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・APRIL FOOL!

2012/04/01

 なんだっけかなー。
 昔観た映画版『やかまし村の子どもたち』シリーズで「エイプリルフールにだっまさっれた♪」って歌あった気がするんだけどあれ実際英語だとなんて言うのかなーとつらつら考えながら書きました。

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・天界ブランド

2012/04/03

 今日は風きつかったですねー。
 D4で風強そうなのはビル風的な意味で4話の野外ステージだと思うんですが、錬武山の3と4も結構びゅーびゅー言ってそうだなーと思います。

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・可能性

2012/04/04

 殿方は好きよねって話。
 これってアウトなんかな……年齢指定制限すべきなんかな……。

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ご出立

2012/04/09

 地獄を騒がせた謎の連続爆発事故から早一ヶ月半。
 各地を襲った凄惨なまでの規模と被害、しかもその場には、現在の党首であるプリニー教育係か四百年前の『暴君』として現役の悪魔、同一人物である吸血鬼ふたりのうちどちらかが必ずいたと言うから、これは現政拳に不満を持つ他党からのテロや宣戦布告ではないかと党員たちは戦々恐々。いつ止むとも知れぬ、プリニーを投げたどころではない爆発事故に長らく緊張感を漂わせ、構成員がプリニーではない自衛団も結成され、原因究明や警戒を怠らなかったものの結局原因も下手人もその目的もいまだ明らかにされていない。
 それでもどうにか各施設の修復工事も完了し、お陰で地獄で働くそこそこのプリニーが予定より早く目標金額を達成、次の赤い月には転生できると彼らなりに明るい話題を地獄に提供しようと盛り上がるのを皮切りに、少しずつ普段の状態に戻りつつある頃。
 『暴君』と呼ばれる悪魔から、最初の爆発事故が始まって一週間後くらいに受け取った大きな衣装箱の蓋を開けて、桃色の髪に水色の瞳を持つ年若い天使、もとは人間でありその魂の清らかさから死後天使として召し上げられ、彼女の死によって世に絶望し世界を滅ぼそうとした人間を救うため盗みさえ働いた見目麗しき天使の娘は大きく息を吐き出す。
 あのときはまだ謎の爆発事故が続いていた時分で、何度か巻き込まれたらしいと聞いたのにいつも通りけろりとした顔に溢れんばかりの魔力を持つ吸血鬼は、おもむろにこの衣装箱を彼女に差し出しこう告げた。
「お前から羽根を貰っておいて、俺がお前にくれてやるのを忘れていた。故にこれは俺から贈る友の証として、お前に受け取ってほしい」
 そうだとしても羽根の一枚と比べて服、どころかドレス一着とは大袈裟に過ぎる。いたく恐縮してそう告げた娘に、男は不思議そうに目を瞬き、首まで傾げて訊ねてきた。
「俺は、これがお前の羽根と相応の対価と判断したから贈るのだ。それの何が悪い?」
 人間を戒める使命に忠実で勤勉な悪魔であり、魔界にその名を轟かせた恐るべき吸血鬼のはずなのに、片方だけしか見えない血の色の瞳はこのとき奇妙なくらいあどけなく、彼女は二の句を失った。これで強く断れば、こちらが申し訳なくなってしまうくらい彼が傷付いてしまいそうな予感を猛烈に誘って。
 おずおず衣装箱を受け取った女にこれで一旦満足したかと思しき吸血鬼は、実際にはあまり満足していなかったらしい。続けてこれを今からでも着てほしいとまたしても大胆なことを頼んできたが、それはさすがにできないと今度は彼女も譲らなかった。何せ箱だけでも酷くかさ張るドレスでは普段通りに過ごすことも困難を極める。機会があるなら是非とも着用してみたいとは思うが、今こんな格好をしては皆を驚かせるし、いらない注目も買うだろう。
 どの理由に納得したのかまではわからないが、今度の説得はきちんと効果を発揮した。吸血鬼はそれは尤もだと深く頷き引き下がったものの、直後に言質を取ったとばかりに目を輝かせ、お前がこれを着る機会が早く訪れることを願っていようと薄く笑った。彼女はその笑みに普段なら縁のない悪寒を覚えたのだが相手はそれを別れの挨拶としたつもりのようで、その日はそれきり会話を終えた。
 以上の出来事から一月と一週間後。まさか本当にこれを着る機会が早々に巡ってくるだなんて思っていなかった彼女は、これで今日は何度目になるかもわからないため息を吐いた。
 四百年前から現在にやって来た『暴君』がこの地獄に滞在してどれだけの日々が経ったかはもう曖昧だが、この全盛期時代の伝説の悪魔到来の噂はついに上層区にまで届いたようだ。いまだ魔界に強い影響力を持つ元魔界大統領『死神王』ハゴスから是非とも話題の吸血鬼殿とお会いしたいとの密書が届いた――らしい。
 政拳奪取に成功したとは言え、今なお上級議員との縁も深い元大統領の誘いを無碍に断るのは今後議会運営に支障が出る。上層部、と言えばそれらしいが党首のプリニー教育係と彼の僕である人狼の二人はそう判断したようだ。『暴君』と『死神王』の会合はひっそりと決定され、付き人として天使の娘に白羽の矢が立った。選んだのは、当日主賓となる吸血鬼。
 どうしてそんな会合に天界の住人である自分が同行するのかと彼女は当初、恐縮する気持ちもあって断った。しかし冷静に状況を鑑みれば、適任者は彼女しかいなかったのだ。
 まずプリニー教育係である現在の吸血鬼が『暴君』とともに元大統領に会えば会合の重要性は否応なしに上がり、表沙汰になるのは時間の問題と化すだろう。そうなってしまえば、現政腐はあれだけ政拳交代に息巻いていたのに旧政腐の連中に媚びを売っているとの不本意な評価を世間から下されかねない。その僕たる人狼もまた同じく、と同時に彼はある意味では主以上に多忙なため体を空けるのは随分前からでない限り困難を極める。死神の少年はホストの親族であるためこちらから派遣する付き人としては相応しくない。なり損ないプリニーの少女とその妹は論外。そも彼女たちに付き人なんて真似をさせたいのなら、長期間かけてみっちりと、まずは姿勢の矯正から教え込まねばなるまい。
 党内の見栄えも悪くない上級悪魔たちでその手の素養を持つものもいるが、その上で『暴君』とそれなりに親しいものはいなかった。ゆえにこれは適切で無難な人選だったことになる。
 理屈を重んずる生真面目な天使は以上の理由を聞き及び、ならばと不承不承で付き人の件を了解した。返事を受け取った長髪の吸血鬼は、その際本当に心底そう思っていそうな声で彼女にしっかり釘を刺したのだ。
「これでお前があれを着る機会が巡ってきたことになる。……当日を楽しみにしていよう」
 そうして本番当日の今日。約束の刻限まで残すは二時間。
 丁寧に湯で身体を清めてからボディミルクで肌を手入れし、なるべくこれから着るものに負けないよう手持ちの中でも一番上等な下着に身を包んだ天使の娘は、その格好のままゆっくりと深呼吸をすることでようやくお見合い状態から抜け出す勇気を奮い立たせる。
 覚悟を決めて静かに衣装箱の中へと両手を伸ばせば、指先が肌触りのよい何かに触れて。それに怯まず更に奥に手を進め、適当なところを摘み上げてからゆっくり腕を上げ、友情の証として贈られた衣装の全容をついに確認。して、衣装を箱に戻した勢いのままベッドに頭から突っ伏した。
 衣装箱の大きさから予感はしていたが、清貧に死ぬ直前まで慣れ親しんだ元人間現天使にとって、あの衣装は最早プレッシャーを越えて頭痛がするほど華やかだったのだ。
 これが本当に自分の羽根一枚と対等なのかと贈ってきた相手の襟でも掴んで問い正したくなったが、恐らくあの人物はそんなふうに詰め寄られたとしても表情一つ変えずに頷くのだろうと想定すればそんな気力もすぐに失せた。――しかしそれにしたって彼は見る目がない、とシーツに埋めた口元が失笑を作る。衣装がどれほど華美であっても、着るのがこの自分では釣り合わないだろうに。
 これに比べればまだ精神的に安心できる、大恩ある天使長から押しつけられた簡素な型の白いドレスを代わりに着てしまおうかとの考えが過ぎったりもしたが、それで落ち着くのは自分だけであって、今宵の主賓は満足しなかろう。同時にそれでは彼の期待を裏切ることになり、ふて腐れた顔だか落ち込んだ顔だかを想像すると女の胸にとてつもない罪悪感が広がる。今度は約束で戒めるのではなく、友人としての関係を築いたあの、記憶の中よりずっと子どもっぽくて素直な青年の示す友情を裏切りたくない。
 今度は。そう、今度は。
 おかしな表現の自覚はあるし、違和感も拭えないので本来ならばもっと適切な表現を当てはめるべきだろうが、今の彼女はそんな気力さえ湧いてこないので胸に滲む形容し難い気持ちの悪さをベッドに突っ伏したままでやり過ごす。
 突如として現れた四百年前の『暴君』に驚きはしたものの、暫くしてその中身は自分と出会う以前の状態だと知らされたとき、正直なところ彼女は安心した。現状の我が身を衰えさせるほど約束に固執する吸血鬼を見るにつけ、あんな約束に縛られもせず本来彼が自らにそうあれと求めるまま生きてほしいと願っていた彼女にとって、愚かしい人間の娘と約束をしていないどころかまみえもいない吸血鬼は、だからこそ気高くも自由なままでいられるのだから。
 ああ無論その気持ちに偽りはない。だから『暴君』が自分を知らないことにも、勿論寂しさや落胆など一瞬だって感じてなんかいやしない。ただ罪悪感はあった。あれほど強くも謙虚な姿勢で本来悪魔が持ちうるべき役目に忠実だったあの吸血鬼から、力の源たる魔力を奪ってしまった自らの罪深さを改めて思い知らされた。
 しかし彼には、あの四百年前からの異邦人はこの罪と無関係だ。そう思えば切り替えは早い。
 人間だった自分の死に際を看取ってくれた懐かしくも大切なひとではあるけれど、それらの思い出が共有できないならまた新たな思い出を作ればいいと彼女は前向きに捉えた。そうして四百年前からやってきた彼とは友として穏やかな関係を築き、親しめればそれでよかった。本人もいつかもとの時代に帰る気でいるようだし、本来のときの流れに戻った際、自分のことを覚えていようといなかろうと約束で縛りさえしなければそれでいい。
 だが女の真っ当な友は作らなかったのだろうかと、微かな疑問を抱きもする。今の自分が恐れを振り撒く対象たる人間ではなくてただの風変わりな天使だからだろうか。約束を交わした悪魔と人間の関係ではなく天使と悪魔の友として関係を築いたからだろうか。あのときと違って『暴君』は自分に対して妙に気安く、不用意な大胆さに戸惑わされることも少なくない。
 いつかの頬を触れられた件だってそうだ。それまでだって手を取られたり、髪に触れられたりと色々あった。自然な流れの中でならまだ流せるものの、彼女にとって異性の友人関係から大幅に逸脱しているものもあったので、その都度叱ってみたりやんわり退けたりもしたのだが今のところあまり芳しい効果はない。まあしつこく注意するのもなんだか気が引けて、それほど感情的に叱った経験はないのだが。
 ――我ながら甘い自覚はある。しかし中身に多少の違いがあって、また別に想うひとはきちんといるけれど、初恋の想い出のひとにきつい態度を取れるほど、彼女は冷酷にはなりきれなかった。
 だから今回も結局のところ彼のわがままに応じてしまい、次はどんな無理難題を吹っかけられるのやらと思うと多少に落ち込み、流される自分の意思の弱さに自己嫌悪するばかり。
 それでもやはり、あの青年に嫌われたくない裏切りたくない気持ちは歴として彼女の中にある。約束を交わしたひとは勿論のこと、約束を交わしていないひとを相手にしても心は臆病なまま。
 ならば着るしかあるまい。不相応に華美な格好で公式の席に顔を出すなど恥晒しもいいところだが、自分ではなく彼の望みなのだからいっそ好奇の視線を受けてもそれを免罪符にしてしまおう。
 そんな後ろ向きな覚悟を決めると、天使はままよと起き上がって再び衣装を取り出し、なるべく細部を見ないようにして手早く身に着けようとしたところで誰かが扉をノックした。
 出鼻が挫かれた思いもしたが、今夜の娘が仰せつかった大役については党内でもごく数人にしか知られていないのでこんな邪魔が入るのも仕方ない。来訪者を無視するほど切羽詰まっていないこともあり、娘の伸びやかな声はいつも通り扉の向こうにまで響いた。
「はい? どなたですか?」
「ヴァルバトーゼさまからのお達しで、髪のセットとメイクに来ました~」
 まさかの助っ人到来とは。予想を大いに裏切られ、女は一瞬立ち竦む。
 最初からそれをちいとも考慮していなかった点について、彼女の内面にも大いに問題がある気がしなくもないが何も伝えていなかったほうもほうである。いやそもそも名前だけで呼ばれては依頼者は四百年前か現在かわからないが、内心ほっとしたもののそこまでするかと動揺もした彼女は、とにかく相手を出迎えるため装束を一気に身に着けようとしたところではたと気付いた。どうやらこのドレスの上半身は古典的なコルセットと同じく背後から紐で締める型のようで、一人での着用は困難を極める。
 つまりまずはここから手伝って貰わねばならないらしいとすぐさま察した娘は、助っ人派遣に後ろめたいながらも盛大に感謝しつつ半端に着用しようとした衣装を脱ぎ、下着姿のまま扉へと近付いて行く。そうして外への警戒心を露わに薄くドアを開けて、こちらを不思議そうに覗き込む、本格的な化粧箱を幾つも肩からぶら下げたアーチャーに、神妙な面持ちで頼み込んだ。
「……あの。着替えも手伝っていただいてよろしいですか?」
 すぐさまのんびりと了承の返事を得られたのはいいとして、そのあとアーチャーが締めくれた腰紐がややきつめだったのは、人選の問題があったような気がしてならず。このくらいの不幸はもう仕方ないものとして諦めるほかないだろう。

