは直せまい。
 こちらから男の顔は確認できないが、多分苦虫噛み潰したような面構えをしているのだろう。ほんの少しだけ清々する。
「ま、ともかく……魔力は強大であればあるほど、体を使って燃焼させ、練度を高めてやらねば心のほうに偏るもの――魔力は読んで字のごとく『魔』のチカラだ。身に余るほどのチカラは誰も彼をも巻き込む暴走を引き起こすし、許容できるレベルであろうと強いチカラは欲や淀みに取り憑きそれらを増幅させ、心を醜く腐らせる」
「……で、あたしも腐りかけてたってこと?」
 結局、吸血鬼は外套を羽織らないことにしたらしい。赤い裏打ちの黒い布を片手に手繰り寄せると、こちらを肩越しに覗いた上で小さく肩を竦める。
 言わずともわかるだろう、との仕草にまたしても腹立たしくなるエトナだが、その怒りでさえ水銀のような、真っ直ぐなエネルギーの通りを彷彿とさせてやはり微妙に居心地が悪い。――この男と戦う以前は、卑屈な、黒く粘っこい怒りが胸のうちを締めていて、それに突き動かされていたときはこの上なく胸が悪かったのに。今は正反対に心が軽く、澄んでいるとさえ言えそうな。
「ま、今後は友を失うまではいかぬよう自分で気をつけることだ。予防方法は単純に、いいか『本気で』戦うだけでいい。心に巣食う魔力を体へ引き戻せば、淀みは自然昇華される」
「へー……」
 そして彼女がそんな精神状態だからだろうか。自分をこてんぱんにした憎たらしいはずの男のアドバイスまで素直に聞き及んで、成る程、最近は確かにあんまり本気で暴れてなかったな、なんて反省までする始末。だが冷静に考えてみると、それまで彼女が本気で闘うのは日頃のプリニーいびりが過ぎて火が点いた加虐心を発散するためであって、現状どこかの誰かの再教育のせいでその取っかかりさえ失ったせいで魔力を持て余していたような。
 しかしそれらの因果をも増して、エトナの中で吸血鬼ヴァルバトーゼの魔力に対する知識の豊富さが気になってきたのは幸か不幸か。
 気持ち悪いほどの忠臣っぷりを周囲に見せつけている人狼の執事がぼやいていたが、かつての『暴君』はそれほど魔力に精通していたのか。怒りや戸惑いより好奇心が疼いてきて、腰を床に下ろしたまま片手を挙げた。
「しつもーん。そんだけ詳しいってことは、あんたも昔は結構やんちゃしてたってこと?」
「やんちゃ? ……ああ、自らを鍛えるべく放浪の旅はしていたが」
「いやいや、そっちじゃなくて」
 違うのか、と目を瞬く男の容姿はあどけなく、少なくともエトナよりは年上だろうが控えめに見ても『暴君』なんて肩書きにはまるで似つかわしくない。やっぱりこの男はその手のことに縁がなかったのだろうかと、ぼんやり考えながら続ける。
「堕落のほう。有り余る魔力のせいで故郷の女ども喰い散らかして責任取れって迫られまくったとかそういう苦い経験でもあんの?」
「ないわッッ!!」
 限界まで目を見開いたかと思えば裏返るほど声を張られ、悪魔の少女は小さく飛び上がった。
 男のくせに鼓膜に来るほど叫ぶか。なら実は図星だったりしないかと、わんわん響く余韻に苦しみながら見上げれば、それまでの余裕をかなぐり捨てた形相で吸血鬼が近寄ってきて少々焦る。
「やっ、えっ、何よ。ちょっとした疑問程度でそんなムキになんなくったって……!」
「ええい何を考えているか、貴様のような子どもに興味はない。いいからとっととあれを寄越せ」
「あれ……? あー」
 そうだった。自分たちがそもそも戦ったのは盗撮映像を巡る駆け引きからで、自分がこの男に喧嘩を売る羽目になったのもそれのせい。いや、真の諸悪の根元は眼前の男なのだが。
「あたし持ってないわよ。その辺から勝手に取ってって」
 因果応報。一悶着がこうして解決してもやはり苦手は苦手だし、心を許す気もない男に触られるのはご免被る。と、テレビと繋いだデッキを顎で指せば、男は素直にテープを回収するのかと思いきや、屈み込もうともせずばきん。
「……あっ、あんたねっ!」
 思わず悲鳴を挙げたエトナを気にも留めず、吸血鬼はまた別のテープを踏みつけ、それはそれは丁寧に黙々と潰していく。
「もうこれは使わんのだろう? ならばこの場で遺憾なく潰しても問題あるまい」
「ありまくるっての! なんでテープだけじゃなくてデッキごと潰しやがんのよ! 別にそいつ自動録画機能的なのないわよ!?」
「ほう、そうだったが。まあこれも勉強代に含めばよかろう。懐が寂しくなったのなら存分に外で暴れて稼げ。うむ、それが悪魔流の健全な金の稼ぎ方というもの」
「てっめ……ってあんたら!」
 腰を上げ破壊行動を阻止しようとしたのに、しっかと後ろや脇から拘束され、振り返れば必死の形相のプリニーども。自分の下敷きになっていたのや手の空いた連中がどうどうと押さえつけてきていた。