◆◇◆

 約束の刻限まであと三十分。
 もう何度目になるかはわからないが、いつもなら懐に入れっぱなしでろくに使わぬ金時計の蓋を開け、針の位置を一瞥した男はまた蓋を閉じてから短く鼻を鳴らす。
 時間の歩みなぞ今までの彼ならさして気にしたこともなかったのに、今日に限ってはどうにも遅い。理由はわかっていたが、だからと言ってここまで遅いのはおかしくなかろうかとしみじみ鼻から呼気を抜く。
 そうとも。ここに来てからの彼は自覚があるほどおかしかった。不意に四百年後の世界なんぞに来てしまったことがそもそもおかしいかもしれないが、そんな程度のことは、こうも自分の内面にまで影響を及ぼすものなのか。
 手慰みに金時計の鎖を耳障り良く鳴らしながら、文字通り今地獄で一身に注目を受けている長身長髪の、ひょんなことから四百後の魔界に訪れてしまった吸血鬼はここに来てからの我が身に降りかかった異変について振り返る。
 四百年後の未来の自分が人の血を吸わなくなったため魔力を失い地獄に堕ち、代わりに小魚を口にしプリニー教育係となっていることには当初かなりの驚きはあった。ついでに興味がなかったはずの政拳奪取なんぞのために党を設立し、それを成し得たなどとは。しかしどうあろうと自分がその道を選んで誇りを失わず、使命に励んでいるのならばそれで問題はない。そうとも、その点についてだけなら全く問題はない。
 つい最近彼の僕となったはずの人狼が、四百年を越えて魔力を失った自分に付き従っていることも、感服こそ覚えど問題などあるはずがない。いずれ出会うこともあるだろう死神王の一粒胤が成り行きで自分の仲間になっていることも、プリニーである自分を認められない少々おつむの残念な小娘も概ね今の自分にとっては問題ない。しかし人間に造られたと言うラスボスを目指す悪魔の童女は、少しどうかと思わなくはない。人間を戒める崇高なる使命を背負う悪魔が人間に造られたとは一体どう言うことかと少しばかり厳しく問い質して概ね事情は把握したが、人間が悪魔を生み出すなどとは――四百年後の魔界と人間界は、随分と世も末であるらしい。
 けれど、それ以上に問題がある。本来ならば魔界にいるべきではない存在。どんな魔界からも人間界からも影響を受けない天界の住人、神の使途としてあまねく世界を見守り、人々に信仰と光の力を促す心清く見目麗しい光の使者。それが魔界の最下層たるこの地獄にいて、しかも四百年後の自分が設立した党に仲間として滞在しているなど。悪魔と根本的に相反するものがおれば、人間に造られた悪魔の存在など確かに些細なことかもしれないと遅蒔きに納得した。
 その天使が、彼に起こった異変の発端。
 地獄に住まう時点で度胸があるのは予想できたはずだったのに、桃色の髪と空色の瞳を持つ娘は警戒心をむき出す自分を目前にしても常に穏やかな物腰で。それどころか憐れむような、どこか遠くを見つめるような儚い表情さえ晒して。続いて水鳥の羽毛めいた温かみと硝子細工の繊細さが同居した女の笑顔を目にしてから彼の内部は変調を来した。
 天使など魔界はおろか人間界にも滅多に姿を見せないため、実物を相手に喋ったのはこれが初めてで、だからこそだろうか。純白の羽を持つ細身の娘に異様なものを感じ取り、彼はその瞬間からその女に妙な気分を抱いてしまったのだ。
 きっとそれは天使が宿す特殊な力によるもの。魔力ではなく目に見える暴でもないけれど圧倒的な力が彼の胸の奥に種のかたちで埋め込まれ、たちまちのうちに芽吹いて男の中にあったはずの敵意や警戒心をあっと言う間に浄化した。代わりに胸に満ちるのは、むず痒い熱を帯びた期待のような苛立ちのような。息苦しいのにどこか落ち着けて、理由もわからず不安なのに甘みさえ感じる淡い痺れが、拒む暇さえ与えずひたひたしみじみと。
 完敗だった。そんな力が世にあるなど知らなかった。しかし負け惜しみなぞ最早無意味で見苦しかろう。悪魔の掟は力こそ正義。ゆえにそんな力に対して全く免疫がなかった己が悪い。
 無惨な敗北を期した彼を、しかし慈悲深く気高く寛容な天使の娘は惨めな敗者ではなくひとりの友として扱ってくれた。だがそんな、本来ならば敬い尊ぶべき流血なき勝者を、無自覚であろうがなかろうが、ときに驚かせたり困らせたり戸惑わせたりしまうのは何故なのか。
 勿論そうしてしまう理由もわかっている。彼女の微細な表情の変化が、その変わる瞬間が、一瞬ずつでも切り取って眺めたくなるほど堪らないのだ。普段の穏やかな表情も見ているだけで意識がそればかりに埋め尽くされそうになるが、笑顔はもっといい。怒りかけて眉がむっと歪むのもいいし、赤面だって尋常ではない破壊力を持つ。あの困ったような俯き加減のも、笑顔の中に添えられるのも、普段でも充分なほど美しいかんばせに頬の赤みが増しただけで吐息が漏れるほど素晴らしい。泣き顔は以前初めてそのあとだけ見たが正直良くなかった。見惚れるよりも胸の痛みと憤りが強くなる。
 ともかく彼は天使の娘と邂逅を果たすことによって大きく変えられた。誇り高き悪魔として己の持つ暴を敵味方問わず示す責務は無論忘れてはいないが、それ以外の時間はなるべく彼女と会話をしたり、それができねば彼女のことを考えるばかりで、気付けば人間に恐怖を与える使命さえ蔑ろにする始末。四百年後の世界の事情など知らないからと自らに言い訳をし、魔界どころか地獄から自ら進んで一歩も出ようとしないとはなんたる不覚。
 しかし娘に対する抗力を身に付けねば、思い出したように人間界に向かったところで大きな意味はあるまい。現在自分がいるのは四百年後の世界だとの説明を受けたとき、ならば今は見解を深め気合いを蓄え、それをいつかもとの世界に帰ったときに活かそうと判断したではないか。
 だからこれはいい機会だった。人間や悪魔からは学べない、恐らく天使のみが持つであろう見知らぬ力に対する免疫力を高め、またこの力がどう自分に作用するのかを学ぶ絶好の。
 ゆえに彼は何故か抵抗は抱いたものの結局のところ本能の赴くままにこの異変を受け入れて、そこから生まれる衝動に戸惑いながらも結局従った。天使の娘と言葉を交わしたいと思えば交わし、眺めたいと思えば眺めたし、触れたいと思えば触れた。だが今のところ抗力は高まった気がしないし、飽きる気配もない。むしろあの娘と接すれば接するほど、心は飢えて貪欲になる。もっと声を聞きたい、眺めていたい、触れていたい気持ちが強くなる。
 人間界でもそんな薬物があった記憶があるが、天使の持つ力とやらはその類なのだろうか。手放せば最後、ほかのどんなものでも代用できずに渇欲だけが膨れ上がり、最終的には幻覚を見るほど狂い果てて憔悴し死ぬと言うあの。
 だとしたら。否、だとしても。
 今更この感覚をなくせない。もうとっくに彼の心にはあの天使の娘のかんばせやその声が刻み込まれてその跡を埋めるものもなく、いやそれどころか埋めようとも思えず、ただただ彼女を求めるばかりで。
 今だってそうだ。一刻も早くあの娘が着飾った姿を見たいとこの上なく強く願っているし、正直なところ部屋を尋ねたいとさえ思うがそれをしたらきっとまた叱られる。
 しかし叱られるのもまたいいなんてふざけた考えも浮かぶのは何故だろう。
 あまり感情的な行動を取らない娘は、声を荒げることも少ない。だから叱るときとてわざとらしいくらいのしかめ面でもどこか甘さを感じ取ってしまい、そんな彼女と対面している際は反省しているはずなのにどこかくすぐったさもあって、それをついつい求めてしまう。一時的とは言え彼女の思考も感情も視線もすべてが集中して自分に注がれると実感できるのは、なんとも心地良く優越感を掻き立てるものなのだ。
「陰険顔でにやけてるな。気味の悪い」
 と、不意に聞こえた冷や水に彼は我に返る。
 直後目を瞬いて何秒もしないうちに、魔力を失った貧弱な肉体と成り果てた自分と目が合った。鏡でもないのに自分と目が合うなどおかしな表現だが、これももう慣れたので応じる彼の態度は堂々としたもの。
「ここにはお前と俺、つまり『俺』しかいないのだ。そのくらいは目を瞑れ」
「視界の端にちらちら昔の自分の助平顔など見せられてはたまったものではない。……と言うか、時間を潰したいのなら余所に行け余所に」
 汚らしい野良犬にでもやるようにしっしと手を振る未来の自分は、幼さの残る面立ちには似つかわしくなく書類相手の格闘が多い。現在進行形で書類の山々に囲まれながらペンだの判子だのを手にあれこれと忙しそうだ。対する彼は書類に囲まれることもなく、書斎机から離れた位置にある椅子に深く腰掛けて時折懐中時計を弄ぶくらい。
 四百年前と現在のふたりになったひとりの吸血鬼が味わうには残酷な構図だが、もとより食客の彼に執政の類はさせてもらえない。暇なときに手伝ってやろうかと当人としては気軽な調子で僕に声をかけたら、既に十分なほど恐れを振りまいておられる閣下にかようなことまで強いるなど滅相なきことでございますとそれはそれは丁重に断られた経験があるため。
 しかし、今宵に限っては珍しく彼も執政の一翼を担うこととなった。だからこそここで仕事の空気に我が身を染めるつもりなのだが、いっかな気持ちはそんなふうに切り替わらず。そうなってしまう理由もまた、本人にはちっとも見当がつかない。
「そう言うな。……もう暫くすればあいつがここに来る。あれを出迎えれば大人しく出て行ってやるから、それまでお前も大人しく待っておけ」
「俺の職場を待ち合わせ場所に使うなッ!」
 何故か声まで裏返らせて立腹する未来の自分の狭量をまたしても見せつけられて、彼は深く嘆息させられる。
 魔力を失いプリニー教育係となっても使命への情熱を失わない己に青年は少なからず尊敬の念を抱いていたのだが、天使の娘に限って言えば未来の自分はどうにも冷たい態度を取りがちだ。彼女に親しく何の非もないと考えている彼にとってはその点、憤懣やるかたない。そのくせたかが約束を交わした程度で独占欲をむき出しにするのだから、言動が一貫していない、どころか矛盾している。
「何を言う、これは正当な政務だろうが。なら、党首殿に出立の挨拶くらいはしておかねばなるまい」
「昨今の猪人族どもでもそんな堅苦しいことなどせんわ。……大体、あいつには此度の目的は伏せてあるはずだろうが」
 苦々しい自分の一言に、そうだったと彼ははたと目を見開く。娘の艶姿ばかり気が向いていたせいで、今宵彼が大統領府に出向く本来の目的など頭からすっかり抜け落ちていた。
 『死神王』から内密に『暴君』とお会いしたいとの書状を受け取ったのは事実だが、地獄党幹部の二人がいまだ議会に影響を及ぼす元大統領からの誘いを無碍に断れない、なんて弱気な理由でその誘いを受け入れた訳では勿論ない。真の目的はごく簡単かつ明快、資金繰りが厳しいので一時的に金を借りに行くのだ。
 設立当初から地獄党は党首の性格を反映してか財源は最低限に抑えられており、帳簿は魔界には珍しく清廉潔白なだけに羽振りの良い政党とは言い難い。政拳奪取を成し得てそれだけ大きな権力を得たとは言え、魔界はもともと密入界した大泥棒の手により下層区から大統領府に至るまでしっかり金を奪われていたため、彼らの財源が一気に増えることもなかった。
 勢力を広げていくことで着実に扱う金の桁が変わっていくのは事実だが、目の下に隈を作った怪計係が赤字にならない瀬戸際の額に抑えたとの報告をしに党首のもとにやって来て、ようやく月の終わりを実感できる流れが党設立後から習慣化していた――はずが先月、とうとう赤字が出た。しかもそれまでに積み重ねていた貯蓄で誤魔化せそうにないほどに、激しい出費が出てしまった。
 理由は明確だ。地獄を騒がせた謎の連続爆発事故による、屋敷を含めた各施設の修復費用と巻き込まれた党員たちへの労災手当と自衛団の時間外手当。またそれらによって生み出される費用全てを、先月と比べてもさして収入が増えていない党が出してやらねばならなかったから。
 まあ事故が起きたのならば仕方ない。今月も我々の采配に問題はなかったのだから犬に噛まれたとでも思うしかないと、砂を噛んだような顔の参謀役と沈痛な面持ちの党首を相手に罪務大臣を始めとする会計に携わる面々が慰めたのだがそれさえもかの気高き悪魔殿には何の効力も持たなかった。
 何せその爆発事故の犯人は彼、いや正確には四百年のときを隔てた伝説の吸血鬼、彼らふたりなのだから。
 ちなみに爆発事故と言うのも正確なところ異なる。
 屋敷の中でよりにもよって大蝙蝠の暴帝を召喚し、月影のように揺らめく外套に全力で己の暴を全力でぶつけようとした現在の吸血鬼は、同じく大蝙蝠の魔帝を召喚した四百年前の吸血鬼が揮う暴によってそれを阻止されたどころか壁に弾き飛ばされ、おまけにこの程度かとの挑発さえ受けたので何糞と立ち上がり――そこから繰り広げられる屍山血河の激戦については割愛しよう。暫く経ってふたりが我に返れば、周囲は瓦礫の山と化し、巻き込まれた悪魔たちの呻きが所々から聞こえてくる大惨事が広がっていた、と言うのが紛れもない『事故』の顛末。
 ことの真相をただちに知らされた参謀兼執事は割れんばかりの頭痛で今すぐにでも寝込みたい気分になっていたものの、しおらしく反省しているふたりとなってしまった主に、これは閣下が偶然居合わせただけの事故として処理するのでおふたかたともそのつもりでお願いしますと申しつけて両者それを了承したのだが、不幸にもそれは以降続けて起きてしまった。大体上記と同じような、どちらが先に手を出したかが異なるくらいの流れで。
 連続『爆発事故』として徹底した措置を施し、しかも四百年前と現在の主が狙われているとの噂を流すことで世間から真実を遠ざけようとした人狼の心労はいかばかりか。実際そのふたりいずれかの命が狙われていたことには違いなかった訳だが、両者が下手人であろうとは情報局さえ預かり知らぬ話である。知ったら最後、そいつは腐敗ヶ原のどぶ川に物言わぬ姿で浮かぶ運命が待ち受けているだろう。
 ともかく広い魔界の中でもたったの三人しか真相を知らないこの連続『爆発事故』が、新党設立後初の大赤字を引き起こしたと知らされて党首の吸血鬼が自責の念に駆られるのは至極当然。執事も今回は甘やかせず、どうしてご自分と争われるのですかとこれまでの争いが起こる毎と同じく厳しく問うたが、原因を言えばどうなるのかまで頭の回らない青年ではないのでこちらもいつものごとく言葉を濁した。
 今の自分よりも強いと理解しているはずの全盛期の自分に彼が喧嘩を売ってしまった理由はただ一つ。青年が血を断つ切欠となった元人間現天使の娘に、よりにもよって四百年前の『暴君』と謳われていた己が惚れたから。
 初めて会ってから言葉を交わした期間はたったの三日だが、以降四百年の辛苦と孤独を味わった末に奇跡的な再会を果たした、吾が命にも代え難い女を横からかっ浚われるなど。たとえその相手が過去の自分であっても、彼はおめおめと見過ごしてやる気などイワシの小骨ほどもない。
 だから時間の矛盾が起こるとしても、あれに触れるな近付くなと恋敵になってしまった己を彼は全力で退けようとしたのだが、当然魔力差があるため殺すことまでは相成らず。対する全盛期の男はこちらも我慢の限界が来たらしく、あれを泣かせた輩が偉そうにほざくなと低く唸って未来の自分を殺そうとする始末。
 かくして、暴だけではなく執念深さについてもそれなりの自負を持つ『暴君』と呼ばれた悪魔たちの闘いはおおよそ一週間地獄のあらゆる場所で顔を合わせるたび繰り広げられ、ようやく収束したのはついに人狼が諸々の心労による神経性胃炎から倒れた影響で現在の吸血鬼が書類の山に押し潰されそうになるほど忙しくなった件と、喜んでくれるだろうと期待して渡したドレスに娘があまり芳しくない反応を示した上、すぐ着てくれもしなかった過去の吸血鬼がふて腐れて暫く部屋から出てこようとしなかった件が重なったため。
 ちなみにこれらの二件について、自覚はなくとも渦中の人物でもある天使の娘が細々世話を焼いたり天岩戸を開いたりとさりげなくもしっかり活躍していたのだが、特別扱いを受けた気になって浮かれていた両者はお互いそれをいまだ知らずにいる。
 ――さて、話をもとに戻そう。
 見返りのない降って湧いた赤字を埋める方法について、具体的に解決策を見出せない主従は焦っていた。特に事件を起こした片割れでもあるプリニー教育係の焦燥は尋常ではなかった。
 今月の給与によって直下のプリニーたちがようやく転生できると喜んでいる姿を見かけた彼としては、支払い日を引き延ばすなどプリニー教育係として言語道断。だが悪魔の中でも最下層として扱われるプリニーたちの給料まで支払える余裕は現在党にない。未定として引き延ばすほかないでしょうと、主の心境を慮って静かに言葉をかけた執事の手に、しかし唯一の解決策が握られていたとはそのとき彼らは思いもしなかった。
 それが『死神王』からの密書。事故の真相を知らなくてもこちらの懐具合の苦しさは予想できたのか、返答次第では無利息無利子で金を貸し付けてやっても良いとの文面に、主従は渋い顔をした。今まででも旧政拳陣にはそれなり大きな借りがあり、現与党は野党に負んぶ抱っこだ、甘えているだのと揶揄されることも少なくない彼らにとってこれ以上借りを作るのは危険だったのだ。
 しかし背に腹は変えられぬ。長い協議の結果、二人は苦渋に満ちた形相でもう一人の下手人である『暴君』を呼び、事情を説明した。二つ返事でそれを請け負った男が主に何を考えていたのかは、最早言わずと知れていよう。
 そんな訳で現在の吸血鬼の誇りにかけて資金の融資に向かわされる過去の吸血鬼は、鼻歌でも歌い出しかねないほど上機嫌でいたのだが、書類に囲まれている側は同調できるはずがない。苦虫を噛み潰したような顔を隠しもせずにぼそりと吐き捨てる。
「……はん、だらしない顔をしおって。そんな面をハゴスに晒すなど、考えただけでも恥ずかしくなるわ」
 対する長身の青年は余裕綽々。それどころか、いっそ涼やかと表現できる笑みを滲ませ相手を挑発する余裕さえおありだった。
「ふむ。話に聞いていたがこうして見ると確かに男の嫉妬は見苦しいな。……尤も、それほど悪い気もせんが」
 ぎりと、奥歯を噛む音が執務室に響く。それは痩躯の吸血鬼が図星を突かれた何よりの証明だが、悲しいことに虚勢を張る余裕など彼にはなかった。
 そうとも嫉妬している。これが自分の身に降りかかったとしても、嬉々として同じ行動を取るくらいに彼は昔の自分がこれから味わうであろう時間や出来事が羨ましかった。
 付き人の名目を被せ、あのありのままでも十分に美しい天使の娘を自分好みに飾り立て連れ歩くなど。心配そうな顔で見上げられ、緊張を宿していながらも温かく柔らかな身体を少し寄せられて、甘い体臭をふとした拍子に嗅ぎ取るなど。自分がそんな体験をすると思えば頭が蕩ける心地でいるだろうに、現実は残酷にも違う。しかもこれからそんな真似をできる相手は――誰であってもどんな理由でも許せそうにないのだが――、四百年の真の辛酸も飢えも知らぬ自分なのだから腹立たない、嫉妬しないほうがおかしい。
 眼前のにや下がる己に今から再起不能になるレベルの大怪我でも負わせ、不幸な事故が起こったから急遽自分が代わりに来たなんて展開に持ち込んでしまおうかと物騒な考えを巡らす彼の思考を視線の鋭さから読み取ったのか。また金時計の蓋を開けてから閉じた男は、これからそれはもう楽しい時間が過ごせるだろうに、何故か獲物を弄ぶ猛禽類の微笑を浮かべながら訊ねてきた。
「……まだ少し時間がある。少し遊ぶか?」
 当たり前だが、そんな笑みを宿して投げかけられた遊ぶ、の真意が平和的な解釈であるはずがない。しかし痩身の吸血鬼はその手の脅し文句には慣れているし、生きるか死ぬかの瀬戸際を潜った経験は圧倒的に眼前の男よりも多いので動じることもないどころかこれ幸いと不敵に笑い返す。
「俺はお前と違って多忙だ。……どうしてもと言うなら、まあ足の一つや二つもいでやっても構わんが」
「ほう。ではその礼に首を手折ってやるとするか」
「ああ、ならば変更しよう。心臓と頭。どちらもきっちり握り潰してやる」
「それは光栄。代わりと言っては何だが、お前の全身、細かく砕いて小魚の餌にしてやろう」
「ありがた過ぎて涙が出るな。ついでと言っては何だが、液状化する気はないか?」
「……液状化、ですか?」
 最後の一言が自分たちの放った声と違うと数秒の間を持ってから察したふたりは、そちらに瞬時に首をやる。半開きの扉の前には予想を裏切らず、件の娘がいた。
 桃色の髪は巻き髪特有のふんわりとした線を保ったまま一つにまとめ上げられているのか。ボリュームを持たせた右寄りの頭部から、巻き髪が右腋へとゆったり垂れ流れ華やかな。更に開けた左の頭部には真珠の雫と金細工の葉を縫いつけた黒薔薇のコサージュが覆い被さって、それだけでも十分なほど新鮮で晴れ晴れしい。顔にも珍しく化粧を施しており、普段でさえ瑞々しく柔らかそうな唇は鮮やかな赤葡萄酒の潤いを宿し、瞼に作られた淡い陰影や秀でた額から鼻筋にかけて、色香と高貴が仄かに薫った。
 身を包むは優美な赤いレースと煌く黒いタフタとをふんだんに使った豪奢なドレス。幾重にも重ね合わせてうねる生地はそれだけでも十分に華やかで、胴体を包んでいたと思ったら大きく広がるスカートにも複雑な波間を作って花弁が重なる様子を重厚に描く。いつものベビードールが可憐な鈴蘭や白百合の蕾ならば、こちらは大輪の、古葡萄酒色の艶をほんのりまとって壮麗に咲き誇る黒薔薇を連想させた。
 首から胸元は黒曜石のみで構成されたシャンデリアさながらの首飾りで覆い飾られ、耳元にも同類のイヤリングが覗く。かたちのよい手は黒レースの、赤いリボンを巻いた短い手袋で覆われて、肩から手首までの肌は、身を包む黒と赤に映えたか淡い光沢を放って一層白く象牙のよう。大きく開いた羽の生えた背中なんぞを間近で目にしてしまえば、その肌触りを堪能したい衝動に駆られて大変なことになったろう。
 かくして普段の高露出ながら清楚な印象の天使から魔界の貴婦人へと変貌を遂げた娘は、男ふたりの瞬き一つしない視線を受けて居心地悪そうに身じろぐ。そんな仕草は普段と相変わらず、ついでに言うなら軽く困っていそうな表情もいつもと同じなので、堂々たる佇まいを貫くべき装いには浮いているのだが、自前の特殊な感情によるフィルターを通して彼女を見ている彼らにとってはそんな野暮な感覚など存在しない。
「もう来たか。予定の時間より少し早いようだが」
 ともあれ、居心地が悪いのは娘くらいの沈黙を最初に破ったのは当然ながら懐中時計を手にする男。その発言に自分の職場を待ち合わせ場所に使われただけと自覚させられた男は視線を手前に引っ込めるも、眉間の皺がその心中を雄弁に物語る。
 熱どころか物理的な重みさえ感じかねない赤い視線の呪縛から解放された娘は少々の戸惑いを押し隠すようにそちらに軽く視線をやる。本人としては普段通りのつもりなのだろうが、それだけで妙に色っぽい。
「相手の方を待たせないため、待ち合わせ時間より少し早くに来るのは常識です」
「生憎そんな常識は多くの悪魔に通じぬ」
「あら。そう仰るあなたも悪魔ですのに、随分と早くいらっしゃったみたいではなくて?」
「半端に時間が空いたからな。わざわざ暇を潰すのも面倒だ。……それに、お前をいたずらに待たせる気は俺にない」
 ――無駄に格好付けおって青二才めが。党首の吸血鬼が思わず口の中で呟いてしまうがそんなぼやきは当然向き合う両人の耳に入らないため、天使の娘は心地良い衣擦れの音を立てながら膝を折る。
「お気遣いありがとうございます。ですけれど、それではわたくしがお待たせしたようで心苦しくなりますわ」
「女の身支度が手間取ることくらい俺とて知っている。それがお前とあらば、少々待たされる程度、苦にはならん」
「……ふふ。ここは光栄です、と言うべきなのでしょうね」
 全くはかどっていないものの、仕事をする振りをしていた青年は聞こえてくる会話に焦りを禁じ得なかった。過去の自分がこの娘に執着している点はもう間違いようがないからその気持ちの示し方に矛盾はない。だがそれにしたってこの露骨なまでの押し具合は何だ。今の彼にとっては考えられないほどだが、それを彼女は尻込みも遠慮もしていない辺りも完全に予想外だった。こんな調子でふたりっきりになってしまえばどうなるか。最早未来視と言えるほどの悪い予感が頭に過ぎり、痩せた背に一筋冷たい汗が流れてしまう。
「そのくらいで大層な返礼などいらぬ。……しかし、よもやこれほどとはな」
 深く息を吐いた過去の自分がしみじみと着飾った娘を眺めているのだろうと想像すれば素知らぬ振りなどできるはずもない。
 釣られるようにちらと顔を上げた彼は、予想通り男の無遠慮な視線に晒された娘が頬をほのかに染めながら困惑気味に俯く姿を目撃してしまう。化粧を施した今の彼女がそんな顔をすると、盗み見の立場も忘れてつい見入ってしまうものがあった。
「……あの。あまり見られたくはないのですが……」
「それくらいは我慢してもらおう。……待った甲斐があったともう暫く実感したい」
「そんなことを仰られてましても……ねえ?」
 たっぷりと降り注ぐ血の色の視線から我が身を隠したいのか軽く相手へ背を向けた娘は、イヤリングをちゃりと鳴らせ、真正面の彼へと助けを請う。尤も、請われた側とて彼女の姿を目に焼き付けていたためすぐさま反応できなかった。目が合った自覚から慌てて我に返り、なんともないように口の中で何やら呻いて、続く言葉を探ろうと明後日の方向に視線を彷徨わせる。
「ま、まあ、いつまでもここに居座っている訳にはいくまい。……付き添いの格好を眺め過ぎて遅刻なぞ、笑い話にもならんしな」
「え、ええ。そう、ですわよね」
 必死に同調する娘に、それもそうかとあっさり過去の己が頷いたところで彼は悟ってしまった。彼女にせっつかれたとは言え、暗にふたり揃ってとっとと退室しろと告げてしまった自分の愚かさを。
 しかしこの場で意見をすぐさま翻すのも情けない。どうやって自分の考えにぶれを生み出さないまま向こうの顔に泥を塗らないようにしつつこのふたりの進展を阻止するか、齢二千年弱の生の中でも五指に入る勢いで頭を激しく回転させて唸る男の苦労を露知らず。金時計を懐に収めた約千六百歳の吸血鬼は、ようやく立ち上がって女の手を自分の腕に絡めるよう優雅に、僅かな抵抗の素振りでも見せようものならそちらのほうが野暮だと思わせるほど丁寧に導く。
 無論、人間の頃に銀の匙をくわえて生まれた娘はその手の作法を知らぬ訳はなく、そのため相手の意図も重々承知しているはずなのに、彼女は一度はっきりと首を横に振った。
 自分の意図に反する理由がわからず軽く眉間に皺を刻む男に、女は真紅の唇を綻ばせる。それだけの仕草のどこにかような要素があったのか、甘くも古めかしい花の香りが立ち昇り、笑みを間近にした青年のひそめた眉が自然伸びてしまう。
「ハゴス様にお会いできるのが楽しみなのはわからなくもありませんけれど、今からそんなに気を張ってしまえばきっとこちらに帰ってくるまでにくたくたになってしまいますわ。そう言うことは、あちらに着いてからにしてくださいな」
 子ども相手のような窘め方に男は小さく鼻を鳴らす。彼女の指摘もまた間違っていないが、触れてほしい気持ちは強かったのでやんわりとでも断られるのは些か傷付いた。
 しかし過去の自分と四百年前から思慕していた娘が腕を組む光景を第三者目線で見せつけられずに済んだ男は、彼女の言葉に急に顔を上げ、そうだったと声高く呟く。
「この件についての報告はアルティナ、お前に頼む」
「……報告、ですか?」
 彼女は付き人として会合に出向くのであって、金の融通がきちんと為されるかどうかは密書に目を通した面々にしかわからないだろうに。さっきは自分が釘を刺しておいて、その張本人が墓穴を掘るのかと呆れの色も露わに己を見下した青年に、わかっているわとでも言いたげな視線が忌々しげに返ってくる。
「ああ。俺が言うのも難だが、過去とは言え俺の見解では大雑把過ぎて手応えもあまり当てにできん。話が終わったあとのハゴスの様子だけでも構わんし、……まあ単なる直感からの印象でもいい。ともかく帰還次第、お前の今夜の感想を聞きたい」
「……そう言うことでしたら、わかりましたわ」
 穏やかな笑みで肯首した娘に、頼んだぞともう一度真剣な顔で念を押す四百年後の自分の意図は何か。
 自分が同じ立場になったらと思考を巡らせると、身も蓋もなくふたりきりの時間を作りたいものとの考えに辿り着き、彼は呆れた吐息を漏らす。
「疲れているだろう女にわざわざ帰ってきて話を聞かせろとは、未来の俺は随分と人遣いが荒いらしいな」
「俺とて長々こいつを拘束する気はないわ。……しかし、あまり疲れているようなら一言、いや、翌日でも構わん」
 気持ちはわからなくはないが、いくらなんでも必死過ぎやしないかと未来の自分の態度に長身の吸血鬼はますます鼻白む心構えでいたのだが、彼女の様子にその気は大いに殺がれることとなった。
「ふふ……、お心遣いありがとうございます。それでは帰り次第、またこちらに伺いますわね」
 静かに瞼を伏せ笑んだ女の表情は、今は艶やかな化粧を施しているせいだろう。八重の花弁を持つ蕾が花開く瞬間のような、息を呑むほど美しくも後ろ暗い甘い疚しさを濃密に抱かせる。
 しかし疚しさなど、笑みを浮かべた張本人は恐らく抱いていまい。その証拠に微笑まれた未来の自らもまた、ほろ苦くもくすぐったそうに頬の辺りを歪めているだけで。
「ここで断言するな。疲れたなら明日でも構わんと言っただろうが」
 つまりこれは自分だけが感じ取ったものだと、ひとり時の爪弾きに遭った男は掻き傷が疼くような胸の痛みから実感する。こうなる理由はわからない。いや、正確にはあまり考えないようにしている。ただ確実にこの感覚を覚えるのは、娘がこの、魔力を失った己についてその優しさや気遣いを見せる瞬間だと気付いてはいた。おかしな話だ。この天使は自分も含め、誰に対しても優しいのに。
「今夜もあなたは遅くまでお仕事のご予定なんでしょう? でしたら、わたくしも疲れたからすぐに寝るだなんて言っていられませんもの」
「お前と俺とでは疲れの種類が違う。わざわざ張り合う必要はない」
 言葉の上ではぶっきらぼうなのに、魔力を失った青年が女を嗜める響きは柔らかい。注ぐ眼差しも同じく、呆れているのはかたちばかりで本心は娘を気遣っているのが見て取れた。
 普段からそうあるべきなのに。なのにどうして、あのときは娘を泣かせたのか。謝りもせず部屋から追い立てたのか。そうして、あんなことをいまだ女として触れてもいない天使に告げたのか。四百年後の己へ強い疑問が彼の中に渦を巻くものの、かと言ってこのときのように優しくするばかりではこちらも困――それはまた、何故。
 自分で自分の思考に驚かさせられる。この女に優しく接しないこの己に強い不満を抱いていたではないか。なのにどうして実際に優しく接すれば困るのか。自分以外に笑顔を向ける娘を見たくないからか。そんなもの、当人の好きにさせればいいはずなのに。――本当に? 心の底からそう思える自信は、一体どこにあるのだ?
 じわと、例えようのないほどの危機感に焦りが滲む。けれどその感覚を、男は悪魔としての防衛本能と無理に歪めて受け止めた。いつか娘の笑顔を見て言の葉に触れて、天使が持つ力に完敗を期したと思い込んだときのように。
 そうして遅ればせながら、もう完全に手遅れにも関わらず言い聞かせる。このままこの天使に尻尾を振っていてはならないと。そうとも、確かにこの娘の笑顔はいい。泣かせるのも辛い思いをさせるのも論外だ。しかし元来、天使と悪魔は相反するもの。たとえ悪魔であろうが接するもの総ての敵意を殺ぐ力を身に宿した天使の好きなようにさせていいはずがない。
 だが悪魔は天使にどう対応すべきなのだろうかを彼は知らない。人間相手ならば恐怖でもって戒めると言う大義があるが、天使にはそんなものあったろうか。相手が敵意を見せれば躊躇なく応じてやればいい。しかしそうでないのなら。それどころか、友として己に情を持って接してくるのならば。
 わからない。わからないけれどどうにかしなくてはならない焦燥感だけは強いから、彼は無防備な細腕を掴んでやや強引に自分のほうへと引き寄せる。急にそんなことをされた娘の白く細い肩が小さく強張った。自分が乱暴なことをしたからだと理解しているのに、胸が痛むのはどうしてだろう。
「あら、もう時間でした?」
「……ああ」
 しかし嫌われている訳ではない。その証拠に女はなんともなさそうに笑いかけ、腕を掴んだ己の手に優しく片手を添えてくれる。
 少しずつ力を緩めて最終的に解いてやれば膝を軽く折られ、そのまま扉――ではなく、党首となった四百年後の己に向かって、彼女は軽く身を捩り丁寧に挨拶をした。たかがそんなことで胸が薄暗い方向に染まりかけるのはどうしてだろう。
「それでは、行って参ります」
「うむ。危険はないと思うが、……まあ、気をつけろ」
「はい」
 そんなやり取りと微笑を痩躯の吸血鬼と交わしたあと、娘は扉のほうへと身を翻してドアノブに手をかける。その瞬間、彼はちらと先の彼女と同じように背後を振り返って。
 いかに髪や体格、地声の音程さえも変わろうがこれだけは初めて見たときのままだと娘に称された己の鮮血色の瞳を視界に納める。別段まじまじと見つめる価値もない顔だが、それでも籠める思いは明確に伝えるため。
「危険などない」
 何事かと軽く目を見開いた未来の自分に、一度女と交わした約束を破った男に、彼は昂然と告げる。
「俺が守る」
 お前ではなく、俺が。
「あいつは、俺の――」
 ■だからなと。
 口にしかけて、けれど何を言うのか唐突に忘れてしまった彼は、意味不明な己の行動に首を傾げつつ体の方向を戻し、ドアノブを握った女に寄り添うようにして執務室を出る。
 取り残れたるはひとりの吸血鬼。否、そもここは元来彼の仕事部屋であるから、来客が去ってようやく本来の状態に戻ったと言うべきなのだろう。しかし青年の内面はふたりの客人が去って一息つける余裕など皆無、どころか嵐に呑まれた木っ端船さながらの。
 何故なら彼はしっかり理解していた。あの四百年前の、人間だった頃の娘と出会ってもいない己が先程なんと言おうとしたのかを本人よりも明確に。その理由は簡単。あれが声に出そうとした独占欲は、娘と出会った直後から今の今まで己が胸の杭の奥に息づいて今も衰えようとはしないため。
 あのままふたりきりにさせていいはずがない。ないのに動けない。よりにもよって昔の自分の顔、いや昔の自分そのものが、あのとき彼女に言えやしなかったどころか今も口にできないままの言葉を、この自分相手に告げようとするなんて珍妙に過ぎる体験をしたせいで。
 それはある意味では分離と表現できるのだろうか。再会して以降も昂り続ける想いを直接表現することもできない今の自分と、なんとなれば悪魔の誇りなどあっさり手放しその言葉を躊躇いもなく相手に伝えられるであろう過去の自分は、起点を同じくしただけの完全な別人だとでも。
 ならばその完全な別人に、女の心に上手いこと滑り込んだあれに奪われてしまうのか。四百年の枯渇と苦しみの果てにようやく再び巡り会えた、あの清く可憐でしなやかな強さを宿す彼だけの花を。命を。生きる意味そのものを。
 そんなこと、絶対にさせてはならない。
 体内からようやく衝撃が抜け出た痩躯の吸血鬼はゆっくり立ち上がったが、今更行動に移すなど遅すぎた。
 直後、軽いノックのあと開かれた扉の向こうからぞろりプリニーどもが一礼ののちおん出てきて、まず手始めに青年の進行を阻止する。今後我が身に降りかかる未来を一切知らない彼は、また書類が追加されるのかと最早他人事の気分で鬱陶しく眉根に皺を作るがさにあらじ。
 魔界の最低級悪魔たちはどうしたことかその頭やら腹の鞄やらに見慣れぬ機材を携えていたのだ。そうしてそれを組み立てたり、幾匹か肩車をしてから棚の上に置いたり、何をどうする気かさっぱりわからず目を瞬くばかりの青年を尻目に、突然の来訪者たちの最後の一人、人狼が入室し空気が一変する。
「フェンリッヒ様、設置完了いたしましたッス!」
「よし。ならば総員解散せよ」
 敬礼後この命令にもまた従順に応じて、プリニーたちはつむじ風の勢いで去っていく。自分の断りもなく機械を設置された彼としてはただでさえ良くない機嫌が更に低下してしまい、これを命じたらしい僕に一応静かに訊ねるも視線と声は随分と刺々しい。
「……フェンリッヒよ。何故、わざわざ主の部屋にかようなものを置く?」
 指先でダークグレイの物体を突付く。脚立を使って書斎机を真っ直ぐ見つめられるようにされたそれの名前を、彼とて知らない訳ではない。棚の上やら窓際やら照明の上に置かれたものも、これと同類なのも知っている。しかしそんなものが、どうして自分の執務室に設置されればならないのかまでは知らない。
 だから吸血鬼は堂々訊ね、対する執事は主の機嫌の悪さと今後の展開を予想してか軽く目を伏せいつも以上の下手に出て、まずははっきり頭を垂れた。
「ヴァル様に何の断りもなくこのようなものを設置した件につきましては、まことに申し訳なく思っております。ですがこれは、その、……『暴君』ヴァルバトーゼ様が……」
 言い淀んで出てきた名に彼の眉が動く。件の『事故』以降、その男との関係が悪化していることをいやと言うほど理解している人狼は一つ咳払いをして間接的に相手の形相が変化している自覚を促すと、どうにか説明を続けるが。
「『今夜はあいつが仕事を放り投げてどこぞに行方を眩ませる予感がするから、買収にも脅しにも屈しない監視を付けろ』と申されましたので、このように監視カメラを」
「おんのれぇええええええええッッ!!!」
 言い切る前に、地獄の釜底ですら割れんばかりの咆哮を耳にして、人狼は瞬時に気が遠くなった。
 そうしてこんな調子の主をここに引き止めろなどと、もうひとりの主たる長身の吸血鬼はなんたる無茶を命じるのかと割合本気で恨みたくなったが、まあ結局。彼は四百年に及ぶ『暴君の僕』としての矜持から、逆立ちしたってその命を拒否する気にはなれないのだ。
 故に人狼の青年は、立ち眩みを覚えながらも同時に強く己が胸に誓う。痩身の主を、プリニー教育係の吸血鬼を、いまだ人間の娘との約束にこだわって人の血を吸わない頑固な悪魔を、今夜は書類漬けにすると。