「ごめんなさいッス、エトナ様!」
「けどここはヴァルバトーゼ様が勝ったッスから、エトナ様は大人しくしてくださいッス!」
「うっせえ! おどき!!」
「駄目ッスー!」
「無理ッスー!!」
 しかし一匹や二匹ならともかく、一挙に五匹十匹の揉みくちゃを力が出にくい体勢で味わえばいかな彼女でも身動きが取れない。それでも抵抗は止める気はないが。
 反して安全圏で自分の言葉に満足げに頷いた男は、踏み潰し終えると几帳面にも掃除を命じ、彼に近しいプリニーどももまた従順に、騒ぐ主をなるべく無視して箒やちり取りを取り出して粉々になった部品を集めていく。
 そんな中。
「……ヴァルバトーゼ様。おかしいッス」
「ん?」
 一匹のプリニーが、凶相の主をちらと気にしながら吸血鬼に話しかけた。まさかの予感にすぐさまそいつへ殺気を送ったエトナだが、吸血鬼がさり気なく立ち位置を変えてプリニーを隠してしまう。
「ご用命通り確認しましたが、カメラの数に比べてテープの数が足りないッス」
「やはりか……」
「………………」
 重い吐息とともに漏れた声の苦さが、教育係の案外慎重な性格を裏付ける。そんなこと、ちゃっかりテープを隠し持っていた彼女にとってはまったくもってありがたくない話だが。
「よしご苦労。それらは全て細切れにしてから燃やせ」
「了解ッス!」
「ぇぇええぇえ~……!」
 盛大に項垂れたにも関わらず、まだプリニーにがっしり拘束されたままの少女の視界に、黒い革靴が現れる。
「ではプリニーども。貴様らはその小娘の体中をくまなく探し、テープを回収、見つけ次第破棄しろ」
「アイアイサーッス!!」
「はぁあっ!?」
 何をと顔を上げればやはり、完全に呆れ顔のヴァルバトーゼが見下していた。残酷にも彼女を拘束するプリニーどもにセクハラめいた指令を授けたのは、さすがに堪忍袋の緒が切れたのか。
 しかしそんな命令をそうすんなり聞かせてやるほどエトナの気力は折れていない。背後の声に負けず劣らずの迫力で顔を上げ、冗談じゃないと約束も無視してすぐさま魔力を開放しようとするが、やはりここでは男が一枚上手だった。
「お前は大人しくしていろ」
 対象と目が合ったのを幸いとばかりに、男の不遜な赤い瞳が一瞬煌めく。
 しかし起きたのはたったそれだけ。目からビームが発せられることもなく、呼吸が苦しくなることもなく、何だ見せかけかとせせら笑って硬直を解くはずが、それ以上の勢いでもって脱力してしまう。いやどうしてだと疑問を抱いているうちにも淡々と少女の体と神経を繋ぐ糸が遮断され、意識が暴力的な勢いでもって遠のいていく。
「まっ……てっめ……!」
 吸血鬼の眠りの術は普通のそれとは異なる体系で発動するのか、眠りなんて生やさしいものではなく強制的に意識を奪う術だったのか。
 憐れエトナは術を破ることもできず、テープを燃やせとの命令を聞いたときそのまま激しい心境で、だがやはり男への恨みを消しもせず、かくりと力尽きてしまったのだ。
「……だがいいか、貴様らは一人一人が俺の代理である点を心に留めよ。決して、俺の名誉を汚すような真似は……」
 しかし意識が途切れる直前に、指導者のそんな指示を耳にできたのは彼女にとって不幸中の幸いではなかろうか。
 尤も、その命令は男にとってその後の不本意な言われを避けるためであり、自分が躾けたプリニーどもには不埒な感情を抱いて欲しくない指導者心も強かろう。つまり彼女の貞操など毛ほども慮っていない訳で、わざわざそんな後押しをするほうが彼女にとってよっぽど屈辱的だったかもしれない。

 ――ちなみに次にエトナが覚醒したのはその翌朝。
 自室でいつも通りの時間にいつも通りの格好で傷一つなく疲れも違和感も覚えずむしろ爽やかな心地で目覚めた少女は、昨夜の出来事を思い出した瞬間、憤怒の相で手近に控えていたプリニーの頭を掴み盛大に爆発させようとしたのだが。
 突如として部屋に現れた誰かの使い魔だろう蝙蝠の体当たりによってそれを阻まれ、そいつが落としたメモをざっと読んでからはプリニーを丁寧に床に戻したそうな。
 ただすぐさま粉々に千切ったメモにはどんなことが書かれていたのやら、以降は尋常でなく不機嫌な面をして、ひたすら外で暴れ回るようになったらしい。






後書き
 4→D2でエトナさん閣下のこと正直敵視してるっぽいのが微笑ましいのでバトらせてみましたとさ。前作から地味に続いてるようで続いてないような曖昧さ。
 当然ながら閣下のほうが年齢的にも経験的にも豊富なので魔力の差がどうあれエトナさん負けちゃうと思います。むしろそこを巧いことやってこそのプリニー教育係時代だと思うし。

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