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ご探索

2012/04/11

 ゲートを渡った先は、いつか目にしたおどろおどろしくも荘厳な大統領府そのままのはずなのに。立ち込める緊張感はあのときとはまた違った具合で、付き人役の天使は胸騒ぎを覚える。
 最初から件の吸血鬼を党首として仰いでいた地獄党の面々とは違い、『死神王』に長らく仕えた上級悪魔たちが四百年前から訪れた伝説の『暴君』に敵愾心を抱いても仕方はない。衰え知らずの魔力を有する人物に対し、こちらは『畏れ』エネルギー減退の影響を受けて往年の力を取り戻せていないとなれば、嫉妬を覚えるのも無理からぬ話。
 だがここに漂う殺気は本当にそんな、冷たかろうが熱かろうが生物の放ったものなのだろうか。いや、だからと言って妖霊族や屍族などのアンデットのものでもない。表現に難しいが、血の通っていないような、作りものが生きている振りをしているような無機質な殺気には覚えがあった。とは言え彼女は単身魔界に侵入した天使として、また地獄党の一員としてあらゆる敵と戦ったため、その記憶はいまだ具体的な像を描くまではいかない。
 それでも時空の渡し人から大統領府への接続場所が固定されていますと聞かされたときに覚えた予感を、待ち時間に比例して増す悪寒から裏付けられた気になって、彼女は深く息を吐き出すとともにスカートのとある位置にそっと手を移動させる。
 魔界に単身侵入した天使にとっては何よりの宝である安全な居住地を得たとは言え、ここは悪徳を誉れとする魔界だ。身を守るための武器は常に携帯しているし、今だって皮のホルスターは膨らんだドレスの奥に潜み、その中で両脚に頼もしい感触を与えている。しかし肝心の取り出しと組み立ては難儀なことにわざわざスカートを捲らなければならない。
 それでも時空ゲートの固定先が応接室で良かった。専用の化粧室がなければ、彼女はパートナーにとんだ恥を晒す羽目になっていただろう。
「あの……少し、靴下を直しに行って参りますね」
「ああ」
 向かい合っていた青年に告げるも、相手はじっと眼前の、廊下へと続く扉を見つめたままこちらに一瞥もくれない。恐らくは彼もまた予感を覚えている。下手をすれば彼女よりも、じき己が戦場に降り立つことになると確信している顔だった。
 ならば遠慮することはない。
 娘は早足で化粧室に向かい、鍵を閉めてがばとスカートを捲り上げる。手袋を脱ぎ、ベルトごと外したホルスターからよく手に馴染む黄金の銃を取り出すと、もう片手に同じく黄金の銃身を手にし、状態を確認してからしっかりと装着。
 そうやって愛用の、十字架型『聖戦』の名を冠する銃が完成すれば、スカートの皺を手で払い少々無骨ではあるが皮のホルスターもドレスの上から着け、手袋を嵌める。姿見で全身に不自然な点がないかを確認し終えれば、覚悟を決める意味合いで静かに息を吐き出してから化粧室の扉を開けた。
「……え」
 しかし扉の向こう、応接室の光景は一変していた。扉に空間転移の魔法でもかかっていただろうかと突飛な発想を抱いたほどには変わっていた。
 具体的に言えばソファが、家具の類がなくなっていた。
 今宵、大統領府に招待を受けたふたりが向かい合って座っていたそれや、ふたりの間に据えられていた胡桃の木のテーブルも粉々に砕かれて。天鵞絨のカーテンは大きく裂け、壁紙は爪痕や刀傷で廃墟のそれと見紛うほど。傷のない部位は焦げ煤け、結果的に無事な部分を見つけるほうが難しい。天井は、つい先までぶら下がっていたシャンデリアの直径ぴったりに、それはもう見事な大穴が開いていた。――ついでにそこからは殺意もたっぷり。
 けれど彼女がほんの少しの間、化粧室に入る前と後でも変わらぬものはある。部屋の真ん中でひとり佇む男がそれだ。
 今の時代からすれば古めかしい、けれど天使の娘が人間だったときには時代相応の貴族然とした装束を身にまとう青白い顔の青年。尖った耳が覗く、後ろで一つにまとめた長い黒髪を、血の色の裏打ちが成された闇色の外套と同じく風もないのに微かに揺らめかせる、ひとの姿と似ているようで異形のもの。よく研いだ刃物の鋭さを彷彿とさせつつ、新月の夜の森めいた四肢にまとわりつく漆黒を連想させる空気を持つ悪魔が。
 血糊や肉片、体毛の一部らしいものが染み着きこびり着いた絨毯に倒れ伏した妖花族の頭に、片足を据えながら訊ねる。軽く俯いているためその顔は彼女から見えない。けれど放たれる声から、表情は容易に想像できた。
「……つまりこれが本来の趣向と。そう受け止めて構わんのか」
「…………」
 妖花族は答えない。顔こそこちらを向いているが瞳は虚ろ、唇ははくはくと酸素を求めて動くも明確な声と意思を絞り出すには至っていない。強襲してきたのは当然この妖花族だけではなく、部屋の状態から察するに仲間が多数いて、その全てが殺されたのだろう。
 天井の穴の向こうでこちらを伺う援軍は、漂う殺気の濃さから察するに少なく見積もっても三十は下らない。そいつらが今も尚、こちらの隙を虎視眈々と狙っているのはわかる。わかるのに彼女は、最早条件反射の域で、足で踏み殺されかねない眼前の妖花族に生き延びてほしくなった。
 そんな娘の気持ちを察する間もなかろうに。妖花族の頭に足をやったままの、四百年前から現れた伝説の吸血鬼は朗々と語り始める。
「『死神王』の噂は聞いている。俺が知りうるものでは候補者の一人に過ぎなんだが、今は……いや、暫く前までは大統領だったと。気高く使命に勤勉な悪魔でありながら、魔界全土が危機に陥った際は己の意思を殺してまで魔界の存続に努めた、この魔界の長きに渡る歴史の中でも五指に入る為政者だ、とも」
「…………」
 妖花族は明確な反応を寄越さない。表情は虚ろなままで、長らく仰いでいた悪魔を称える言葉を耳にしても沈黙を貫く――何故、どうして。死神王の直接の指示であろうがなかろうが、正直に言えば彼は足を離すのに何故答えないのか。
 どんな質問にも答えるなとの指示を受けたのか。そんな玉砕めいた真似を、あの聡い元大統領が自分を支持していた悪魔に命じるなんてとてもではないが信じられない。彼の部下たちが同じような真似をするとしても、やはり信じられない。
「……痛めつけ過ぎてはいらっしゃいません?」
 だから今の彼女にできることと言えば、本当に妖花族が口を利けるほどの余力を眼前の男が残しているかどうか疑うくらい。しかし吸血鬼は揺るぎなく応じる。
「加減はしてある。こいつが抵抗を示さぬのは体力の問題ではなく、俺の足に警戒しているのだろう」
 ぐ、と丸い団子状の蕾に靴が食い込むと、妖花族は虚ろな瞳のまま目に見えて呼吸を早くする。
 確かに、これは生死の境を彷徨うほど衰弱している者の反応ではない。緊張している。恐怖している。それでも唇は明確な言葉を作らない。何故。どうして。いや、――もしかして。
 混沌とした思考の海に燦然と、一対の糸が浮かび上がる。化粧室に入るまで感じていた懐かしい殺気と頑なに言葉を発さぬ妖花族が彼女の中で一本に結びつき、その衝撃に青い瞳が愕然と見開かれた。
 こんな発想、正直なところ繋がってほしくないが、だからと言って無視する訳にもいかない。
「……あの、背の高い吸血鬼さん」
「どうした」
 ここには比較対象がいないけれど、それでも彼女は最初にそう決めた呼び名のまま眼前の悪魔を呼ぶ。更に慎重に言葉を選ぶため、口紅も忘れて下唇を軽く舐めた。
「その、この方たちは、今まで何か言葉を放っていましたか? 雄叫びや悲鳴以外に、明確な知性と個の意思を感じさせる言葉を……」
「いや、聞いていない。いないからこそ今こうして口を割らせる気でいる」
「……そう、ですの」
 自分の予想を裏付けるような回答に、彼女は重く深い吐息をつく。
 明らかな隙を見せたためだろうか。天井からぱらり小石が降って、こちらの様子を伺っている連中が襲いかかろうとするもそれを吸血鬼が一睨みで制する。無論、足にかける力も変化はなかった。なのに。
「……っ!」
「くぁっ……!」
 死ねば諸共か。布靴で頭を踏まれていた妖花族の蔓が、獲物を襲う青大将の速度で女の細首に絡みつく。
 音で瞬時に事態を察した男は、蔓が決死の思いで細い首の骨を折るよりも先に足下に力を込めて頭蓋を砕く、はずだったが。
「…………めん、なさい」
 謝罪の言葉と銃声一つ。
 二秒ののちに蔓の持ち主が息絶え、蔓から解放された女は自分の首に手をやり激しく咳き込む。その表情は険しい。無論、ほんの数秒とは言え殺されかけた物理的な息苦しさも含まれているが、それが本命のはずはない。
「……連中の目的がわかったか」
 眉間を撃たれた妖花族の亡骸から足を離すも、わざわざ屈んで瞼を閉じさせてやる気にまではならないのか。男の油断ない視線はすぐ天井に戻る。
 咳がある程度止んでから訊ねてくれる彼に僅かな感謝の眼差しを向けてから、娘ははっきり頷いた。
「っは、目的、そのものはわかりませんが、ん、んんっ、……正体なら、おおよそは……」
「意味がわからぬ」
 そうだろうと浅く頷いて、彼女は最後の区切りに大きく息を吸い込むと自分の推測を口にする。証拠はないが、実際に戦った記憶と経験から限りなく事実に近い予感はあった。
「彼らは恐らく、真っ当な生まれ育ちの悪魔ではありません。……クローン。人間界で人工的に造られた、殺戮兵器として生を受け、眼前の敵を滅ぼすことのみをプログラムされた悪魔だと思われます」
「……ほほう?」
 四百年前から現在に来てしまった吸血鬼の相槌は、普段の低く凄みを含んでいるのと違い、現在の吸血鬼に近い高さの声音なのに。味方でさえ背筋が粟立つほどの壮絶な何かを滲ませて、彼女は弾かれたように頭を上げた。
「彼らを創るように指示した人間は、既に相応の罰を受けています! あなたが罰を下す必要はありません!」
「案じろ、その辺りの話は聞き及んでいる」
 こちらに視線を向けないままそんなことを言われても、安心できるはずがない。むしろ悪い予感は膨れていく一方で、彼女はそんな方向ばかりに思考を巡らせる己をどうにか落ち着けるため深呼吸をする。それで生々しい火薬の臭いと自らが殺めた妖花族の青臭い血の臭いが混ざった空気を吸ってしまうなんて、とんだ皮肉だ。だが、いい気付けにはなった。
「でしたら落ち着いてください。八つ当たりなど、誇り高き悪魔のなさることではないでしょう!」
「……手痛い指摘をする」
 ずっと上を向いていた青年の肩が小さく揺れる。苦笑したと思しき仕草に、ようやく娘は安心した。
「仕掛け人はハゴス様だと見るのが順当でしょうが……どうして大統領府に彼らを集め、わたくしたちにけしかけたのかまではわかりません」
「俺の力量を計るためとは考えられんのか」
「確かに畏れエネルギー不足の影響にいまだ尾を引く上級悪魔たちを差し向けるより、潤沢に人工畏れエネルギーを与えられた悪魔を差し向けたほうが、あなたの強さをより正確に推し量れますが……」
 が。それではこの、人間を恐れによって戒める使命感が強い悪魔の逆鱗に触れかねない。どころかもう既に現状判明している情報に対してだけでも十分なほど怒っていると言うのに、あの悪魔は一体なにを考えているのか。
 挑発か。それにしたって過激な。単純な力比べなら現与党党首でさえ勝てるかどうか怪しい悪魔を煽り立てるとしても、勝ち目は一体どこにあるのだ。
 人間界の忌むべき技術さえ使って魔界を復興させる気なら、言葉通り清濁併せ呑む人物として評価すべきかもしれない。だがその意思表示の相手を四百年前の『暴君』に選ぶのは無謀ではないか。安易に得られる力に簡単に溺れるほど、自惚れや失った魔力への執念が激しい人物ではなかったはずなのにどうして。
 嘆息し、熱っぽい頭を一旦冷静にしようとした彼女はしかし、その続きを考える余裕を打ち消された。
 下で倒された仲間の新たな血の臭いに触発されたか、幻獣族らしきクローン悪魔が興奮の唸り声を漏らす。それが次第に上階からこちらの様子を伺う悪魔たちに感染して、粘泥族の気泡音に猪人族のいななき、怪鳥族の蛇の威嚇の声やらそれぞれ質量の違う羽音が混ざり合い、物騒な賑やかさに嫌が応でも生存本能を掻き立てられる。
「……進むしかないようですわね」
 天使の娘は苦みを含んだ声で結論付けた。今こちらがあれこれ考えようと、考えているだけでは真実に辿り着くまい。それを知る人物、『暴君』との対面を求めてわざわざこんな歓迎を演出した悪魔にこちらから会いに行かない限り。
 四百年の中で魔界の繁栄から衰退までを直に見、直に感じ取った男はおわすのだろう。きっとこの先、女が大統領府に初めて足を踏み入れたときと同じあの場所に。
「ああ。殺すしかない」
 しかし過去から訪れた男にとっての真実など、『死神王』は人間の忌むべき力を借りた愚か者だと言う認識一つで充分。だから断固として告げる。天井から降り注ぐものを跳ね除けるが如き気迫を、更にもう何階も上にいるはずの人物相手に真っ直ぐ向けて。
 多分にそのまま吸血鬼が一挙に天井を破壊し、元大統領の首級を討ち取ったところであの悪魔どもは感情や力の変化など見せまい。彼らは組み込まれたプログラム通り、ただ死ぬまで戦い続ける存在でしかないだから。
「……一つ、お願いがあります」
 今更この吸血鬼を止めるのは難しいことくらい理解している。それでも彼が誰を殺すかまでは宣言しなかった点に一縷の望みを賭けて、彼女はグリップを握り直す。――自らの手を穢す覚悟は、もう既に。
「加減しろとは言うな。あれらに悪魔としての誇りどころか意思さえないなら、慈悲など向けることすらおこがましい」
「いえ、そうではなくて……」
 そんなことを言われる予感はあったから、苦笑を浮かべて天使は首を振る。同時にコサージュの細やかな振動が頭部に伝わって、毟り取りたい衝動が胸に押し寄せたが実際にそれをすると編み込みが解ける気がするのでぐっと堪える。
「これ以上建物を壊すのは止めてください。あなたにとってはそれが一番手っとり早いのかもしれませんが、ここの本来の持ち主の方にとっては災難でしかないでしょうから……」
「……ああ」
 指摘を受け、ようやく本来の大統領を思い出したとばかりの声が吸血鬼から漏れた。
 実際、今の魔界を機能させているのは名目上なら『地獄』党と、彼らと古くから縁ある自称ダークヒーローだが、政治に関する重要な局面についてはいまだ旧政拳陣のほうが理解が深く、資金や伝手も豊富だ。そんな彼らが現大統領殿に直接掛け合って彼が喜ぶ程度の献金をしたため、歴史ある大統領府があっさりと貸し切れて、今のような状況が安易に創り出されたのだろう。
 こんな調子ならクーデターは下級悪魔でさえ容易かろうが、現状誰もそんなことをしないのは悪魔たちの怠惰か当代大統領の姿に大統領の地位に魅力がなくなってしまったのか。まあ、今論ずるべきはそこではない。
「よかろう。悪魔ですらないあれらを片端から掃除した上で、それらをここに持ち込んだ総大将の申し開きを聞く。それで構わんな?」
「はいっ」
 あの怒りに満ちた声を聞いたばかりのときを考えれば、その判断は感心するほど慈悲深い。事実、まだ死神王の身の安全を確保した訳でもないのに、彼女は感謝の笑みさえ浮かべた。
 けれどそれは、男にとって少しばかり刺激が強過ぎる。何せ今の彼女は赤と黒の豪奢な装束を身にまとった貴婦人さながらの艶姿であって、そんな女が美しい水色の瞳をほのかに潤ませ笑んでくればどうなるか。
 少なくとも、吸血鬼は硬直した。一瞬だけだがしっかり我を忘れた。顔を天井に向けたまま、視界の隅に例の笑みをちらと入れただけでだ。真っ直ぐにそれを受け入れればどうなるか、本人とて全く予想がつかないだろう。
 しかし幸か不幸か、ふたりを取り巻く環境は男女のいじらしいやり取りなど許す余裕はない。男の警戒心が薄れたのを好機と見た悪魔の姿をした人造兵器どもが、雄叫びを上げながらもついに上階から降りてくる。
 だがいたずらに時間が過ぎるばかりの睨み合いから、白黒あっさり付く殺し合いに転じるのは男とて願ったり叶ったりの展開だ。しかし本格的に掃除に取りかかるのは、一つの憂いをなくしたあと。
「……天使」
「ええ、わかっていますわ」
「…………」
 不意の呼びかけを、彼女はこれからの無限地獄に心してかかれと注意する声として受け止め銃を構えて見せたのだが、彼にとってはそうではなく。
 単純に、そばに来いと。その細い肩が何の支えもなく守りもなく傷つけられるかもしれないなど思えば臓腑が煮えくり返るから自分の手が届く範囲でいろと。そう伝え手を伸ばしたつもりだったのに、やんわりと拒絶された気になって。
「あ、あの……?」
 男の、不意に背後から突き飛ばされたのとそっくり同じ表情を見止めた女は、自分が何か読み間違いを犯したらしいと理解したが生憎と駆け寄る暇はなかった。ふたりの間を遮るようにして降り立った悪魔たちに、我が身の危険を知らされて。
「ごめんなさい、お話はまたあとで伺います!」
 敵と、つまりは敵の向こうにいる彼と距離を取り、謝罪ついでにブレイブハートを放ってから自分を狙う悪魔たちに照準を定める天使の姿を視界に捉え、ようやく吸血鬼も戦う気が沸いてくる。しかしその胸にはもう、この悪魔でさえない悪魔たちに抱いた蔑みはなく、こんなふざけた歓迎をする元大統領に抱いた憤りも薄い。
「……邪魔だ」
 にも関わらず青年は牙を剥き、その身に宿る魔力を解放して自分と天使を遮る生け垣どもに吐き捨てる。離れてしまった娘を一刻も早く保護するためならば、魔力を惜しむ気など欠片もなかった。
 心赴くまま、または切磋琢磨を目的として己の暴を振るうのではなく、誰かの身の安全のためにこんなことをするのは酷く懐かしい。しかしそんな感慨に耽る余裕もなく青年は床を蹴り上げ、悪魔の生け垣を一つ跳びで越えようとするが、無論相手も同様に飛びかかってくる。
 だがそれがどうしたことだろう。
 黒い外套の肩めがけて大口を開ける幻獣族の鼻を手のひらで潰し、猪人族の振るう棍棒を足で受け止め強かに蹴り返す。相手の獲物がその背後に控えていた魔翔族に当たって胴体が抉れる音を耳にすると兜を掴み、落下の無防備を狙う妖花族の蔓の相手をさせてやればくぐもった悲鳴が聞こえてきた。
 ついで猫子猫族の頭を狙って着地すると、布靴の裏で頭蓋を砕く感触を味わうがこれと言って感慨はない。眼前でそんな光景を見せられた娘もまた同じく、とはならなかったようだが。
「……き、吸血鬼さん!」
 表情を強張らせた娘の肌に幸い傷は付いていないが、やはり早々に攻撃を受けてしまったらしい。ドレスの裾はほつれ破れタフタには汚らわしい赤が染みており、それだけでもこの晴れ姿が痛々しく損なわれてしまったと軽く落ち込んだ男は、有無を言わせず天使を自分の懐へと手繰り寄せる。
「なっ、何をなさ……!?」
「お前を守る」
「はっ?」
「ここにいろ」
 短く命じ、細い腰に回した腕を更に己のほうへと引き寄せた直後、男は微かに身を軋ませる。唐突な行動が唐突に停止したことに、娘はそっと顔を上げて様子を伺った。
「……あの、背の高い吸血鬼さん。どうかなさいましたか?」
 娘独特の、自分を示す呼び名で呼ばれ、男は顎を引いてそちらに視線をやる。
 ここではどこよりも安全が確保されている吸血鬼の腕の中、距離を取っているようにも寄り添っているようにも見える曖昧な体勢で、桃色の巻き髪を優雅に胴まで垂らした娘が、水宝玉の瞳を星より清く煌めかせ、不安げにこちらを見上げているのと目が合って。
 その距離間。衣服を通して伝わる身体の温かさに柔らかさ、八重の花弁を綻ばせ咲く花の芳しい香り、初夏の薫風より甘く澄んだ声、視界に入るもの全て――何なのだろう、この堪らなさは。
 瞬きの間でしかないのに濃密な感慨が喉奥までせり上がり、続いて湧き上がるこの世に存在する何もかもを滅茶苦茶にしてしまいたくなる衝動に歯を噛みしめて耐えた男は、生温かい息を深く長く吐き出した。
「……いや。何もない」
 穏やかに、手中の娘へ優しい声音で応じた男の隣で、黒い外套へと襲いかかろうとした魔獣族の鼻頭が別種の鋭い爪で引き裂かれる。不意の攻撃を受けてもんどり打つそいつの頭に、幻獣族の牙が容赦なく突き刺さり。
 シルエットは辛うじて原型を留めていたが、ホルマリン瓶に入れられたほうが似合いそうな状態の魔翔族が、自らの臓物が落ちることも厭わずに先ほどまで同胞だったものたちの頭上に眠りの燐粉を蒔き一時的に無抵抗にする。頭部を破損した寝子猫族や猪人族もまた敵に牙を剥いた。
 しかし、攻勢はそこまで。
 吸血鬼の手で直接命を奪われたために彼の眷属となり果てた悪魔たちは彼らなりに精一杯反撃をしていたが、敵もまた感情を持ち得ていない上に数も多ければ駆逐されるのも存外早い。
 敵の狼狽を引き起こすことなく見る間にとどめを刺されてしまう眷族に、主たる男は已む無しと片手を掲げる。もう片手は、依然天使の腰に回したまま。
「気になるようなら耳を塞いでいろ」
「なんの、……っ!?」
 たかがそれだけの合図に、女の全身の毛穴が開く。
 膨大に魔力が膨れ上がる感覚とず、と時空が歪む音を耳にした彼女は、何が顕現したのかを男の肩の向こうから覗く眼光から知らされた。
 その瞳の色は黄金。
 男のものとはかけ離れた色合いの、しかして彼の従者と似ても似つかぬ、あらゆる血を吸いつくしただ在るだけで災害となりうる獣のそれ、弱きものどもの防衛本能を呼び起こす異様な輝き。
 そこから視界に広がっていく容貌もまた異形。皮膜のような羽の向こうに潜む四肢は人の骨格に酷く似ているのに、容姿そのものは完全に人の姿とはかけ離れているのがむしろ近付き難いほどの風格を強調して。恐らくは人言を解し意志の疎通ができるだけの知性があるだろうに、たかがそれしきこの存在には何の意味もないと確信させるほどの傲然とした化生の王が、ゆっくりと黒い翼を広げて人工悪魔どもを睥睨する。
 知っている。女はこの化生を今とはまた違った状況で、今腕の中に自分を収めているひとと違う姿の同じ人物の手によって見たことがあった。数えるほどしかないけれど、それでも初めてこの化生の力を目にしたときの衝撃は頭から消えていない。
 だがそれは、ただそこに在るだけでこうも身を竦ませるほどのものだっただろうか。自分に危害を加えないと理解しているのに、いつの間にか膝が笑っている我が身に気付いて彼女は別の意味で肩を震わせた。魔力の有無は、こんなところにも影響が出てしまい。あの彼と契約を交わしているあの化生さえ、本来の力を引き出せていないと知らされて。
「冥府へ誘え」
 暗く重い思考の海に沈みかけた女の耳に、短い主命が滑り込む。
 顔を上げればかの化生が、主たる吸血鬼のものと全く同じ、身を穿つ深紅の杭を黒い羽から覗かせるように一度。そう、たった一度だけ力を込めて羽ばたいた。
 それから数秒の完全な沈黙の間を持ってどうと迸る――暴風。轟音。衝撃波。
「ひっっ!」
 ふたりを取り囲むクローン悪魔たちは畏れエネルギーを潤沢に与えられた、現代においては生粋の魔界の悪魔よりも数段強いはずなのに、そんな連中が羽ばたきで生み出された破壊力に耐えきれない。強固な肉体が丈夫な毛皮が粘り強い皮膚が目が顔が腎臓が骨が、粉微塵に消し飛ばされ砕かれていく。
 鼓膜が破れないのが不思議なくらいの轟音と、痛みが頭に伝わるよりも先に肉体が破壊されていく現実を眺めることしかできない悪魔たちの虚ろな、しかし感情がないはずにも拘らず僅かに愕然と歪んだように見える表情と呻きにも似た悲鳴と、何より巨大な硝子製の粉砕機にかけられていくような、悪魔たちが塵と化していく凄惨な光景を、天使の娘が男の外套越しに目にして暫く。
 恐らくは一分も経っていないが、それでも彼女にとっては目も眩むほど長い壮絶な光景がようやく止んで静寂が戻ったとき、ふたりを取り囲んでいたクローン悪魔三十数匹はこの世から影もかたちもいなくなった。痕跡は部屋の壁一面を赤黒く染める塗料と、生温かくむせ返りそうなほどの悪臭のみ。しかしもとより魂がない連中である。男にとっては殺したところで何の感慨もない。
「行くぞ」
「……ぃ、行くって、どこ……にっ!?」
 男はいまだ足元が覚束ない娘を更にきつく抱き寄せ、真上の大穴へ跳躍する。そのまま重力に従い落下するより先に外套を使って軌道を修正。穴の外へと着地した。
 上階には後援隊らしきクローン悪魔どもが、唐突な敵の到来に怖気づきもせず身構える。やはり先程襲撃してきた悪魔たちが全てではないらしいが、それだって数は随分少ない。おかげで速やかには殺せそうにない。
「……一つところに集まっておればいいものを」
 舌を打つと同時に、吸血鬼は最も近くにいた猫娘族の首を手折る。優しい囁きと丁寧な仕草で手中の女を離してやってから死告族の頭蓋を割り、流れのままに邪竜族の心臓を抉って、樹巨人族の腹に穴を開ける。
 血を吹き出し悲鳴を上げ悶絶し滑稽なほどの痙攣を起こす悪魔の姿をした肉塊どもに、男は徹底して意識を向けない。だがそうやって息絶えて行った彼らに、すぐさま変化が訪れる。
 倒れ、全身を弛緩させ、苦しげな引きつけをようやく落ち着かせ何より総じて瞳を死に濁らせた悪魔たちが、そのままの面構えでゆらり立ち上がると、何の命令も受けていないにも関わらず他の悪魔たちに襲いかかる。
 仲間の死を看取るどころか気にも留めなかった面々は、黒衣の悪魔に気を取られていた部分もあってその多くが不意の急襲を許してしまう。それでもどうにか数にものを言わせて退治したところで、また別のところからまた新しく死した同胞の攻撃を受けた。
 そうやって休むことなく他の悪魔を素手で屠り続け、慣れた様子で手駒を増やしていく吸血鬼によって、着々と部屋の勢力図は塗りかえられていった。自然、たったひとりの悪魔が有利になる方向で。
 ただひとり取り残されていたのは天使の娘。男にここにいろと、お前は何もするなと優しく命じられた、お飾りの。
「…………っ、違う!」
 飾りなどではない。いいや、飾りなんかになりたくない。
 瞼の裏にはあの外套の男が、自分に優しく囁きかけながら、伸ばした片手で生気がないなりに愛らしい顔立ちの猫娘族の首を容赦なく捻った光景が浮かぶ。あの光景の衝撃はいまだ抜けていないいし、そこまで冷酷にはなれないけれど、彼女は数ある修羅場を単身潜ってきたつもりだ。
 だからここで役に立てないなんて、それまでこの魔界をひとり生き残ってきた矜持に関わるからと、天使は震える全身を叱咤し、銃を構えて敵を探した。けれどそれは、ややも手遅れ。
「……いな、い?」
 油断なく四方を探し、五体満足の敵を発見しようとしたときには、既に。
「……ふむ。こんなものか」
 声のほうを振り返れば、白手袋だけをぬらり赤黒く染め上げた男がひとり。
 体をそれなり動かしたことで少しは気も昂ったか、赤い裏打ちの外套が微かに揺らめく。外套内の上着も金のベストも血痕どころか皺一つなく、その姿が娘の目には威風堂々と映る。
 それに問題などありはしない。ただ彼がひたすら敵を屠り続けていた間、放心して立ち竦むばかりで何もできなかったこちらはまさしく、それと揃いのお人形でしかないのだと自覚を促されたような、惨めな心地になっただけ。
「……どうした。やはり、この光景は天使のお前には辛いか?」
「いえ。……何でもありません」
 指摘を受ければ確かに、男の背後で物理的に不自然な悪魔たちが皆一様に畏まる光景は夢に出そうなほど不気味ではあった。しかしそれ以上に自分の無力さを痛感させられた娘の心を、この年若き吸血鬼が推し量れるものか。
 白手袋に滴る血潮を『吸収』し、殺戮兵器どもの穢れた血がいつものように自らの疲労を減らす事実に軽く眉をしかめてから、男はことさら優雅に娘の前に腕を差し出す。
「では行くか。案内はお前に任せよう」
「……はい」
 誘われるまま天使は男に近付くも、かんばせに差す陰りは消えないまま。
 流れのまま両手を男の腕に絡めれば、自然相手との距離も近くなるし、軽く寄りかかるような姿勢になってしまう。その体勢に躊躇いと気恥ずかしさは覚えるものの、けれどそれ以上に手の中の銃が少し邪魔になると知らされて、ホルスターに銃を収めた娘は顔の陰りを濃くする――このひとにとって自分の戦力など、頼る必要もないものだと実感して。



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ご到達

2012/04/13

 『暴君』の行進は淡々としたものだった。
 ときに配下を増やし、ときに眷属を敵に特攻させ、一行はそぞろ歩きの速度のままで大統領府の頂点を目指す。
 一行、などと言ったところでまともに生きているものはたったのふたり。黒い外套に黒い髪、死人さながらの青白い肌に黒い礼服の中世貴族然とした青年と、桃色の髪と薄青の瞳、月光石の艶を宿す裸の背から更に輝く純白の翼を生やした、黒薔薇を模した礼装に身を包んだ娘のひとりずつ。
 腕を組んだ一組の男女が、魔界で最も贅を尽くした大統領府の黒大理石と金細工と紅絨毯の廊下を、階段を、踊り場を歩く姿は一見すれば絵になる光景だろうが、それより目を引くのは彼らの背後。
 女の後ろに棚引く黒いドレスの裾に触れない程度の距離を開けて、タイピン代わりに角を一本、胸に刺し飾る死告族が続く。その真横には首が捻れ、まさに首の皮一枚で頭と胴が繋がっている邪竜族、背中の羽をもがれたのと手前の片腕を顎で貫かれているのも続いて合計三匹。すぐ後ろには胸に大穴を開けた猫娘族、頭をかち割られた樹巨人族、一歩ごとに破片を蒔きながらもどうにか原形をとどめたひびだらけの魔獣族に、羽を一枚と腹から下を潰されても器用に飛ぶ魔翔族。怪鳥族も鶏冠やら尾の蛇やらをもがれ潰され引き抜かれたのがそれぞれ痛々しくも続々と。猪人族も寝子猫族も皆、血の色に己を染め上げ、屍一歩手前の状態を奇跡的に保ったまま、人型の男女の歩みに悲痛な呻き一つ漏らさず続く。
 悪魔は元来不気味なもの。闇の使者として、人間どころか他種族の悪魔相手にでさえ恐怖を与えるのが彼らの原則的な使命であり意義である。
 だがそれをも超えたこの禍々しさはなんだ。粘着音と極彩色で描かれた、世にある亡者の行進と称された絵画や空想の中でさえここまで酷く生々しく馬鹿馬鹿しく、何よりも正気を疑う行進はなかろう。血生臭い臭いと内臓の生温さと霊安室の冷気が同居する、矛盾したが故に眩暈を催し、今自分が生きている世界に存在する事実を頑なに拒絶したくなる光景はなかろう。
 それほどまでにおぞましい一行は粛々と黙々と、虚ろに死した表情で、どう見たって動かすことさえ無理な肉体なのにさも当然のように肉と骨を動かして、風さえ起こしながら一組の見目麗しい男女のあとを追従する。
 これが不特定の目に晒されなかったことは、重畳の極みと言うべきだ。
 人間どもにこれを見せればあるものは最後、猛烈な吐き気を催しそのまま意識を失うだろうし、辛うじて意識を保ってしまえるものがおれば胃の中のもの全てを吐き出してもこの光景が目に焼きついて瞼の裏から決して離れず、不眠と飢餓の日々を過ごして衰弱のうちに死ぬだろう。それとも現在とは全く別の感性と理屈の世界に一つ跳びで到達し、そこから帰る方法もなく残りの生をいたずらに過ごすか。どちらにせよ『畏れ』エネルギーが発生するどころの話ではなさそうだ。
「……まあ、今の余には関係のない話か」
 呟きは仄暗い部屋に響き渡るのみで、反応を寄越すものはどこにもいない。
 無数のモニタの中の一つに映し出される腕を組んだ男女は、肌は密接しているはずなのに漂う空気は硬質で、口元が動くことさえ数えるほど。敵の懐で緊張感を持つのは当然だが、いつかの天使の娘が仲間とともにここにやって来たときを思い返せばやはり不自然ではあった。
 あのときはふたりではなかったからか。背中に頼もしい仲間ではなく、男の不気味な眷属を従えることが娘にあんな表情をさせるのか。それとも別の理由があるのか。
 こめかみに添えていた手を動かしたところで、脇に置いてあるシャンパンクーラーの氷が解けたか、がらりと大きな音が耳に届く。その音でまた考えを脱線させてしまったと我に返り、栓を開けて以来さして口にしていなかった細いグラスの、気が抜けた酒で喉を潤し、天鵞絨の肘掛けに深く背を預ける。長らく同じ姿勢でいたせいか、少し肩が凝っていた。四百年近くこの椅子に腰かけておきながら、何を今更と口元が緩む。
 だがそう思ってしまうのは、やはりこの座が他人のものになったと自覚しているからか。
 他人の居場所を拝借するとなればいくら贅を尽くしていようと精神的な据わりは悪い。かと言って落ち着かないかと問われればそうでもなく、丁寧に洗い清められたように凪いだ心は変わらない。
 否、僅かに心は昂ぶっていたか。もう暫くすれば、これまでこの身に屈辱を刻み焦燥に削り諦念に染め上げ罪悪感に腐らされた諸々が昇華される。そう意識すれば秒単位で時間が縮まっていくことに、大いなる悦びさえ感じるほど。
 多数のモニタの最上部分、左から二番目に映っていた男女――より正確には男だけ――がまたこちらが差し向けた悪魔を易々と屠ると、娘に再び腕を絡めさせ移動を再開する。殺された悪魔は半自動的に手下に加えられたが、彼はそちらを振り返りもしない。
 それから三分もしないうちに男女が左隅のモニタに現れたのを確認すると、モニタを閉じるようパネルに指示してからよっこら膝に力を込めて、長きに渡る相棒の大鎌を手に立ち上がる。それと同時だった。
 乱暴な音を立てて扉が開く。
 どうやら客人はノブを強かに蹴り上げたか、純金のそれはひしゃげ、観音扉の真ん中はそれぞれ片方ずつ半円型のクレーターを作り上げていた。客人として最低限の礼節くらいは弁えてほしかったのだが。
「『死神王』ハゴス」
「……うむ」
 空気も震えるほどの怒気を孕んだ青年の剣幕に、名を呼ばれた男、ふたりを招待した元魔界大統領にして苦悩の賢君『死神王』は思わず笑ってしまう。
 四百年前、この吸血鬼と初めて見えたときも、昨今政拳奪取を目的にこの執務室に足を踏み入れられたときも、ここまで刺々しく攻撃的に、呪詛の念さえ感じ取れるほどの迫力で名を呼ばれたことはなかったからだ。
 それほど相手を怒らせてしまったとは――良かったような悪かったようなと複雑な気持ちのまま、男は書斎机を通り越し、部屋の真ん中まで移動すると朗々と声を張り上げる。
「よくぞここまで辿り着いた、『暴君』ヴァルバトーゼ。あの悪魔どもは現在人間界で残されている畏れエネルギーを全てつぎ込んだ強者であったろうに、それさえああも容易に退けるとは」
「こいつらがか?」
 完全に嘲る調子で、青年は背後に軽く首をやる。同時に魔力の流れを切り替えたか、あの不快な屍の兵隊たちの姿勢が揺らぎ、次の瞬間、土砂崩れの勢いで彼らの肉体そのものが崩れ朽ちていった。
 むわつく血と臓物の悪臭に、長らく鼓膜に染み入りそうな生々しい物音がふたりの隙間から無遠慮に響いてくるも、男の腕を解き軽く俯いたままの娘のドレスには血の一滴も届かせない辺り、女の扱いは忘れない程度に冷静らしい。
「確かに個体で見ればそれなりだったがな……結束力もなければ気迫もない、なんとも物足りない連中だった。所詮、出来がいいだけの木偶人形よ」
「それはすまなんだな。しかしこれからお前が戦う相手は明確な意志と思考がある。多少の手応えは感じるであろうよ」
「ほう……?」
 男の言葉に、青年は軽く満足を覚えたらしい。
 ここまで散々煽っておいて弁明に徹するほどの腰抜けと思われていたとしたらさすがにこちらを見下しすぎだと男はささやかに立腹する。が、直後こんな真似をしていればそう思われるのも仕方ないかと納得し、口元には苦い笑みが刻まれた。対する青年も笑みを作るが、こちらは晴れ晴れとした凄惨な。
「実に殊勝な心構え、嬉しく思おう。噂に名高き死神王が、ことここに到るまで保身に徹する下衆であろうものなら、俺はこの手で殺すことさえ厭うたからな」
「それはこちらも困る。お前が倒したクローン悪魔は先で丁度最後だ。お前が余と戦わぬと言うのなら、自然、そこな天使に相手をしてもらうことになろう」
 唐突に話の輪に入れられて、それまで人形のようだった桃色の髪の娘が顔を上げる。生気を失っていた彼女は衝撃に目を見開くことでそれを取り戻し、続いてゆっくり、信じ難いとばかりに眉間に皺を寄せて更なる意思と感情を浮かべた。
「……では。まさか」
 白い肩が尖るほどに竦む。眉根の間の皺をより深くすると、男たちのほうへ身を乗り出して彼女は叫んだ。
「でしたらあなたは、この方に自分を殺してもらうためにこんな真似をしたのですか!?」
「そうなるな」
 誤魔化す気もなくあっさりと頷くと、暴君の殺気が微かに揺らぐ。しかし娘の動揺はそれ以上だった。
「どうして!? 魔界に未曾有の危機を招いた人間は、今は罪を償うべく働いています。あなたは被害者の一人に過ぎないでしょうに……!」
「かと言って、あの人間に荷担した余の罪が消えた訳ではない。……取引に応じ、あのような意志も誇りもない悪魔を生み出したのもまた、余の罪となろう」
 死神王の深く重い断言に、娘の肩が引きつった。
 その理由を青年は知らない。過去は人間だったこの娘が当時何をし、結果どんな悲劇が生まれたかも知らないこの彼には、思い当たる節など一切ない。
 そのため後ろに意識を向けかけた吸血鬼は、しかし眼前の男の声にすぐさま視線を引き戻させられた。
「……ヴァルバトーゼはよくやっている。魔界は少しずつ『畏れ』エネルギーを取り戻し、生産されるプリニーの数も減少傾向。人間界との関係も正常になりつつある。しかし、だ」
 ぎり、と大鎌を持つ手が力む。
 大統領府の最上階にして最奥に位置する執務室で、魔界では世にも名高き『死神王』と謳われ、かつては悪魔もその名を聞いて震えおののく『暴君』と対等に渡り合った死告族の覇王は、呵々と嗤った。
「あれは真の支配を理解しておらぬ。障害として現れたものを叩き伏せ、前を見据えておればそれでいいとさえ思っているのだろうが……ははっ、甘い。実に甘い! 身内に敵などいないと思うたか! 既に通った道が崩れぬと、何の根拠もなく信じているのかあの青二才は!」
 深紅の部屋に響く高らかな笑い声は、尻の青い小僧を嘲笑っているようでも、その甘さを微笑ましがっているようでもあるが、それ以上に耳にして、娘の胸にこみ上げてくるものがあった。
 知らず、詰め寄ろうとした一歩がもとの位置に戻り、息を呑んだ喉の動きで、肩より下が緊張で強張っていると自覚させられる。
 そのくらいには恐ろしかった。なのに胸を張り、堂々と哄笑する男にどうしても目が離せない。強烈な引力を感じるせいで。
 頭ではなく心で、この眼前の男は支配者なのだと、年若い天使は思い知らされる。
 四百年間、少しずつとある人間の手により歪められ弱められてはいったけれど、それでも確かにこの悪魔は、この魔界で最も強く最も優れた、悪魔の中の悪魔として君臨していた存在なのだ。
 彼女は全盛期のこの死神を知らない。なのに今、その片鱗をはっきりと叩き込まれ戦慄する。今でさえこんな調子ならば、本来の魔力が戻ればこの悪魔はどれほど恐ろしいのか。――ああそして、あの誰よりも気高く生真面目な吸血鬼は、それほどまでに強い悪魔と対等に渡り合えたのか。
「覇道とは、清きも穢れも総て呑み干し、過去も未来も見据えた上で築き上げるもの! 魔力を失っても尚貫き続けた己の誇りのため、地獄の底から這い上がり、見事政拳奪取を果たしたその姿勢は確かに賞賛に値しよう。しかし今後降りかかる問題は、今まで通り下手人を叩きのめせばそれで解決するほど単純ではない!!」
「だとしても、貴様があの悪魔でさえない連中を俺に差し向けた正統な理由にならぬ」
 熱弁を振るう死神王に、冷や水を引っかけるのが当事者ではないにせよ本人であるこの事態は一体どんな運命の悪戯か。しかし全く動じもせず、男は黒い外套の青年へとゆっくり熱気を孕んだ視線を注ぐ。
「……四百年前から現れた唯一の余の好敵手よ。今までの働きに免じて教えてやろう。これは余が残した負の遺産を、直接あれの手を煩わせず、しかしあれに覇道への疑念を植え付けるための後片付けだ」
 その片付ける対象には、自分の命も含んでいるのかと、招待を受けた男女は密かに思いを巡らせる。
 確かに地獄党が政拳奪取を果たしたとは言え、大統領の座を運で手に入れた悪魔に内政能力は皆無。実務を執り行う現与党は、野党の協力に頼っているのが現状だ。
 その野党の頭たる元大統領もまた、現政拳の『畏れ』エネルギー回復を最優先すべきとの主張に同調しているため協力体勢を徹底している。――翻れば、魔界が正常化すればまたこの悪魔が返り咲く可能性があり、それを期待する層は少なからずいると言うこと。
 何せこの悪魔は敗れはしたものの見事生き延び、また政治から完全に遠のいている訳でもないのだから。
 悪魔とは冷酷にして貪欲な生き物だ。政拳交代の瞬間やその背景を知らない外野は『死神王』が生き残った以上、再び頂点を目指すのが当然で、公式の場で発言された息子にかける期待とやらも傀儡政治と捉えるのが大半。
 外野の勝手な期待など当事者たちとっては鼻で笑う価値もない代物だが、だからと言って放置していればいい話、でもない。少なくとも、自ら死なねばならないと、この統治する時代だけが悪かった賢君が腰を上げるような出来事が起きたのは間違いなさそうだった。
「四百年前の『暴君』が現れたとの噂を聞いたときは何事かと思うたが、引き際を失った我が身には絶好の機会であった。余の犯した過ちを、余の命とともに過去のあやつに昇華させるなど、奇跡に近い幕引きではないか!」
 そしてその報告を受けた現在の党首はどんな反応を寄越すか。過去の自分に過去引き分けた男を殺すよう差し向けてしまった悪魔は、後悔するのかどこまでも愚かな奴よと呆れるのか、それとも――。
 何にせよ変化は起きるだろう。この中で最もあの痩身の吸血鬼に興味を持たない吸血鬼でさえそう確信するのだから、それは間違いない。かと言って、彼は眼前の男を肯定するのも癪に障るため些細な反論を口にする。
「あれを片付けたのは俺だ。貴様はここで偉そうに座っていたに過ぎぬ」
「お前に片付けさせるよう仕組んだのは余であろう。……ふふ、ここにこぎ着けるまで、なかなかに骨が折れたのだぞ?」
 小さく肩を揺らして笑う死神王は、言葉の割に妙に楽しげで。
 昔の苦労を振り返るような表情に、愕然と二人の男のやり取りを見つめるしかできずにいた娘の背筋が震える。これではまるで、死に際の懺悔ではないかと。
「人間界でクローン悪魔を所持する連中と秘密裏に連絡を取り、あ奴が残した唾棄すべき悪魔どもの残りを確認、その後全てを買い取った。加えて人工畏れエネルギー、それらをクローン悪魔に注入する諸々の費用。大統領府を貸し切り、プログラムを施したクローン悪魔どもをここに運搬するのも……いやはや。当初の見通しよりも実に大がかりになってしまってな」
 口元に晴れ晴れとした笑みを滲ませたまま、紫紺のスーツに身を包んだ男はぽつりと呟く。
「……多くの部下にも迷惑をかけたが、あれらは結局余の要望に従ってくれた。余は、果報者だ」
 染み入るような喜色に満ちた告白に、招かれたふたりは理解する。四百年間この魔界を統治した魔王が、多額の金と時間と手間をかけて、ここを己の墓場にしようとするその固い意志を。
「……ふん」
 男にとって『死神王』は、噂に名高き名君であり、しかし人工悪魔などを自分にけしかける卑怯な愚かもの。その程度の認識でしかなかったのに、今の彼の胸の奥にはまた別の感情が芽生えていた。
 多分にそれは感心であり、また嫉妬とも言い換えられる。自分の性格を把握した上でいいように操られたことは不快だが、それでも己の具体的な目的のために付き従ってくれる仲間がいるのは単純に羨ましかった。
 財力も仲間以外の他者との繋がりも、今まで自分には不要なものだと捉えていたのに、成る程、そんな話を聞いてみればどちらも必須。仲間は僕一人きり、金や仮初めの権力、その他ろくでもないものを餌に傘下に入るよう勧誘し、矮小な虚栄心から喧嘩を売ってくる愚かな悪魔たちを蹴散らすばかりの我が身と比べれば、この忌々しい死神は確かに正しい支配者なのだろう。
「いいだろう、死神王。……俺に支配の手本を見せてくれた礼だ。その願い、今ここで叶えてやる」
「それでこそ余の好敵手。……感謝しよう」
 黒い男は弓月めいた笑みを浮かべ、魔力を宿した白手袋の片手を構える。
 古代紫の男は獰猛な獣めいた笑みを滲ませ、幾多の血を啜っても冴え冴えとした白銀の大鎌を構える。
 その二人から離れた位置でただひとり、逆さまにした黒薔薇の衣装に身を包む天使の娘は己の無力を噛みしめるように俯いて――俯いたまま、ゆっくりと両腕を上げた。華奢な黒手袋に収まるのは、十字架を模した黄金銃クルセイド。
「……助けは不要だ、娘」
 今までの道のりでもそうだったろうとやんわり諭す気も含めて背後へ視線をやった黒髪の男は、だがそこで違和感を抱かされる。
 何故ならば天使の向けた銃口が、自分のほうに真っ直ぐ向けられているように見えたから。そんなはずはないのにどうしてと疑問を抱いたところで、声が。
「勘違いなさらないで。わたくしが止めたいのはあなたです」
「何?」
 押し殺した言葉の意味を理解するより先に、娘の小刻みに震える腕を目にして彼は瞬時に納得する。
 娘は決死の覚悟でこの男を殺してくれるなと乞うているらしい。慈悲深き天使ならばそんな行動はわからなくもないが、今回ばかりはおいそれと聞き入れてやる気にはなれず穏やかに宥めようとして。
「天使の、女のお前には理解できんだろうが……。これは誇り高き悪魔にとって」
「悪魔だろうが天使だろうが男だろうが女だろうが関係ありません」
 きっぱりと否定される。
 発言を途中で遮られた青年は、内心少しだけ苛立ちつつも駄々をこねる娘を説得すべくそちらに体を傾けた。
「……いいか、娘。奴は俺に殺されるためにこの場を用意し、俺もまたこいつを殺す気でいる。両者の意見は合致したのだ。お前は……」
「あなたがたの意見などどうでもよろしい」
 顔を上げた娘の薄青い瞳が宿すのは、憤怒。
 赤をも超えた灼熱の青いかぎろいは今まで目にした表情のどれよりも強烈な何かに満ちており、そんな表情をされるなんて完全に予想外だった吸血鬼の体に知らず緊張が走る。――誰に。どうして。この娘を相手にそんなもの。まさか。
 戸惑う青年などいっかな気に留めず、天使は彼に銃口をぴたり合わせたまま昂然と告げた。
「あなたがたの高邁なご意志や誇りとやらは、わたくしには単なる自己満足としてしか受け取れませんでした。自己満足で死のうとする人は見逃せませんし、それに則り殺そうとする人は尚更です」
 口調は詩を詠むように涼しげで、薄青い瞳だけが娘の内で燃え盛る激情を示してぎらつく。
 けれど言い換えればそれだけだ。視界に入るもの全てを射竦めかねない眼光以外、可憐に整ったかんばせはあくまで可憐なまま。般若のような末恐ろしい形相に転じていないのに、彼は刻一刻と天使の娘の姿に余裕を削り取られる。動揺している。どうして。何故。
 銃を構えたままの娘は、男がその気になれば呆気なく手折られるだろう細首を震わせ、それでも腹の底から声を出す。
「あなたがその方を本当に殺すと言うなら、その前に……わたくしがあなたを殺します」
 胸の杭に稲妻が突き刺さる。
 痛みと衝撃に冷静さを取り繕う余裕もなく、青年は反射的に首を横に振り叫んだ。
「止めろ。返り討ちにしかねん!」
「それならそれで結構ですわ。何もせずただ突っ立っているだけよりも、結果的にあなた方を止められるならば、わたくしは殺されたって後悔しない」
 しかし娘は脅しに屈しない。それどころか屈してたまるかと言わんばかりの覚悟を決めた表情で、銃口を彼のほうへと構え直す。
 ――そんな、こと。本気なのか。あの数多く向けてくれた自分への優しさは、『死神王』の命に比べれば吹き飛ぶほどのものでしかないのか。
 大いに歪んだ青年の眉の皺の意味を、恐らく娘は理解し得まい。しかし彼女は、彼の望みとはまた別の意味で冷静だった。
「……ハゴス様。ご子息にはこのこと、説明なさいましたの?」
「しておらぬ。だがそれがどうした」
 低く響く声に迷いはない。
 情に訴え未練を引き起こさせようとする考えを簡単に見透かされ、娘の眉が微かに軋んだ。
「あれは余の力を借りずに大統領を目指すと告げた。余はその意図を汲み、魔界に戻ってからあれに一切手を貸さぬよう努めてきた。ならば、余が死んでもあれにさしたる影響はあるまい」
「まだ彼は子どもです! 大統領を目指す修行とは別として、大人の、親の手を借りねば……」
「今でこそあれは上層区から地獄に通っているが、地獄にもあれの部屋はあろう。面倒はそちらで見るか、それとも実家で残された家族と暮らすか……いくら子どもとは言えそれくらいは選べる」
「ですが……それでは!」
 下唇に真珠の歯が食い込む。
 赤葡萄酒色の唇からまた別種の紅がぷつりと滲んだが、拭うどころか存在に気付きもせず、天使は必死の相で叫んだ。
「エミーゼルさんにとって、憧れていた英雄その人が親の仇になってしまいます! 仲間どころか憧れの人物が親の仇になるなんて、幾らなんでも残酷だと思わないのですか!?」
「ほほう、確かにそうなるな。しかしそれもまた一興。……仇を討つか諦めるか許すかはあれ次第。その葛藤もまた、あれの成長を促す要素の一つとなろう」
 死神王の冷酷で他人事めいた応答に、娘の眉とは言わず顔全体が、陶器に鑿を一突き入れたようにぎしりと歪んだ。
「勝手なことを仰らないで! そうしてエミーゼルさんが復讐の道を選べば……!」
「あれが返り討ちに遭えば、個人的な事情によるものだろうと党内で内部抗争が起きたことは紛れもない事実となる。それにより党員間の結束が揺らぐ可能性もまたある」
 その通りだと、天使は強く頷いた。問題はそこまで想定していながら、眼前の紫紺のスーツの男は頑として揺らがないこと。
 緊張感で軋みそうな二者とは違い、柔らかな顎髭の髷に人差し指を潜らせる余裕を垣間見せながら、娘の視線をひたすらに浴びる男は悠々と未来の仮定を語り続ける。
「その逆はまかり間違ってもなかろうが……この吸血鬼が情をかけ一太刀浴びせる程度で済んだとしても、やはり党内の空気は以前と異なろう。良い方向に転べば、あれは不敗の『暴君』に一矢報いた死神として魔界に名を馳せるやもしれん。そうして自ら党を設立すれば、大統領の座も近付こう」
「どうなろうとも、魔界中が『畏れ』エネルギーのために揃えてきた足並みが乱れることには変わりありません! それどころか下手をすれば、魔界中が混乱に陥るかもしれない……自分の死が魔界復興の障害になるなど、あなたの本意ではないはずです!」
 娘の言葉は紛れもない事実だろうに、男は微かな笑みさえ含んでこう述べた。
「しかしその混乱を治めるのが、党首の仕事ではないか」
 娘の顔にまた新たなひびが入る。今度は怒りからではなく、強く走った衝撃によって。
「あやつが真の支配者として相応しい器の持ち主なら、党内における内部抗争の一つや二つ、憂いを残さず処理するであろうよ。むしろそれくらいこなせずにおれば党首の肩書きなど背負うべきではない」
 確かにそれは党首の仕事ではあった。
 憧れていた英雄に敬愛する親を殺された党員の気持ちを汲むのも、その英雄に相応の対処を施すのも、党として元大統領の死に対する姿勢を示すのも。葛藤の結果、何らかの判断を下したその党員にとって最も適切な措置を取り、彼が満足できる結果を残せるように環境を整えてやるのも。
 けれど彼女は、そう理解していても具体的な想像などできなかった。したくなかった。
 痩身黒髪の悪魔、常に背筋を正し胸を張るあの気高く真っ直ぐな吸血鬼が、党内に蔓延する澱んだ空気を入れ替えるべく苦悩するなど。どんな結果となるにせよ、割り切れない感情と何らかの犠牲を、針のむしろに座る苦痛を、あの彼が受け入れるなど。そんな苦渋を飲ませたくない。清濁呑み併せることが為政者の資格だとしても、そんなこときっと彼は望まない。
 けれど別の想像力は容易く働く。魔界消滅のタイムリミットを引き延ばすことしかできなかった旧政腐の首領へと、娘は率直に訊ねる。
「……あなたがそうやって生きてきたからですか。真実を公表すべきだと反論した仲間たちの行動を完全に封殺し、隠匿し、残った仲間とともに結束を強めていったから……!」
 あのとき立ちはだかった大統領直下の悪魔たちの総数は、確か全盛期と比べて四割減。資金面からの人員削減と聞き及んでいたが、先の男の落ち着き払った態度と発言に、彼女はそんな予感を抱いた。
 けれどこの場で正直な回答を得られるはずがない。
 重く静まり返る紅い執務室に、疲れの目立つ吐息が鉛の重みを持って床に広がった。
「……さて、どうであったかな。この四百年は実に長過ぎた……そんなこと、あったかどうかも忘れたわ」
「わかりました」
 濁されても、確証を持たせる返答だった。けれど今はそれを追求している場合ではない。
 ため息で思考を切り替えた娘のむき出しの肩が僅かに横に逸れる。細腕の先の黄金銃の銃口もまた横に逸れて、黒髪の男を通り過ぎた。代わりに向けられたのは白髪交じりの金髪に、古代紫の艶深きスーツを身に着け大鎌を携えた男。
「そこまで決意が揺らがないと仰るのでしたら、……わたくしが、あなたを殺します」
 宣言を受けた二人が目を見張る。一人はあまりの唐突さに唖然として、もう一人は娘の物分かりの良さと感心から。
「止めろ娘! 貴様、自分が何を言っているのかわかっているのか!?」
「ええ勿論ですわ。その上で提案しているのです。あなたが殺すよりこちらのほうが荒波は立ちませんし、もしエミーゼルさんが復讐を選んだとしても完遂しやすいでしょう?」
「……っ!」
 娘はあくまで普段通り。流麗な声は金の鈴を連想させる透明感を持ち、かんばせは化粧の効果もあってか貫禄漂う穏やかな表情でいる。仕草も若々しい駒鳥めいて、天性からの品と鼻につかない可憐さが滲み、コサージュを添えた巻き髪も、豪奢な黒と赤の装束も実に馴染む。
 しかし戸惑う青年には、先のどうにか『死神王』を自分に殺させまいとしていた娘とは全くの別人に見えて。言葉一つでこうも振り回される初めての感覚に、抜け出すどころか足掻くことさえできない。
 娘はそんな連れ合いのこともさして気に留めもせず、ひたすら冷静に言葉を紡ぐ。
「わたくしは天使とは言え、既に数々の天界法を破り、神への反逆に荷担した罪人です。任務先の魔界で命を落としたとしても、天界はこれを黙視するでしょう」
「……確かに。全盛期の『暴君』が余を殺すとなれば現政腐と党首への反感も芽生えやすい。だがもとより悪魔と敵対する天使ならば、悪魔を手にかけたところで世論に大きな反響はないな」
 だからこの天使がこの男を殺すと。華奢な、柔らかくかたちのよい白い手を穢すと。
 そんなことあってはならぬ。生き残るためならともかく、明確な殺意を持って、自分の代わりに誰かを殺すような真似をこの純粋な天使にさせたくなくて、互いに了承した悪魔の男と天使の娘の間に佇んでいた青年は。
「……貴様等!」
 吼えた。いい加減にしろとの気持ちを籠めて。
 直後に外套を翻し天使に襲いかかろうとする。何故そちらを先にしたのかは本人もよくわからない。この娘さえ気絶させれば、後はどうとでもなると思ったのか。いつも殺すばかりで、当て身を放った経験もろくにないのに?
 だが娘は存外身軽で、正装にも関わらず素早く彼から距離を取ると、すかさず銃口を煌めかせる。迷いのない瞳は、これ以上近付けば容赦なく撃つと告げていて。
「………………」
「……くっ」
 覚悟に満ち、敵意さえ感じ取れるほどの眼差しを前に、白手袋は結局娘に触れることさえできず、そのまま悔しげに後退した。
「――――このッ!」
 けれどそれではならぬと、自分より先に天使の娘があの死神を殺す前にまたしても外套を翻し、堅太りの男の懐めがけて疾く。
 だが相手は忌々しいことに、待ってましたとばかりの笑みで大鎌を構え初撃を防いだ。闘った末に絶命がお望みとは平時の彼なら歓迎するが、今の状況ならそれは多少、いやかなり鬱陶しい。
「焦っておるな、『暴君』よ! かような腕では余の首は取れんぞ!?」
「黙れッ!!」
 おまけに挑発までしてくる始末。怒号とともに放ったもう一撃もあっさり防がれる。
 その上で今度は勢い余り過ぎたか、鎌で腕を弾かれた際に体のバランスが崩れ絨毯を転がる羽目になった。
 すぐさま起き上がり体勢を整えるも、状況を改めた青年はいやな予感に慄然とする。
 屍肉の山がそびえる扉の前に黒いドレスの天使の娘が銃を構えており、部屋の中央では仁王立ちの紫紺のスーツの死神がこちらを不敵な笑みで見下し、彼が転がったのは書斎机の前。つまり死神王を、天使と吸血鬼のふたりが挟む状態となっていたのだ。
「……さて。余の首を刈るのはどちらだ?」
 決まっている。娘の手を汚す訳にはいかない。
 一息の間も開けず床を強かに蹴り上げて、青年は白手袋を閃かせる。眼下のくすんだ金髪に向けて、その脳天を確実に潰すべく。
 顔を上げた男と視線が合う。だがもう大鎌を構えようともしない。そうかこれが望みかと、鋭さを増した右手がその頭に触れようとしたその瞬間。
 ぱんと、火薬が爆ぜる音。
 続いて焼けるような熱が軽く後退した右手に生まれ、熱はじわり痒みに転じ、そちらを目にした彼は自分の手のひらが血に濡れて、いや、何かによって貫かれたのだと理解する。
 貫いたものが何なのかを理解するより先に、再び死神王と目が合う。相手もまたこの事態に驚いていると知った彼は、ふとその男の後頭部に、弧を描く黄金の煌めきを目撃し――
「ごッ!?」
 鈍い音。呻き声。続いて、昏倒。
 目に火花を散らした古代紫の男が、鉄の臭いを後頭部から滲ませてゆっくりと床に倒れ伏す。とその手元に、虚空を遊泳していたと思しき純白の羽根が能天気に、音も立てずに着地した。
 ちなみに元大統領を殴った犯人は当然、男の背後に身を踊らせた天使にほかならない。現場の状況だけでも十分だが、その瞬間を目にした彼がそう判断するのだから違いない。
「…………は」
 銃口から煙を棚引かせる黄金銃で死神王を気絶させた下手人は、確かに倒れたのを確認すると緊張の糸が緩んだようだ。銃をゆっくり下ろしたと思ったら、どっと膝から崩れ落ちる。
「お、おい……っ!」
 慌ててそちらに駆けた青年は、自分の片手の熱、いや風穴が誰によって開けられたのかを遅ればせながら理解して、僅かに躊躇する。
 当然ながら、彼の凶器と化した右手に弾丸を放ったのもこの天使の娘に違いない。
 あのタイミングで手を撃つとはなかなかの腕前だが、それに感心するよりも実際にこの娘に発砲されてしまった現実に、彼は正直なところ傷付いた。自分が最初に襲いかかろうとしたから彼女も容赦しなかったのか。それともやはり、自分のことなぞ死神王の命よりも軽い存在なのか。
 仮定だけでも込み上げてくる胸の痛みをどうすべきか迷いながら、しかし結局体の勢いに任せ、喘ぐように息をする娘に近寄って。
「……ぁ……は、ぁぁっ……」
 恐らくパニエなどなければ床にへたり込んでいただろう娘は、顔を背の羽よりも白い恐怖の色に染めて彼を仰ぎ見る。全身は無論のことながら、薄青い瞳さえも悪夢を見たばかりの子どもさながらか細く震え怯えていて。
「……お前は」
 何と言うべきか。
 それさえも頭の中でよく定まらないままどうにか片膝を折った青年は、宝石よりも鮮やか瞳が潤み、次第に大きな雫が目尻に溜まっていく様子を目撃させられぎょっとした。
 暴君は死神王を殺せず、死神王は昏倒と言うこの状況は、この娘の一人勝ちと言える結末なのに。しかもあんな大胆なことをしておいて何故今泣くのか。理由もわからず戸惑うばかりの彼に、娘は汗で滑り震える両手から銃をどうにか放し、代わりに彼の右手を自分のほうへと手繰り寄せ。
「……ころさ、ないで」
 傷口からの痛みを感じるより先に、淡く温かな光が娘の黒手袋から生まれる。傷が、右手に空いた穴が見る間に塞がっていく。
 彼にとっては初めての経験だった。自分を傷付けた相手に、直後癒しを受けるなど。涙を流し、痛々しいくらいに必死な顔で乞われるなど。
「殺さないで。お願い。殺しては、いや……!」
 娘はひたすらに頼み込む。泣きながら回復魔法を必死に唱える。もう穴などきれいに塞がっているのに、それでは足りないとばかりに何度も何度も何度も。
 その姿に、場違いな熱がこみ上げてくる。自分は傷付けなかったのに自分を撃った事実も、あの死神の命のほうが大切なのかとの疑惑も、最早どうでもよくなっていく。両手を掴んでさえ自分を癒す娘の姿に、胸の奥がかき乱される。
 それでもどうにか冷静を努めて、巻き毛の滝に手を添えるように落ちては生まれる大粒の涙にそっと触れる。熱かった。娘の肌よりもずっと。
 その熱さが、また胸に沁みる。だから。
「殺さぬ」
 静かに、はっきりと告げてやった。
「奴は殺さぬ。だからもう泣くな」
 言葉を受け、娘の瞼が震えながらもどうにか開かれる。
 ああそうして、あの澄んだ湖面の底のように、晴れ上がった静謐な冬の空のように、朝露を宿す月草のように、水宝玉よりも尚美しい鮮やかな瞳が彼を映す。
 それだけで万に一つの奇跡に巡り会ったに等しい感激が彼の全身を貫いたのに、天使は更に目を細めて。また、一粒二粒と涙を雫しながらも輝くばかりに笑んだ。
「……ありがとう、ございます」
 鼓動が跳ねた。眼球は灼け、脳髄が焦げる。
 たかがそれだけのことにそんな感覚を生まれて初めて味わって、瞬時に凍り付いた男は少しずつ硬直を解いた末に深く吐息をつく。
 確信した。ただ一つの真実を。
 ――自分はこの娘を愛している。

◆◇◆

 書斎机を漁ってすぐ見つかった端末の短縮ナンバーに片っ端から繋いでみれば、やはり相手はあの男の元腹心や親族だったらしい。
 切羽詰まった、聞くのを嫌がるような、感情を押し殺した、怯え気味の声音でこちらの様子をそれぞれ訊ねられたが、淡々と事情を説明すれば往々に覇気を取り戻した。
 すぐにそちらに向かう。帰りは心配せずとも良い。ハゴス様が目を覚まされれば自分のことを伝えるように。
 口々の伝言と直後付け足された感謝の言葉に、やはりあの人物は死ぬべきではなかったと天使はしみじみ実感し、それを隣で聞いていた男はつまらなさそうな顔をした。その端正な横顔から、多くの人望を持ち得ていながらあえて死による幕引きを選ぼうとした男への嫉妬が垣間見えたのは彼女の気のせいだろうか。
 本当にすぐ訪れた旧政拳陣は執務室への扉を塞ぐ屍肉の山に二の足を踏んでいたが、翠のローブを目深に羽織った女性が瞬時にそれらを消却することで無事到達。何人もの悪魔が倒れ伏したままの死神王の脈を確認し、丁重にどこかへ搬送していった。
 残る悪魔たちには苦渋に満ちた表情で、ふたりの招待客に頭を下げた。その上で、今回の件はそちらの好きなように処理をしてくれと頼まれた。情報局に売り込み元大統領の株を落とそうが、この件をだしにこちらを脅そうがいくらでも好きにして構わない。閣下を説得することもできず、かような判断を下させてしまった自分たちもまた泥を被るべきなのだから、と。
 青年としてはそんなことを言われたところでどうしようもない。例の件について事前に書簡で送ってきた通りの処置を取れば――つまり借金のことだが――構わんと素っ気なく述べて、天使の娘は微笑み、今回で十分なほどお金を使われたそうですし、文無しの方へ『徴収』するほどこちら切迫しておりませんからとしれっと言い放つことでこの一件は幕を閉じた。
 かくして大統領府専属の時空の渡し人の居場所を聞かされた招待客たちは、地獄へ帰るべく揃って無人の廊下を歩く。
 執務室を目指すときはよそ見をしている余裕などなかったし、あの不気味なお供がいないためか。足取りはのんびりとした気軽さで、窓の外、銀色に輝く月を眺めながらの帰路だった。
「……随分と、月の位置が低くなりましたわね」
「ああ」
 交わす言葉は少ないのは変わらない。しかしあのときと違い空気はとろりと、蓮が微睡む小池のように穏やかで。
 そこに何よりの安堵を見出し、更に言うなら安堵できるほどの結末を迎えたことに再び喜びながら、天使はスカートの裾を持って小さく駆けた。
 背中の羽の辺りに連れ合いの訝しげな視線を感じたが、あまり気にせず振り向き笑う。その際に揺れたイヤリングもコサージュも、結果的になくさずに済んだのは僥倖だと思いながら。
「少し急ぎましょう。時間は確認できませんけれど、もう随分遅くなりましたでしょうし……」
「時計ならあるが」
「あら」
 男が懐から取り出した金時計をかざすと、娘は目を瞬きつつ彼のほうへと近付いた。
 さして腕を伸ばすことなく白手袋から黒手袋へ蓋付きの時計が受け渡されると、娘は中を開いてからほろり苦笑する。
「やっぱり……。もうすぐ日付けが変わります。これではあちらに帰って一息吐くのも難しそう」
「なら帰り次第とっとと休めばいい。奴への報告は俺が代わる」
「それは駄目です。あの方がわたくしに頼むと仰っていたのですから、わたくしが伺います。それに……」
 それに、と訊ねようとして。
 不意に娘が俯く。指とは言わず肩とは言わず、全身から気まずい緊張感が漂うも、青年はひたすら巻き髪の房となめらかな頬を眺めて続きを促す。
 血の色の視線の誘導はこの天使にとってなかなかの効果を持っているのか。思い切った勢いで肩を竦め、娘はぎこちなく時計を男の胴に突き返した。
「ハゴス様の件は、あなたではなくわたくしの口から説明したほうが、きっとあのひとにもあの方の危惧するところが伝わるはず」
 様。あの方。
 その言葉にどんな意味が込められているのか。あのときはどうでもいいと思ったのに今は急に知りたくなって、彼は自分の胸に当てられた金時計を、いやそれを握ったままの黒手袋に、白手袋を覆い被せる。
 その行動にさして他意はなかったものの、娘の手と重ねたのは右手、つまり彼女が撃ったほうで。傷口は塞がっても、換えを持っていなかった白手袋には手の甲に焼け焦げた痕が丸く残ったままだった。
 娘の動揺が指から腕へと伝わってくる。しかし青年は揺らぎも躊躇いもせず口を開いた。
「……天使。あのときお前は、どうして」
「ごめんなさい……!」
 どんな反応を寄越されようがある程度覚悟していたものの、それより先に腰から頭を下げられ、彼は軽く目を見開いた。
 手を掴まれたままの娘は、証言台に立つ小悪党さながら怯えと不安の色を宿し、しかし決死の覚悟を瞳に覗かせ頭を上げる。首飾りの黒曜石が数珠を爪弾く音を奏でた。
「あのときはどうにかしてお二人を止めないといけないと、そればかり考えていて……。勢いであなたを殺すなんて言っても、本当はそんなこと、考えたくもありませんでした。なのに銃を向けて……、あまつさえ本当に撃ってしまって……本当に、ごめんなさい……!」
 いつもは落ち着き払った娘が無惨なほどに取り乱すありさまを至近距離で堪能しながら、青年はなにやらむず痒い、浮き足立ちそうになる己を必死で押さえつける。
 たかが謝罪の一つではないか。なのにまるで自分が特別扱いされていると誤解しかけて、彼は黒手袋の甲を中指でそっと撫でてやる。
「そんなこと気にしておらん。それに俺が訊ねたいのはそんなことではない」
「はい……?」
 正確にはそれもあったが、先の娘の謝罪によって疑問は打ち消された。順番があべこべになったがまあいい。遣いの報酬としては悪くないと受け止め、青年は本来真っ先に問うべきことを改めて言葉にする。
「お前はどうしてあそこまで必死に俺たちを止めようとした。自分が返り討ちを受けても、仲間の仇となっても構わんなどと……お前は天使だ。たとえ事情があって魔界に住んでいようが、そこまでする必要はなかろう」
 彼としてはそれなり重要な、覚悟を込めた問いかけだったと言うのに。
 娘はごく当たり前の、自分の瞳の色を聞かれたときのように不思議そうに目を瞬いてから、ゆったりと首を横に振った。
「そんなことありません。大切な仲間の一人であるエミーゼルさんが悲しむ顔なんて見たくはありませんし、わたくしもあの方には死んでほしいなんて思えませんもの。……ただあの人の計画に巻き込まれただけの方が、罪の意識を感じる必要なんてありません。それに……」
 あの人の計画。
 引っかかる単語について更に訊ねようとした男は、しかし舌を動かすより先に眼下の光景に意識を奪われた。
 とは言えなんのことはない。天使が軽く俯いて、淡く頬を染めているだけのこと。ここに至るまでの数多くの出来事のせいでもう化粧は汗に滲んでほとんど落ちていたが、しかし男にとってはこれまで以上の破壊力を持って、娘はこちらが切なくなるほどひたと彼を見つめ、囁くように呟いた。
「あなたに、知っている人を殺してほしくないと。傷付けてほしくないと、そう思うのは、わたくしのわがままなのでしょうか……?」
 ――あのときの。娘があの男を殺すとの宣言されたときの自分と、全く同じ気持ちだったのか。
 また、鼓動が早くなっていく。頭の中が熱を持ち、冷静な思考などろくに巡らせていられなくなる。しかし彼は喉の奥から声を振り絞る。浮かれそうになる己を殺す。
「何故そう思った。俺が躊躇いなく敵対するものを屠るのは、お前とて知っているだろうが」
「何故って……」
 なのに。なのに。
 娘は小さく息を飲み込んで、頬をますます鮮やかな色に染めながらぎこちなくも照れ臭そうに笑って。
「それは……あなたはわたくしの、大切なひとだから? わたくしの大切な……」
 堪らなかった。我慢できなかった。冷静になるなど無理だった。
 黒手袋を越えてそのむき出しの腕を、肩を引き寄せ抱き締める。
 小さな悲鳴が胸に転がる。髪の匂い。汗のにおい。温かさに確かな重み。肌に触れた白手袋が僅かに湿るが、それさえもぞくりと脊髄からの戦慄を呼び寄せて、男は熱い息を吐き出すと反射的に顔を上げた娘の唇をひたと見つめ。
 甘そうだと思った。温かそうだと思った。触れてしまえば蕩けそうだと思った。確認したくなった。
 ああ、しよう。


[↑]

ご帰還

2012/04/15

 魔力の揺らぎを感じたのは、半ば偶然に近い。
 普段なら時空間の使用程度、逐一感知していられるほど暇ではないし、ついでに今は酷く消耗していたから彼らの帰宅についても朝になるまで見逃す可能性が大きかろうと珍しく諦め気味に考えていたのだがなかなかどうして。
 この胆力も日頃貪り食っていたイワシが与えてくれたのだろうと苦しい自己満足に浸りながら、痩身の吸血鬼はよっこら椅子から立ち上がり、いまだ手つかずのままで残された数々の書類の塔を避けながら、書類机や本棚やらに手を添えつつ執務室の外を覗き込む。
 幸い、魔翔族や怪鳥族、死告族や夜魔族、魔獣族その他諸々はいないようだ。手足が棒切れのような呪術師たちも、魔物たちを鼓舞する魔物使いたちも、あの忌まわしい男魔法使いたちもいないと知らされ、青年は思いきり安堵の息を吐いた。
 いやたかがそれしきで安心している場合ではない。我に返り背筋を伸ばした吸血鬼は、しかし相変わらず体力は意識を失い倒れ伏す一歩手前のままであるため控えの間からも壁を伝うようにして横切って、薄く開けた扉の隙間から廊下にそっと意識を配る。
 しかしこちらもまた誰の気配もない。もう見張りの必要もない時間帯だと判断したのか。
 時計を見るのを忘れていたが、かと言って確認しに戻るのも酷く億劫だ。それでも深夜を知らせる鐘は聞いていなかったように思うし、まだ日付が変わっていないはず、いやそうであってくれと願いながら廊下に這い出る。
 扉を開ける動作に足下が崩れかけたがどうにか踏み留まり、窓際の壁に手を添えながらどちらが玄関だったかを思い出そうとする。しかしそれさえも困難になるほど自分を弱らせるとは、容赦なく痛めつけてきた連中と彼らを指揮した執事に賞賛を送りたくなるが、同時に少し恨めしい。ここまでするなら執務室にイワシ一尾くらい残してくれてもいいだろうと口先を尖らせたくなったが、敗者に情けをかけるほどの慈悲を悪魔に求めるのは些かなおかしな話かもしれない。
「……んぐ」
 歯を食い縛り、確かこちらだったはずだと玄関がある方向へのろのろと歩みを進める。多分に蝸牛と競争すればいい勝負になるほどの遅さだったが、本人は必死である。
 しかしこれで誰かに見つかりでもしたらどうしたものか。事情を知らない党員やプリニーに説明できるほどの余裕はないし、かと言って事情を知るどころかあの自分を苦しめてきた面々のうちの誰かに見つかるのも全くありがたくない。
 それより先にあの天使の娘に出会いたいが、恐らくその隣にはあの四百年前の己がいて、ぼろ雑巾一歩手前の自分を見れば鼻で笑い飛ばすだろうと思えば臓腑が煮えくり返る。大体自分がこんな目に遭ったのはあれのせいだろうに。
 恨み辛みとはやはり悪魔にとってのエネルギーになりうるものなのか。痩躯の青年は執務室の椅子から立ち上がったときよりも多少しっかりとした足取りを取り戻し、玄関のほうへとより歩みを早める。
 廊下に灯る明かりは最低限で、窓の外から入り込む月明かりも、あとは沈んでいくばかりの低空に漂っているためあまり頼れるものではない。だから夜目が利くとは言え、体力の限界による視界の霞みも加わってあまり遠くを見れそうにない彼が真っ先に会いたかったものの存在を感じ取ったのは、視覚ではなく聴覚によって。
「……では、な」
「ええ。お休みなさい……」
 短いながらもそれぞれしっかり聞き覚えのある声の掛け合いに、吸血鬼の胸が逸る。
 もっと急ごうか。それともあの忌々しい過去の自分が完全に出て行くまで待とうかと僅かに逡巡したが、結局前者を選んで壁に手を添えたままもたつきながら早歩きで向かった彼に、桃色髪の天使の娘の驚愕の表情が見止められたのは数十秒後。普段と違う金のかかった貴人らしい装いはやはりため息が出るほど美しかったが、髪やスカートが多少不自然に乱れているように見えるのは何故なのか。
「あ、ある……」
「ちょっと、どうなさったんです!?」
 彼が話しかけるより先に男の姿を確認した娘は、その様子に暫し声を失っていたがすぐさま近寄りギガヒールを放って彼の傷を癒してくれた。直後降りかかった温かく心地良い光と浮遊感に、青年は吐息交じりの感謝を述べる。
「……うむ。助かった」
「助かったではありません。お屋敷の中なのにあんなぼろぼろでいるだなんて……一体どうされましたの?」
 浮遊感が抜けて以降は壁に手をつく必要もなくなり、軽く全身の皺やら汚れやらを手で払った青年は、どうしたものかと視線を明後日の方向に泳がせる。
「……いやその。大した話でもないのだが」
「大した話でもない割に、大したお怪我をなされているようでしたけれど?」
「…………む」
 こちらを心配しているからこそぴしゃり言い切る天使に気圧されて、青年は肩を落として降参、自分の情けなさを露呈しないよう、できうる限り正直に告白することにする。
「……その。お前たちが大統領府に向かったあとに、少し言いたいことがあったのを思い出したので席を立とうとしたのだが」
「あら、そうでしたの?」
「それをどう思ったものか、……フェンリッヒが誤解してしまってな。まあそれも結果的には解けたのだが、俺をここから一歩も出さんと、部隊を編成して襲いかかってきおった」
「まあ……」
 それは大変でしたと娘から同情たっぷりの視線を受けた青年は、内心後味の悪さを感じたもののなんとか口元を噤んで沈黙でやり過ごす。
 実際のところ、人狼の執事の予想と過去の己の事前の命令は間違ってはいなかったし、あの妨害がなければこの吸血鬼はふたりの大統領府行きを全力で阻止しただろう。そうなればあの迷宮入りした『地獄連続爆発事故』の下手人が誰であるかも明確化する可能性があり、もっと言えば真実を知った娘から失望されたかもしれない。
 以上のことを冷静になって考えてみれば全力で主の行動を阻止した執事はやはり執事の鑑と称えてもいいかもしれないが、それはそれとしてやり過ぎではないかとも考えられ。大体あのとき手も足も出なかった自分の姿に銀髪の人狼はやたら活き活きとしていたような記憶があるのだがそれは錯覚なのだろうか。
「……奴め。いきなり夜魔どもで四方を取り囲んだと思ったら麻痺と忘却と堕落でこちらの足周りと戦力を大幅に削いだ上、更に念入りに死告族と怪鳥族の特性で技を使えなくさせて更にはあの魔法使いどもめも加わりちくちくと……」
「はいはい。恨み節は明日にでも伺いますから少しは落ち着いてくださいな」
 明日などとつれないことを口にされ一瞬落ち込んだ吸血鬼は、すぐ真っ先に訊ねるべきことを思い出し全身を軋ませた。
「そうだアルティナっ!」
「はい?」
「から……!」
 身体は無事か。奴に襲われたりはしていないかと問うはずが、澄んだ瞳の上目遣いにごっそりと勢いを削られる。しかも今宵、娘は気を抜けば見惚れるほど麗しく着飾っている訳で、化粧は落ちたらしいが破壊力は少なく見積もっても普段の五割り増し近い。
 まあ大統領府であの男と会う程度ならそんな危険な目に遭うことも――いや、もしやあの無作法な愚かものがふたりきりになった際つまみ食いをしようとしたかもしれない。察するにこの能天気な娘はあれを悪く思っていないようだし、血を吸う程度ならなどと接近を許してしまいそうでついでにうっかり身体の特に敏感なところに指を這わせて甘い声なぞ漏らさせたところでどうしたそのような悩ましい声など出していえそんなわたくし別になんともありませんけれどしかしお前の身体は随分と火照っているではないかそのままでは辛かろうよし俺が慰めてやるいえ待ってあのそのああそんなそこはだめぇなどと考えかけたところで激しく首を振って不快な妄想を追い払う。
 過去の自分の姿とは言え、最早他人と言っても相違ない青臭い粋がるだけの吸血鬼が、こちらおおよそ四百年近くお預けを喰らっている娘に先に手をつけられるなど想像でさえ胸が悪くなる。大体、もしそんなことがあれば娘は今日中に帰ってこなかったろうし、そうなったとしてもここまでけろっとしているものかいやまあ精神面は逞しいから平気な振りくらいはできるだろうが。
「……から?」
「あ。い、いやその……!」
 しかしここには彼一人だけではなく、この聡いはずなのに無防備な性質の悪い娘もいると自覚させられ、青年はもつれる舌をどうにか動かす。
「……か、身体は、無事か。何か、危険な目に遭ったり、怪我などしなかったか」
 結局紡がれた言葉は先程訊ねようとしたこととさして変わらない、過保護だと受け止められる程度の無難な問いかけで。
 当然、青年としてはにっこり笑われ平気ですわとの反応が返ってくるものだと予想していたのだが現実はさにあらじ。何とも表現に難しそうな、疲れの色濃い苦笑を浮かべられ、ぎょっと身構える羽目になった。
「……怪我は、幸いわたくしにはありませんでしたわ。けれどあの方もハゴス様も……その、わたくしが……」
「は? お前が?」
 しかし完全に予想の範疇外の発言を受け、全く事態が読めなくなったところで娘は慌てて言葉を重ねるものの、珍しく取り乱し気味でどうにも要領が悪い。
「いえ、あの、わたくしもできれば、平和的に解決したかったのですが、お二人とも頑固で、なかなか思うように落ち着いてくださらなくて……!」
「いや、とりあえずお前が落ち着けアルティナ。詳しい話は明日で構わんが、今は簡潔に、あそこで何があったか教えてくれ」
「は、はい……」
 青年の冷静な対応に言われた通り一応の落ち着きを取り戻した天使は、彼の手に促されるまま移動しつつゆっくりと語り始めた。
「……ハゴス様は、ご自分と、あのクローン悪魔の残党を人工『畏れ』エネルギーと一緒に処分しようと企んでおられたようです」
「残党……処分だと?」
「それらは全て、あの彼によって作られたハゴス様の罪の証であり……そのまま放置しておけば、魔界にとっての危険因子になりうると判断されたようですわ。けれどあなたはどうともなさろうとしないから、政拳交代後もおめおめと生き長らえたご自分ごと破壊してもらおうとしたのです……四百年前から訪れた、悪魔としての使命感と誇りを強く意識するあなたの手によって」
 説明を受け、青年の眉間に浅い皺が刻まれる。腕を組んだ女でさえも聞き取れるか曖昧なほど小さな声で、馬鹿馬鹿しいとのぼやきが漏れたが、彼女はそれを聞き流すことにした。
「あの方もクローン悪魔の件で随分怒っていらしたので、それをけしかけたハゴス様も殺す気でしたが……。その、結果からお知らせしますと、どうにかお二人とも止めることに成功しました」
 娘の報告は妙に白々しいものの、実際どうにかなったのなら今夜は無理強いすまいと吸血鬼は問いただしたい衝動を押さえつける。しかし言外に漂うものを彼なりに推理することくらいは自由なはずだ。
「……どうにか、とやらはあれか。麻酔銃を打ったとか、会話中、口の中に銃口を突っ込んで脅したとかそう言う方向性か」
「方向性、と言われましても……。そこまで粗暴なことはしていないと思うのですが……どう、なのでしょう?」
 詳しく話を聞かされていないのだからこちらに訊ねられても困る。そうしてまたも眉根を寄せた吸血鬼は、いやな考えを過ぎらせてしまい娘へとぎこちなく訊ねた。
「も、もしや色仕掛け、などはしておらんだろうな? 自分の身体を好きにしていいからハゴスを殺すな、など……」
「なっ……、申しておりません! だ、大体そんなこと、昔のあなたに通じますの!?」
「……相手と環境如何によっては考慮せんことはなくもないが……って待て! つまり貴様、色仕掛けが通じると確信を得れば実際に行ったと言うのか!?」
 それはそれで聞き捨てならない話だ。もしや今までの『徴収』活動でも似たようなことをしてきたのかと猛烈に押し寄せる不安から相手にかぶりつかんばかりの青年に、しかして娘は呆れの色濃い嘆息一つで杞憂を払拭する。
「行いません。そもそもそんな発想、今まで考えたこともありませんでしたし……はしたないじゃありませんか、そんなふうに自分の身体を取り引きに使うなんて」
 ぷくっと膨れた頬は、下品な話題を自分の身に当てはめられた恥辱と怒りに赤く、そんな彼女の清らかさを再度認識させられた男はまたも脱力した。前々から予感はしていたものの、今夜は色んな心臓に悪い。
「う、うむ……。そうだな、妙なことを訊いて悪かった……」
「本当です。……けれどあなたもお疲れのようですし、今回だけなら許して差し上げますわ」
 ついであっさりと頭を下げる青年に、くすりと天使は小悪魔めいた微笑を浮かべたものだから。
 その華やかな、だからこそいつも以上に鼓動を昂ぶらせてこちらの赤面を促す力を持った笑みに、しみじみと娘への感情を自覚してしまい吸血鬼は重苦い吐息をついた。そのついでに階段まで辿り着いたと察し、自然、ドレスの裾を踏まないようにエスコートすると対面する薄青い瞳が不思議そうに瞬く。
「……そう言えば、なんとなく流れのままにあなたにお任せしましたけれど、どこに向かっているのでしょう」
「今更聞くか。……お前の部屋だ。お前とて、随分疲れていたようなのでな。執務室で聞いてから帰すより、こちらのほうがかける時間も短くて済む」
「あら、気を遣っていただいて恐縮ですわ」
 本当に恐縮しているのかは不明だが、気兼ねのない笑顔で礼を言われるのは悪くない。鷹揚に頷き礼を受け入れた青年は、ここでようやく大切な、ああそれはそれはとても重要な本題に入ることにした。
「それで」
「はい?」
「……その。あいつの、ことについてだが」
「ハゴス様ですか? 例の件とやらについてでしたら……」
「違う。あいつだ。……その、お前と、あそこに一緒に行った」
「ああ、はい。四百年前のあなたが?」
 どうかなさいましたか、と言外に含んだ娘の声音に、どうかしたのかと訊きたいのはこちらだと青年はめいっぱいに顔をしかめながらも言葉を選ぶ。とは言えやはり率直を避けて、まあまあ無難な表現で。
「……お、お前を……、困らせるような真似はしなかったか」
「されましたわね」
「そうか、それなら……って待ておい!? 今なんと言った!?」
 痩躯の青年が叫んだのはよりにもよって音が反響しやすい階段の踊り場で、エスコートを受けるほど近い距離にいた天使は小さな悲鳴を漏らす。
 頭の中と階段にくわんくわんと響く木霊が数秒経ってようやく消え去ると、彼女は恨めしく相手を睨みつけた。
「もう、あなた今、何時だと思っていらっしゃるの? そんな大声で怒鳴らないでください」
「い、いやそれについては悪かったとは思うがそれよりお前、あいつに何を……!?」
「それは……」
 微かに言い淀んだ天使の娘の頬が、たかがそれだけの問いで巻き髪と同じくらいに鮮やかに赤くなってゆき。
 水色の瞳が、少ない月明かりに頼るばかりの屋敷の中でもきらり煌めいて、恥ずかしそうに伏せられたと思ったらすぐ瞬き対峙する相手をちらと盗み見る。
 その上で、彼女はとびきり可愛らしく、悪戯っぽく、絵画に描かれる恋する乙女そのものと言った風情で堪らなく魅力的になのに妖艶に、人差し指を唇の前に立てて笑った。
「……秘密です」
「はあ?」
 笑顔を目にして一瞬で意識を奪われかけた青年は、しかしその発言で一瞬で我に返って大いに焦る。あんなに思わせぶりな仕草を見せつけられておいて結局言わないなんて、詐欺にも近い。
「なんだそれは!? 困るようなことをされた上で秘密にする必要は一体どこにある!?」
「困るようなことはされましたけど解決したので秘密です。それにいくら仲間とは言え、プライベートにずかずかと足を踏み入れようとする真似はあまり感心いたしませんわよ、党首さん?」
「ぐ……!」
 党首としての立場を引き合いに出されると、途端苦しさを覚え一歩後退した吸血鬼の姿に天使はまたもくすくす笑って、あのときのことを思い出す。
 ――そう、あのとき。ふたりきりで大統領府からの帰り際。
 あなたは大切なひとですからと答えた彼女に、あの長身の青年は抱き締めてきたと思ったら唇まで奪おうとしてきて。
 さすがにそこまではと危機感を抱いた彼女は手中の金時計を楯にしてどうにかそれを防ぎきると、内心の動揺を押さえつけ、無理からに眉をきっと怒らせ睨みつけた。
「な……急に何をなさるんですか!?」
「それは俺の台詞だ。……何故いやがる」
 繊細な女心についてまるで理解しようとしない吸血鬼は、口付けの拒絶を受けても彼女の肩だの腰だのに無遠慮に手を添えたまま。
 いつかの守ってくれたときならともかく、今の状態ではそんな無法を見逃せなくて、娘は金時計で唇を庇ったままの体勢で大きく身じろいだ。端から見れば滑稽だろうが、彼女にとってはなかなか治まらない赤面を隠したい意図もある。
「い……いやがります! 段階を踏まえもせず、こんなことをされるだなんて……。わたくし、そこまではしたなくはありません!」
 天使の態度に男は何を見出したものか。暫しの沈黙がふたりを包むと、娘の身体に絡みついていた黒い両腕があっさりと放れた。
 解放された途端、鳥籠の扉を開けられた小鳥さながら彼から距離を取り激しく肩を上下させる娘に、無遠慮な問いかけが突き刺さる。
「段階とは何だ。何をすれば、お前は俺を受け入れる」
「だ、段階は、そう……、あの、告白、ですとか……」
「ああ、成る程」
 やけにあっさりと頷いた青年に、またしてもいやな予感を覚えた彼女は正しかった。
 背後からあくまで軽くドレスの裾を引っ張られ、そちらを振り向いた天使の娘が目にしたのは、あの男が。長い黒髪を襟足で一まとめにした、中世の貴族然とした誇り高き吸血鬼の青年が、恭しくもあっさりと自分の足元に跪き、自分の片手を優しく握ろうとする姿。
 触れてはいけない。手に取られてはいけないと反射的に腕を振り払おうとした彼女に、彼は今度は逃がさないとばかりにしっかりと捕捉してきて。
 必死で抵抗したはずなのに、またしても天使はあっさりと絡め取られ捕らえられる。黒い長身の男の腕の中、器用に羽を避けて細い肩を抱き竦められ、多分真っ赤になっているだろう耳朶の辺りに涼しい笑みが吹きかかった。
「乱暴はせん。お前の言う段階を踏まえるだけだ」
「そんな、こと……! もう止して、おからかいになるのは……」
「からかうつもりなどない。俺は本気だ」
「いや、やめて……」
「お前の全てを知りたい。お前の全てが欲しい。なんと言えばそれが許される?」
「だめ、待って、そんなこと言わないで……」
「……ああ。そうか」
 抵抗しているはずなのに。いやだと意思を示したはずなのに。
 それでも激流のように己の気持ちを貫こうとする彼に敵わず、混乱で今にも泣き出してしまいそうな娘に、青年はふと目を細めて。
 また手に取る。あの弾丸に貫かれた痕を残した右手で、黒いレース編みの手袋に包まれた女のしなやかな指を。
 指先にそっと唇を押し当てて。柔らかな感触と自分の体温とはまた具合の違う温かさに、じわり胸の杭の奥から熱が滲む。
 その上で言葉を、多くの悪魔が忌み嫌い、彼自身もまたいつかの過去なら馬鹿馬鹿しい、まやかしだ、自分には縁などないと一笑に伏した単語を。けれどつい先、涙で瞳を潤ませた娘の笑みを目撃した瞬間の落下していくような衝撃の中から見出してしまった、あの感情を。
「アルティナ」
「…………っ!」
 まずは女の、何より大切なこの天使の娘の名を添えた上で。
「お前をあい」
「待って!!」
 捧げる、はずだったのに。
 女の指が口の中に割り入る。思わずそれを噛みそうになった青年は、なめらかな肌触りに心地良い弾力の、しかし今となっては多少に忌々しさを覚えなくもない障害物をちらと眺めた。ついで真正面にいる、こんなものを自分の口に入れてでも告白を阻止した娘の表情を目にし、その気迫に鼻から呼気を抜く。
「待って。……それを言わないで」
 強い瞳だった。芯の入った眼差しだった。覚悟を決めた視線だった。
 なのにこちらに懇願し、この体勢でさえなければすがりつくように顔面を歪めて娘は頼む。
 わからない。
 芯からの嫌悪や拒絶は見られない。恥ずかしさと困惑を浮かべていても恐怖はない。だから自分の気持ちは受け入れられる。そう思ったのに、そんな顔でそんなことを頼んでくるなんて。
 前歯に突っ込まれた指を堪能することなく自ら首ごと動いて離してやると、青年は率直に訊ねる。左手は変わらず娘の二の腕に添えられたまま。
「何故だ。お前は先程段階を踏まえろと言った。俺はそれに則ろうとしているのに何故お前がそれを阻止する」
「……いけないからです。あなたがそれを言えば、わたくしはきっと拒絶できない」
「それは結構。ならば何も問題はない」
「あります! ……だってあなたは!」
 弾かれたように顔を上げておきながら、天使は視線を大きく彷徨わせる。しかしその上で何を決めたのか、強く言い放った。
「あなたは、四百年前のあのひとなんですから……!」
 喀血のごとき悲痛な叫びは無音の廊下に広がっていって、その余韻のせいだろうか。初恋の熱に浮かされた青年の頭が僅かに冷め、眉間に皺が寄った。
 直接的な表現を使わずとも、娘の態度に彼は無理から理解させられたのだ。
 あの痩躯の己を。一度娘と交わした約束を破り、以来血を吸わなくなったとか言う変わり果てた自分を、プリニー教育係となりこの魔界の事実上の支配者として書類漬けの日々を送るあの男を、この娘は愛しているのだと。
 だがそれがどうした。あの男がこの娘に迫らないなら自分が奪うまでのこと。何より先程、言っていたではないか。愛していると告白されれば、彼女はその気持ちを拒絶できないと――しかし翻せば、それは、つまり?
「わたくしは、……あなたを、一個人のあなたとして見れている自信がありません。四百年前、わたくしが出会った思い出の『吸血鬼さん』の虚像として、……決してあなたではない、未来のあなたの懐かしい姿としてしか、見れていない可能性があります!」
「……成る程」
 辛辣な分析に、青年は思わず歯を食い縛るように笑った。当然やせ我慢だ。残酷な娘の言葉にこの気持ちをそっくり冷まされてなるものかと、意地を張っている部分もある。
 そんな彼の心の痛みさえ予測できているのか。娘は痛ましげに瞼を伏せて、だが変わらぬ冷徹さで淡々と続けた。
「あなたは、そんな扱いを受けて平気でいられるはずがない。……たとえ今この場でいいと言ったとしても、それが本心のはずがありません」
「……そうかもな」
 なかなか自分に理解がある。
 だからこそ想いを受け取ってもらえないのが口惜しくて、吸血鬼は苛立ちながら尚も食い下がった。生憎とこれでも執念深いのだ。自分の気持ちにようやく気付き、その上で娘が欲しいと思ったから今こうして悪魔にとって唾棄すべき言葉さえ捧げる気でいるのに、これでは生殺しもいいところ。
「ならばどうすればいい? どうすれば、お前はただここにいる俺として、俺を受け入れる」
「……それは」
 またしても娘の視線が揺らぐ。顔が伏せられる。
 戸惑い歪められた柳眉、鮮やかに潤う瞳、きゅっと噛まれる瑞々しくいじらしい唇にどうしようもなく胸の奥を掻き立てられて、彼は告げる。いやもうこれでは切願に等しい。
「教えてくれ。……俺を試すと言うならそれでも構わぬ。お前を得るためなら、たとえどんなことであれ俺は厭わぬ」
「……どんな、ことでも……?」
「ああ」
 その言葉は、この天使にとって大いなる天啓、眼前に垂れる蜘蛛の糸だったのか。
 軽く目を見開くと、娘は一度固唾を飲んで、羽を揺らがせ後ろめたそうに、けれど覚悟を決めて。頬に硬質な線をみなぎらせ、真っ直ぐに彼を見据えてから、一言。
「……なら、待っていてください」
「待つ? ……お前が俺を俺として見る日が来るのをか」
 ゆっくりと、娘は首を横に振った。
 それだけの仕草に、何故か彼女の艶姿を目にしたときに嗅ぎ取ったあの八重の花の香りを鼻腔に感じてしまい眉を歪めた彼に、天使の娘は眩しげに目を細めて更に続ける。
「四百年待つと、約束してほしいのです」
「……四百年?」
「ええ。……もし本当にあなたが、わたくしを想っていてくださるのなら。その上で、わたくしにあの言葉を捧げてくださるのなら、四百年、待つと約束してください。それ以外では、わたくしはあなたのお気持ちを受け取れません」
「………………」
 それは、どう言う意味なのか。
 僅かの諦念さえ含んでいるのに晴れ晴れしくも切なげ笑みを浮かべる娘に、男は問う。
「もし四百年俺が待つ間に、俺がもとの時代に戻ればその約束はどうなる」
「そのときは、あなたがまたわたくしと会う方法探して待てばいいだけのこと」
「もし四百年俺が待つ間に、あいつがお前に同じ言葉を告げれば俺はどうなる」
「どうにもなりませんとも。四百年経ってもあなたがここにいらっしゃるなら、たとえわたくしはあのひととどんな関係であろうともあなたを受け入れます」
「…………」
 正直なところ、納得はできなかった。
 だがそれを受け入れるしか方法がないのなら、従うべきだと青年の一部が囁く。囁いた彼の一部は冷静なのか、必死なのか。いいやそのどちらでもない。未知の土地に胸躍らせる冒険者の心持ちだった。
 この娘は自分の本気を、三千世界の魔王の首を刈るのでも、恐怖の権化として宇宙に君臨するのでも、世に在る至高の宝を全て娘のものにしてやるのでもなく、ただひたすらの忍耐によって示せと告げているのだ。
 それはなんと単純な。しかしなんと困難な試練だろうと男は笑う。
 しかもただひたすら想いに身を焦がし待つのではなく、もとの世界に帰らない上で、あの男が娘に触れないように注意しつつ、しかも自分もまた娘へと過度に踏み込んではならない。
 ああ改めて考えればこの上なく面倒だ。だが、だからこそ胸の内に盛る炎の熱を感じ、成る程それほど困難な試練を乗り越えなければ天使は得られないものなのかと納得し、吸血鬼は獰猛に笑った。
「……いいだろう。それがお前の望みと言うなら、約束しよう。四百年後、必ずお前に言葉を捧げ、お前を俺のものにする」
「ええ。約束……覚えていてくださいね」
 天使の娘もまた応じるように、こちらは清く儚く笑う。
 過去の彼でさえ安易な約束で縛ってしまう自分のどうしようもなさに自己嫌悪を抱きながら。反面、これでいいと後ろ暗い自己満足に浸りながら。
 もしこの彼がもとの時代に戻り、その上で何も知らない人間だった頃の自分に出会ったとしても――またあの悲劇が、繰り返されることになったとしても。
 それでも憶えてくれるならば。四百年後、再会した自分にあの言葉を捧げてくれるのならば。きっと自分は受け入れる。喜んで、戸惑って、怖がって、けれどこれでもう死んでもいいと思えるくらいの激しい満足感で胸をいっぱいにしながら、受け入れるだろう。
 そう思うと、できれば眼前のこの彼が、四百年間血を絶ったあの彼であってほしいと願う自分にも気付き、やはり同一視していると遅蒔きに自覚した彼女は気の抜けた苦笑で肩を震わせた。
 そうして今。四百年前、彼女が人間だった頃に知り合った、おかしな吸血鬼の手に導かれながら。
「……やっぱり」
 わたくしがあなたが好きよと、溢れる想いをほんの少し零した娘に、前を歩く痩躯の青年は階段が終わったこともあり、足を止めて軽く彼女のほうに体を傾ける。
 唐突になにをと訊ねてくる愛しい血の色の視線に、しかしここは本心を綺麗に覆い隠すことにして、天使は白手袋に改めて導かれながら曖昧な笑みで誤魔化した。
「こんな格好もたまには悪くはありませんけれど、やっぱりいつものほうが気楽だと思いまして」
「……気楽とかそう言う問題かあれは。下着に近いぞ」
 苦虫を噛み潰したような顔でぼやいた吸血鬼に、娘はむっと眉を跳ね上げる。確かに露出が多く、慣れるまで色々と恥ずかしい思いはしたがそれでも天使長直々に用意してくれた装束を否定されるなど、いくら彼とは言え憤懣ものだ。それに何より。
「失礼ですわね! わたくしあの格好でも下着はちゃんと穿いています!」
 そこまで節度を忘れていないと胸を張って言い放った天使に、吸血鬼は大いに顔を赤くしてまたしても叫ぶ。
「そんな問題ではないわ!! と言うかその解釈はわざとか貴様!?」
「はい? 何がです?」
「……もういい何でもない。俺も疲れた」
 よくわからないが青年が疲れていそうなのは事実なので、はあと気の抜けた相槌を打った娘は進行方向へ首の位置を戻す。
 そうしてもうそろそろ到着するはずの自室の前に、黒い人影が見えたのは気のせいだろうかと多めに瞬きをしたところで、空気が少し変わった気がした。
「……何故こんなところにいる」
 それは間違いではなかったようだ。肌で感じ取れるほどの強い魔力に、隣を歩く吸血鬼の声が険を含む。話しかけられたのは自分ではなく、眼前の人影だと天使の娘が確信を得たのは、相手が一歩こちらに進み出たから。
 相手とは、先程別れの挨拶を交わしたばかりの長身の男。相変わらず不自然な皺一つも衣服に作らない黒い外套を蠢かせ、どこか優雅とさえ表現できる立ち振る舞いの黒髪の青年。
 そうして何より彼女をエスコートしている痩躯の吸血鬼の過去の姿が、約束を交わしたばかりで軽く気まずい顔をした天使にひたと視線を注いで口を開く。
「時計をそいつに貸したままにしていたのでな。返してもらいにきただけだ」
「時計だと?」
「……あ」
 確かにあのあと結果的に金時計を返していなかったと思い出し、天使は慌てて腕を外してもらいバッスルで膨らんだ腰から臀部にかけて探る。この辺りに確かコサージュだかリボンだかがどっしりと飾られていたので、鎖を引っかけるには最適だったのだ。
「そうでしたわ……。その、ごめんなさい、わたくしも忘れていて」
「構いはせん。明日でもよかったが、まあついでにな」
「……と言うかそんなところに引っかけるなお前は」
 頷き同意を示しつつどうにか時計をリボンから外し終えると、互いに睨み合う四百年を隔てたひとりの吸血鬼たちのうち、現在のほうから遠ざかり過去のほうへと遠慮がちに出向いた娘は、軽くこちらに差し出された白手袋に時計を納めた。
「ありがとうござ……きゃっ」
 と、ぱっと手首を掴まれてしまい、不用意な行動を想定していなかった天使は軽く飛び上がる。そんな彼女に男は薄ら笑いを浮かべて。
「貴様何を!?」
 背後から聞こえてきた呻きの過保護さに気を取られながらも、こんな趣味の悪い悪戯をしてくる今宵約束を交わした男へなるべく強く睨みつけようとした天使は、自分の手首を掴んだ白手袋の指先が、すうっと音も立てず上っていく光景を目にしてしまい。
 なんだかわからないが妙なざわめきを覚えつつ、しかし何をする気なのか皆目わからないためただ眺めるしかできない彼女の一際白く繊細できめ細やかな腕に、男の頭が近付いた。
 そして軽く、そこに何かが触れる。冷たくて、弾力を持っているものの指よりも柔らかくて、なめらかな感触の痛みのない何かが。
「は」
 そう、痛みはなかった。しかし肌に絶妙な、触れるか触れないかの曖昧さで、けれどやはり普通ではない肌触りの異物に撫でられたと思しき感覚に、そこが熱くて。熱くて熱くて火傷しそうに熱くなっていやもうこれでは全身に行き渡りそう。
 だと言うのに長身の青年は悠々と意地悪っぽい目つきで、薄青い瞳を限界まで見開き硬直している天使に笑いかける。
「お前との約束はあれを言わぬこと。つまりほかはお前が拒絶しない範囲でやっても問題ないと、そう捉えて構わんのだな?」
「……な。な。なななな……ッ!?」
 何を馬鹿なことを仰っているんですとか、何故そんな屁理屈がまかり通るとお思いになったんですかとか、何をしたんですかさっきのあれはいえけど答えなくて結構ですもう一度やらなくても結構ですと言うか二度とやらないでとか。様々な言葉が脳を駆け巡り結局まともに舌を動かせずにいる彼女の背後で。
「何をした貴様ァァァアァアッッ!!!」
 噴火と嵐が同時に巻き起こった。正確には違っていたが、まあ大体似たようなものが。
 髪やらドレスやらまで揺り動かんばかりの絶叫にようやく硬直が解けた天使を瞬時に通り越し、怒りで目を真っ赤にした痩躯の青年が長身の男の横っ面を殴り飛ばす――ところを腕を掴んでそれを防いだ。
 盛大な舌打ちに、眼前で何が起こったのか瞬時に理解できなかった娘の顔がまたも青くなる。赤くなったり青くなったり忙しないと、他人事めいていながらも青年はその様子をしっかりと見届けつつ鬱陶しいのに訊ねる。
「急に何をする」
「五月蝿い!! 俺の質問に答えない輩にはこちらも応じる必要などない!!」
 質問と一緒に襲ってくるような失礼な輩に、まあ道理かもしれないが唾を飛ばされつつ反論を受けるのはそれなりに不愉快である。
 未来の自分はなかなかに傍若無人らしいと今この場で一つ学んだ青年は、まだこちらに拳を食い込ませようとしている腕を頑として動かさず平然と答える。
「感謝ついでに改めて意思表示をしようと思い口付けた。痕を残すか迷ったが……あの反応を見るに残さずにいるのが無難らしい」
 さっきのほんの軽い口付けだけでも身体全体が真っ赤に染まるほどだったのに、そんなことをしてしまえばそのまま失神しかねないのではないかと、年若い吸血鬼は自称無難な判断に満足した。しかし失神するならしたで、娘を自室に連れて帰る口実ができたのではないかとの発想が浮かんでしまい、そうしなかった己に猛烈に後悔する。
 だがそこまで考えているとは全く知らぬ――知ったらその瞬間にあの大蝙蝠の暴帝を召喚していただろう――痩躯の吸血鬼は、一瞬唖然としていたがすぐに何故かこちらも顔を赤くした。男の、しかもあまり好ましくない相手の赤面とはあまり目に楽しい光景ではないが、こちらはなんとなくどす黒いような。つまり、怒りで頭に血が上っていると考えるべきか。
「くっ、口付けだと!? 貴様よくも俺を前にそんな……!」
「たかがそれしきで何を動揺している。よもやお前、童貞か?」
「違うに決まっているわ! 貴様が経験していることは既に……いやそんな話をしているのではない!!」
 尤もである。
 しかし空白の四百年のうち多少は味わっただろう女性経験くらい是非とも娘の前でお聞かせ願いたかったのだが、それはどうやら叶わぬ夢となったらしい。
 痩躯の青年は床を蹴り上げ身を捩ることで彼に腕を離させると、今度は空中からの踵落としで頭を狙ってきた。
「ええいとっととくたばらんかこの不埒者! 変態! 男の風上にも置けぬケダモノめが!」
「過去の自分に対して酷い言いようだな。……しかしこちらにも貴様に言いたいことは山ほどある」
 棒きれのように頼りない男の脚の連続攻撃を受け止め流した青年はせせら笑ってからそれを突き放し、攻撃を受けた分、しっかり反撃に躍り出ることにする。
 何せ今までは未来の自分に対し、党首としての立場もあるしほかにも色々と尊敬すべき部分があると考えていたのでこんなことになっても多少遠慮していた部分があるが、此度に到っては完全に恋敵と化したのだ。自分がよもや色恋沙汰で敵を作るとは思わなかったが、それはそれで別として、結果敵になった相手には容赦する気など一切ない。
 むしろこの場で完膚なきままに叩きのめし、ぼろ雑巾と相違ない姿を娘の目に晒させてやろう。そうすればきっと彼女はこの男に失望するはず。きっと自分に靡いてくれるはず。
「ちょっ、ちょっとおふたりとも……!」
 そうして拳を構えた彼の背後で愛しい天使の娘の悲鳴が聞こえてきたが、片目を瞑って笑いかけることで安心させてやろうと試みる。
 応援は高望みかもしれないが、勝利した暁には是非とも口付けでもいただきたいなんて不埒な思考を巡らせつつ長身の青年は眼前の敵に踊りかかったが――さて実際はどうなるものやら。


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後書き

2012/04/16

Q.どうなるのん?
A.極度の疲労とストレスでついに堪忍袋の緒がブチ切れたアルティナちゃんがふたりに威嚇射撃してバトル強制停止。石畳の上にふたり並んで正座させてお説教してついに停戦命令が出ます(内容:わたくしの目の黒いうちにまたおふたりで戦おうとしたら以降一切口を利きませんから!)(いや、お前の目は青いだろう)(黙らっしゃい!!)。
 フェさんよかったね! 少なくとも借金は増えないよ!

Q.なんでそれまで書かんのん?
A.『MISSION』は別名『暴君はじめてのおつかい』ですしお屋敷帰還後の喧嘩までは含んでませんしおすし!

 このためだけに後書き書いた感があるなと思いつつお疲れさまでございました、久々の連載です。『SHAMBLES』公開のあとわりとすぐに書き始めたのにPS3のセーブデータ壊れて必死でやり直したらフーデス編でモチベと執筆感覚が行方不明になってで今更ようやく完成と言う……。

 そんなこんなで以降各話解説。

ご出立
 実質『SHAMBLES』の続きですので、そこからこのエピソードの繋ぎ兼アルティナちゃんにとっての暴君描写兼暴君にとってのアルティナちゃん描写説明回。
 おめかしアルティナちゃんの髪型はなかなか定まりませんでしたが公開前にようやくサイドダウン(でぐぐってみてね!)で決定。ドレスはOPのあの白ドレスと対となるデザインを意識しました。
 暴君はバトルバカっぽくもあるしーと思って惚れたのに気付かず「ぬう……これが天使の力!?」な盛大な勘違いかましてるのは無理ありますかねごめんなさい。閣下との差別化をより明確にするためちょっとガキっぽい攻めキャラとして意識しました。閣下は最初からいいことなしでマジゴメン。
ご探索
 私が完全少女漫画な社交エピソード書ける訳ないじゃん。けどお前迫力ある戦闘描写もろくに書けないだろそうでした!
 当初はきちんとパーティーして悪魔貴族にちくちく苛められるアルティナちゃんを庇う暴君とか考えてましたがそんなベタな話書けるほど私少女漫画力高くないしアルティナちゃんが暴君に「やだ……カッコいい……」したら本気で三角関係でやきもきする少女漫画みたいになっちゃうし閣下が可哀想だろ! との理由から没に。
 アルティナちゃんの獲物はL0クルセイドですがPV2のあの専用武器っぽいのを使いたかったです本当は……。
ご到達
 ハゴスパパンと結託した源十郎パパがリアルタイムで暴君の戦いっぷりをモニタリングしてすげー今後に活用してーなんて展開も思い浮かびましたがそれ実際にやろうもんなら源十郎パパ逃げてー! になっちゃうのでこれも没。パパンが監視カメラ見てるのはその名残りです。
 暴君は本編8話のような状況に出くわせば閣下よりもブチ切れてそうで、それに協力した悪魔にも容赦なさそうだなーつーかあのクローン悪魔って地球滅ぼすための兵器として運用予定してたんだからあれだけしか造ってる訳じゃないよねどうすんだよ残りのやつ、と疑問を抱いたためこの展開に。我ながらハゴスパパン「死にたい」の下りは強引だなーと自覚はしていますはい……。
 ちなみにパパンの演説はまさに戦いでは解決しない金の問題で(しかも原因自分)ギギギしてる閣下的には余計なお世話っつーか言われんでもわかっとるわっつーか。アルティナちゃんの銃の腕前はSPDとHITが高いってつまりこう言うことかなと。あとここまで金時計フル活用するとは当初思いませんでした。
ご帰還
 迸る閣下への愛がネガティブメンタル童貞っぷりを強調して……うんごめんなさい本当に。暴君は好きな子に親身になってもらっただけでこいつ俺に惚れてるとか断定するレベルのポジティブメンタル童貞。結局メンタル童貞は変わらないのかよ当然じゃないですか!
 けどアルティナちゃんはやっぱり閣下のが好きと言うか夫婦してるとイイナーと。所謂『付き合ってないっつーか突き合ってない』関係ですね。表現お下品ですね今更ですが。
 自分を好きなまま四百年待っては閣下のお耳に入れば自分は条件クリアしてるとわかるからひみつひみつ。それとアルティナちゃん曰く段階も最終話のお前を守る宣言とエピローグ会話でやったようなもんだから、あとはあの台詞を言うだけかムードの問題なので暴君より立場は優位なはずなのに閣下に余裕が感じられないのはまあ……ネガティブメンタル童貞だしってことで……。


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デジタル原画集きたわぁ

2012/04/19

 公式18日発送予定って明記してあったから16日発送予定の尼選んで17日に来るのかしらとわくてかしてたら17日発送になっただけでなく(これはまあ仕方ないとして)、公式通販で18日どころか発売日翌日に届いた人がいるとか知ってちょっと曇ったりしましたが私は元気、です多分。あとちらっと調べたら素材数が2=600、3=700、4=500で更に曇ったりしましたがこれはもう仕方ないもんなのかしらん。
 基本デジタル素材集は各タイトル最後の公式グッズと認識していたので唐突に4の素材集が出るってことはこれで終わりなん? いやまだ追加DLC版アレンジサントラと設定資料集来るよな!? と戦々恐々しつつも、この時期にこいつが出るってことは残りのグッズ発売はまだまだ先なのね…となんとなく覚悟している次第であります。しかし電撃で発表した新作って、のいぢ版天界戦記って感じがするんですが。しかも面子完全ディスガイアシリーズの人たちじゃないですかー!
 つかDLCは遅れるし小説版は作者病気のため事実上ト書き一冊きりだしドラマCDも一枚きりだし漫画は発売一年経ってもエミちんデスコさえ未登場の超鈍足進行に加えて作者骨折だしフーデス編の尼のお値段見たらだだ余りなのわかるしなんつーか色々と恵まれないなD4!

 以下感想羅列。

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